(ブルームバーグ):トランプ米大統領はAI開発にブレーキをかけるよう呼びかけるアンソロピックのダリオ・アモデイ最高経営責任者(CEO)を激しく批判しているものの、AI分野で中国が米国に追いつくのを阻止する必要があるという点では一致している。だが、実際に中国の追い上げを食い止めるのは容易ではない。
アモデイ氏は、「We Must Pace the Frontier」と題した3800語の論考で、先端AI向け半導体を中国に販売しないことや半導体密輸の取り締まり強化、「権威主義国家の企業による無許可の蒸留」の阻止などを当局者に求めた。民主主義国は「可能な限り大きな」リードを維持すべきだとも訴え、バイデン前政権と同様の表現を使った。
トランプ氏は最先端の半導体や製造装置に対する輸出規制を維持する一方、エヌビディアの「H200」などの半導体を中国に販売することには前向きな姿勢も示している。中国政府は自国産業の育成を図るため、H200の使用を避けてきた。
トランプ政権はこれまで、東南アジアでの半導体密輸を取り締まる厳しい措置には踏み込んでいないほか、米国のAIシステムを使って組織的に蒸留を行ったことが判明した中国企業への制裁や事実上の禁輸措置「エンティティーリスト」指定にも慎重な姿勢を取っている。
米国にとって最大の課題は、中国の追い上げを抑えつつ、精密誘導ミサイルやドローンなどのハイテク製品に使われるレアアースについて、中国政府による輸出規制のさらなる強化を招かないことだ。トランプ大統領と習近平国家主席は昨年、関税引き下げと引き換えに中国がレアアースの供給を保証することで休戦に合意した。この合意は、習氏が来週ホワイトハウスを訪問する際に延長される可能性が高い。
ブルッキングズ研究所ジョン・L・ソーントン中国センターでフェローを務めるカイル・チャン氏は、「中国政府がレアアースの輸出規制など、より強力な報復手段を持つようになった今、米政府は慎重に行動しなければならない」と指摘。「また、米国のAIブームを支えるデータセンターは、多くの部品を中国に依存している」とも語る。
中国は規制にもかかわらず、AI分野で米国との差を着実に縮めている。習氏はテクノロジーのあらゆる領域で自立自強を実現するため、巨額の資金を投じている。中国は半導体生産ではなお後れを取っているものの、DeepSeek(ディープシーク)や月之暗面(ムーンショットAI)など企業が開発するAIモデルは、能力面で米国の最先端モデルとの差を縮めており、コストは数分の1にとどまる場合も多い。アンソロピックやOpenAIの市場シェアを脅かす構図となっている。
トランプ政権当局者や米安全保障機関、米AI開発企業はいずれも過去に、中国企業が米国のAIモデルから蒸留を行い、自社製品の開発に利用したと非難してきた。蒸留は、最先端モデルを使ってより電力効率の高いモデルを学習させる手法だ。AI開発企業が自社のモデルを使う場合は正当に利用できるが、許可なく行えば不適切な近道と見なされる。
米議員らも、米企業を不当に模倣していることが判明した中国企業に罰則を科す措置を検討している。さらに塞ぐのが難しい抜け穴は、中国側が東南アジアのクラウド・データセンターで米国の最先端半導体を遠隔で借りて利用できることだ。特に、トランプ氏が昨年の貿易戦争で東南アジアの多くの国との関係を悪化させたことが対応を難しくしている。
競争は世界各地にも広がっている。エヌビディアにとって中国最大の競合である華為技術(ファーウェイ)は、エジプト政府向けAIデータセンターの建設に応札しており、米政府は警戒を強め、対抗案の提示を急いでいる。
新アメリカ安全保障センター(CNAS)のシニアフェロー、ダニエル・レムラー氏は「AIを巡り、両国はいずれも戦略的競争で最も重要な分野の一つ、場合によっては最重要分野とみている」と指摘。同氏はバイデン前政権下の国務省でAI政策を担当し、2年前の初の米中AI対話にも参加した。
「しかし、両国の指導者や高官はイラン戦争やレアアースなど、他のあらゆる懸案との兼ね合いでAIを考えなければならない」とも述べた。
優位を維持するための競争は新たな緊張も生んでいる。米政府は、中国企業が蒸留と呼ばれる手法を使い、米AI研究機関の知的財産を「産業規模」で盗んでいるとの非難を一段と強めている。アンソロピックは先週、さらに踏み込み、ムーンショットAIが約30万件のユーザーリクエストをClaude経由で処理し、その結果を自社のものと見せかけたと主張した。
こうした問題は、24日の米中首脳会談に合わせて予定されるAI協議でも取り上げられる見通しだ。ホワイトハウス高官によると、来週の首脳会談でもAIが主要議題となる可能性が高い。同高官は、最近のAI安全性を巡る論争について、トランプ氏が複数のCEOと連絡を取り、意見を聞いていると話した。
中国は最近の米側の主張には根拠がないとして退け、競争を抑え込むために米政府が「ダブルスタンダード」を適用していると非難。中国企業に対する米国のさらなる措置には「断固」報復すると表明している。
復旦大学准教授でグローバルAI革新ガバナンスセンターのリサーチフェローを務める江天驕氏は、米国がAI分野で協力を望むのであれば、トランプ政権が輸出規制やエンティティーリスト指定などの「封じ込め措置」を撤廃するよう中国側も望んでいるとの見方を示す。
江氏は「中国は一貫して、特に機微な技術問題について対話を行うには、まず政治的な相互信頼が必要だと主張してきた」と指摘。「つまり、二国間関係に不要な摩擦を引き起こすことなく、相互尊重を確立するということだ」と述べた。
中国も、自国の安全保障上の懸念から蒸留の取り締まりを強化しようとしている可能性がある。淘宝(タオバオ)など電子商取引プラットフォームでは、業者がClaudeのアカウントへのチャージや、あらかじめ用意したアカウントを販売している。利用者からClaudeへの問い合わせは、中国国内のサービスを通じ、海外のプロキシサーバー経由で中継される。こうしたビジネスは「API中継所」と呼ばれている。
米中がAIについて前回協議した2024年5月時点では、米国が中国に大きく先行していた。中国がDeepSeekで世界に衝撃を与えるのはそれから数カ月後で、バイデン前政権の輸出規制に対抗する手段として、レアアースのサプライチェーンを利用してもいなかった。
その後、習氏はレアアースをてこに、3桁に達していた関税率を引き下げるようトランプ氏に迫ったほか、米の制裁対象となる中国企業を大幅に増やすことになる規則案を阻止した。
中国は、電気自動車(EV)やクリーンエネルギー関連機器、ドローンなど先端製造業の幅広い分野で、世界市場やサプライチェーンへの支配力を強めている。米政府は安全保障を理由に一部の中国製品を米市場から締め出すことで対抗しており、最近では中国製のヒト型ロボットや電力インバーターを事実上禁止した。これに対し中国政府は、ドローンの輸出規制を強化し、米国の団体・企業に制裁を科した。
事態はさらにエスカレートする可能性もある。中国によるクラウド経由でのエヌビディア製半導体への遠隔アクセスを制限する超党派の法案が、現在米議会に提出されている。半導体輸出規制を所管する米商務省産業安全保障局(BIS)も、この抜け穴を精査している。
ただ、実施は容易ではない可能性もある。
ブルッキングズ研究所のチャン氏は「東南アジアや日本を中心に、複数の国にまたがるデータセンターを一定程度監視する必要がある」と指摘。「中国による先端AI半導体へのアクセスを制限する他の取り組みと同様、できるかできないかの二者択一ではなく、どこまで制限し、そのためにどれだけ労力をかけるかという問題になる」と述べた。
原題:Trump Has Few Good Options to Slow China’s Rise as AI Superpower(抜粋)
--取材協力:Luz Ding、Zheping Huang、Hadriana Lowenkron、Josh Wingrove、Jordan Fabian.
もっと読むにはこちら bloomberg.com/jp
©2026 Bloomberg L.P.