(ブルームバーグ):ベッセント米財務長官が公然と円相場の押し上げに向けた圧力を強めていることで、日本銀行がかつてないペースで金融引き締めに踏み切るとの観測が強まっている。だが、日銀の行動が期待外れに終われば、市場を揺らす恐れがある。
ベッセント氏は8日、日銀の次の動きを巡り自身には「情報の非対称性」があると誇示。「胴元は私だ」と表明し、異例の口先介入に踏み込んだ。さらに、日銀だけにとどまらず、日本の「政策当局者」が何をしようとしているのかも把握していると主張した。
ベッセント氏は具体的に何を求めているのか明言しなかった。だが、先週には日本の当局者に対し、金利について「正しいことをする」よう促している。
市場はすでに来週の日銀会合で0.25ポイントの利上げが決まることを織り込み済みだ。このため、焦点はその後の追加利上げに移っており、植田和男総裁には、市場を失望させて最近の円高を逆戻りさせないよう、強いメッセージを打ち出すことが求められている。
元日銀調査統計局長でSOMPOインスティチュート・プラスの亀田制作エグゼクティブ・エコノミストは、ベッセント氏は市場の期待を過度に押し上げたと話す。一部では0.5ポイントの利上げや、連続利上げを織り込む動きも出ているという。
その上で、そうした利上げ観測は行き過ぎており、おそらく修正が必要になると指摘。日銀の対応が投資家の想定に届かなければ、その反動で円売りが再燃するリスクがあるとの見方を示した。
高市早苗首相は昨年の就任以降、急ピッチの利上げに慎重な姿勢を示す一方、低い借り入れコストが追い風となる積極的な財政政策を掲げてきた。
だが、ここにきて日本は金利引き上げが必要との異例のシグナルをベッセント氏が発信していることで、日本の当局者は重要な同盟国である米国との関係に配慮しつつ、世界の投資家の期待を集める景気回復の芽を摘まないよう、難しいかじ取りを迫られている。
日銀が来週利上げすれば、過去12カ月で3回目となり、過去30年余りで最速のペースになる。日銀当局者は、半年に一度より急ピッチの利上げに前向きな姿勢を示している一方、金融政策の先行きについては柔軟性を保ちたい考えだ。
ベッセント氏の発言は、米国債の最大の海外保有国である日本の経済政策に、同氏が深く踏み込んでいることを改めて浮き彫りにした。7月末には片山さつき財務相と連携し、1998年以来となる日米協調の円買い介入を実施した。
ベッセント氏はここ数カ月、日米の金利差縮小を促すため、日本に事実上の利上げを求めていた。ただ、日米が協調介入に踏み切ったのは、円が約40年ぶりの安値圏に沈んだ7月になってからだ。
今回の協調介入は、米国がユーロ売りを実施したとみられる点も含め、その特異な手法が大きな注目を集めた。ただ、米財務省の元当局者ブラッド・セッツァー氏の試算を基に英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)が報じたところによると、ベッセント氏が実際に投入した額は推定5億ドルにとどまった。
これは記者団の目に触れるよう置かれたベッセント氏の手元のメモに記されていた「50億-100億ドル規模の円買い」を大幅に下回る。これに対し、日本は15兆3993億円を投入し、月次ベースで過去最大の介入規模となった。
その後もベッセント氏は、自身の円支援の取り組みに逆張りする投資家をけん制する発言を繰り返してきた。こうした口先介入の効果もあり、円は1ドル=154円を超える円高・ドル安水準をつけた。これは日米協調介入時にも届かなかったレベルだ。9日のニューヨーク市場では、153円台後半で取引されている。
円を歴史的な安値水準から押し上げたという点において、ベッセント氏の口先介入は、マイナス金利とデフレの時代をようやく脱却した日本の政策当局者にとって助けになっているとの見方もできる。
効き過ぎるリスク
S&Pグローバルマーケットインテリジェンスの田口はるみ主席エコノミストは、日銀はベッセント氏の発言を好意的に受け止めていると話す。
その上で、日銀が着実に金融政策の正常化を進めるという姿勢は変わっておらず、ベッセント氏の発言は、その方向に国内世論をまとめる一助になっていると述べた。
もっとも、ベッセント氏の発言が効き過ぎれば、キャリートレードが一斉に巻き戻される恐れがある。
こうしたリスクは、2024年にも現実のものとなった。当時、日銀が市場の想定以上に金融引き締めに前向きな姿勢を示し、投資家を動揺させた。市場に衝撃が走る中で、日経平均株価は1日で12.4%急落。1987年のブラックマンデー以来の大幅な下げを記録した。
元日銀エコノミストでブルームバーグ・エコノミクスの木村太郎氏は、キャリートレードについて、円安局面では特にうまく機能するが、円高になると激しく逆回転し得ると指摘。ベッセント氏は日銀の政策判断に口を挟むことで、火遊びをしていると述べた。
原題:Bessent Yen Jawboning Risks Raising Expectations BOJ Can’t Meet(抜粋)
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