居酒屋で生まれる交流
立ち飲み屋にみる交流の実態
大阪府吹田市の立ち飲み屋1店舗を対象とした調査では、来店客130人のうち63.6%が他の客との会話があると回答し、41.4%は店で知り合いや飲み友達ができ、30.5%は店で知り合った人と店外でも交流していた。
居酒屋では、その場限りの会話だけでなく、顔見知りや店外の関係まで、異なる深さの接点が生じていることが分かる。
本稿で注目したいのは、個々の割合そのものよりも、同じ場所の中に複数の関わり方が共存している点である。短い会話だけで終わる人もいれば、再び顔を合わせるうちに知り合いとなり、その一部は店外の関係へ広がる。最初から親しい関係を求めなくても、自分に合った距離で他者と関われることは、日常の接点を考えるうえで重要な特徴である。
会話が生まれ、続く条件
居酒屋には、交流そのものを目的にしなくても、注文、料理、酒、店内で起きている出来事など、その場で共有できる話題がある。
飲酒を伴う場では、他者からどのように見られるかという自己呈示への意識などが変化し、普段より発言しやすくなる可能性も指摘されている。 会話の内容をあらかじめ用意して参加する必要がなく、その場にあるものから話し始められることは、最初の一言の負担を小さくする。
さらに、カウンターや客同士の距離、店員・店主を介したやりとりは、初対面同士が直接向き合う負担を和らげる。 一度の来店で関係を完成させる必要もない。短い会話で終わっても、再び同じ場所を訪れれば、挨拶や前回の会話の続きが生まれる。居酒屋の特徴は、会話の「始めやすさ」と、関係の「続けやすさ」が同じ場所にある点にある。
もっとも、立ち飲み屋は、客同士の距離が近く、カウンターを介して同じ方向を向きやすいなど、一般の居酒屋に比べて会話が生まれやすい条件を備えていると考えられる。一方、飲食という別の目的があること、酒や共通の話題があること、店員・店主が会話を媒介すること、繰り返し来店できることは、立ち飲み以外の居酒屋にもみられる。
したがって、立ち飲み屋で確認された交流のすべてが立ち飲みに固有のものではなく、通常の居酒屋でも同様のコミュニケーションが生じる可能性がある。本稿では、立ち飲み屋をコミュニケーションが生じやすい一例として用い、そこから居酒屋に共通し得る特徴と、日常的な接点として持つ意味を考える。
孤独感から考える日常の接点
外出から「話せる関係」まで
2章のクロス集計で述べた通り、孤独感の強い回答の割合について最も差の大きいカテゴリー間をみると、外出頻度では17.2ポイント、直接会って話す頻度では23.8ポイント、気軽に話せる相手の有無では38.9ポイントの差があった。
この結果から、本稿では日常の接点を、
(1)外へ出て他者と出会う可能性があること、
(2)実際に言葉を交わすこと、
(3)気軽に話せる関係が身近にあること、という三つの層で捉えたい。
外出は重要な入口であるが、孤独感を考えるうえでは、その先に会話があり、さらに「話せる相手」として関係が続いているかまでを見る必要がある。
つながりを目的にしない場の意味
ここで居酒屋が示すのは、「つながるために行く場」でなくても、人との接点は生まれ得るということである。交流会や地域活動では、人と関わること自体が参加理由になりやすい。
一方、居酒屋では主な目的は飲食であり、話すかどうか、どこまで関わるかをその場で選ぶことができる。挨拶だけでも、短い会話だけでも成立し、関わりたくない時には距離を置くこともできる。
この選択の余地があるからこそ、交流に積極的ではない人にも接点が開かれている。 つまり、居酒屋の特徴は「つながりを強く求めないが、つながる余地がある」ことにある。
孤独・孤立対策への示唆
孤独・孤立対策への示唆は、新しい交流の場を増やすことだけにあるのではない。生活圏の中に、
(1)別の目的で自然に立ち寄ることができる、
(2)最初の一言を始めやすい、
(3)同じ場所に繰り返し戻ることができる、という条件を備えた場所があるかを見ることも重要である。
居酒屋は、飲食という目的、共通の話題、酒による心理的な構えの変化、店員・店主を介した会話、再来店という要素が重なり、こうした条件を持ちやすい。
したがって、取組を評価する際にも、参加人数や利用回数だけでは十分ではない。そこで会話が生じたか、再び顔を合わせる相手ができたか、気軽に話せる関係につながったかという「接点の質」を見る必要がある。
本稿で居酒屋を取り上げるのは、こうした接点が生じ得る日常的な場の一例だからである。
居酒屋そのものを孤独・孤立対策の手段として位置づけるものではないが、飲食を主目的としながら、話すかどうかを選べ、繰り返し訪れる中で人とのゆるやかなつながりが生まれ得る点は、居酒屋が持つ社会的な価値の一つと考えられる。
重要なのは、生活圏の中に、人との関わり方を自分で選べ、接点を繰り返し持てる場所が存在することである。こうした日常の場を含めて地域のつながりを捉えることで、孤独・孤立対策をより生活に近いところから考えることができる。
おわりに
本稿から得られる示唆は、孤独・孤立への対応を「人を外へ出すこと」だけで捉えず、接点の頻度や、そこで生じる会話、関係の継続性に目を向けることである。
内閣府調査では、外出頻度、直接会って話す頻度、気軽に話せる相手の有無のいずれでも孤独感の分布に違いがみられ、とりわけ気軽に話せる相手の有無による差が大きかった。外出の機会を確保することに加え、その先で言葉を交わす機会があり、さらに日常的に話せる関係へつながっているかという視点が重要となる。
その具体例として立ち飲み屋の事例を重ねると、居酒屋は、孤独感を直接解消する場所というより、外出と会話の間、会話と「話せる関係」の間にある日常的な接点の一例として捉えられる。
飲食という別の目的があり、会話を強制されず、共通の話題や酒、店員・店主などが最初の一言を支え、再び訪れることで接点を重ねられる。
こうした点から、居酒屋には飲食の場としての役割に加え、人とのゆるやかな関わりが生まれる場としての価値もあると考えられる。ただし、孤独・孤立対策の観点で重要なのは、居酒屋そのものを目的化することではなく、「関わりへの負担が小さく、続け方を自分で選べる」という接点の性質に目を向けることである。
今後は、居酒屋の利用頻度、店内での会話、顔見知りの形成、気軽に話せる相手の有無、孤独感の関係を検証することが課題である。
(※情報提供、記事執筆:ニッセイ基礎研究所 社会研究部 研究員 島田 壮一郎)