天然ガス価格の急騰と政治リスクの高まりを背景に、欧州債の売りが加速している。フランス、イタリア、英国の長期の政府借り入れコストは過去1カ月、主要7カ国(G7)で最も大きく上昇し、国債利回りは数年ぶりの高水準に達した。

欧州域内では安全資産とされるドイツでも、投資家が30年債の購入に求める上乗せ利回りが2011年以来の大きさとなっている。

各国の財政が大きな圧力にさらされる中、投資家は新たなエネルギーショックを警戒している。天然ガス価格はイラン戦争の開始以来120%超上昇し、先週には3年ぶりの高値を付けた。これを受け、欧州中央銀行(ECB)が利上げを続けざるを得なくなるとの懸念が強まっている。ユーロ圏の今後1年間のインフレ見通しを示す指標は、5月以来の高水準に達した。

アリアンツの最高投資責任者(CIO)兼チーフエコノミストのルドビク・スブラン氏は、「欧州のエネルギー依存が再び注目されている。インフレ期待の上昇によって、市場が予想する中央銀行の政策金利の水準が切り上がったことが、長期債利回り上昇の大きな要因となっている」と指摘した。

天然ガス急騰

欧州の天然ガスの在庫余力は、この時期としては過去最低水準にある。政府や企業は夏の間購入を控えていたが、冬を前に貯蔵を進める中で、世界的な供給確保競争が激化しそうだ。価格は現在の水準より約40%高い1メガワット時=100ユーロ超に押し上げられる可能性がある。

RBCブルーベイ・アセット・マネジメントのマーク・ダウディング最高投資責任者(CIO)は「欧州は天然ガス価格の急騰に特に弱い。現実には、所得の低い新興・途上国には高値を払う余力がなく、欧州が実質的にそれを上回る価格を提示して買うことになる」と述べた。

米国では、インフレ懸念の主因は原油だが、価格は4月のピークをなお約20%下回っている。こうした違いは債券市場にも表れている。ドイツ10年債利回りは8月4日以降、24ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)上昇し約3.35%となった一方、米10年債利回りの上昇幅は14bpにとどまる。

スワップ市場は、欧州中央銀行(ECB)が今後1年間にさらに3回、各0.25ポイントの利上げをすると織り込んでおり、まずは9-10日の会合で利上げに踏み切るとみている。米国では、同期間に2回の利上げが見込まれている。

仮に米国とイランの和平合意に向けた協議が進展し、エネルギー価格へのショックが和らいだとしても、中央銀行は最初の価格急騰が経済全体に波及し、物価と賃金などが連鎖的に上昇する二次的影響を警戒している。また、海面水温が平年より高い状態となる「スーパーエルニーニョ」が今後数カ月以内に発生すれば、食料インフレを押し上げ、先行きをさらに不透明にする可能性がある。

政治リスク

債券トレーダーは欧州の政治情勢にも神経をとがらせている。各国政府は歳出拡大圧力が強まり、選挙も迫る中、2027年予算の編成を進めている。

フランス債は他国債に比べて軟調に推移している。来年、マクロン大統領の後継を争う候補者らが、巨額の政府債務と国内総生産(GDP)比5%超に上る財政赤字への対応を巡り、大きく異なる政策を打ち出しているためだ。ドイツ債とフランス債の利回り差(スプレッド)は、2012年の欧州債務危機以来の高水準付近に拡大している。

対照的にイタリア債は、メローニ首相の下で政治の安定と財政規律が続いてきたことが評価され、ドイツ債とのスプレッドが低下している。ただ、メローニ政権も来年には選挙を実施しなければならない。TSロンバードの欧州・グローバルマクロ担当ディレクター、ダビデ・オネリア氏はリスクとして、メローニ氏が新たな極右政党と組み、安定性に欠け、よりポピュリズム色の強い連立政権を発足させることを挙げた。

ドイツでは、ポピュリズムの台頭に企業が警戒感を募らせている。6日に東部ザクセン・アンハルト州で行われた議会選では、極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が勝利した。保守陣営内ですでに不満に直面しているメルツ首相への圧力が、さらに強まった格好だ。

ラボバンクのグローバルストラテジスト、マイケル・エブリー氏は、リポートで「近い将来、ポピュリストがもはや不満を抱く少数派ではなく、多数派となる可能性がある」と述べた。

影響波及

それでも、欧州債利回りの上昇は、市場の動きは行き過ぎだとみる投資家や、米国債への投資集中を分散しようとする資産運用会社からの買いを呼び込んでいる。

アビバ・インベスターズのシニアポートフォリオマネジャー、スティーブ・ライダー氏は、欧州債への投資を増やす一方、エネルギー価格によるリスクが続いていることから、インフレリスクをヘッジしている。UBSアセット・マネジメントのグローバル国債・通貨部門責任者、ケビン・チャオ氏は、ドイツ長期債を買っている。

欧州債は引き続き、他市場の動きが波及しやすい。米国経済の底堅い成長を受けた米国債の軟調な動きに加え、各国政府やテクノロジー企業による債券発行を受けた投資資金の奪い合いも影響しそうだ。

フランクリン・テンプルトンの欧州債券部門責任者、デービッド・ザーン氏は、欧州債売りの大部分は外部要因によるものだと指摘する。同氏は長期債の購入に「かなり近づいている」としながらも、ドイツ10年債利回りが3.5%近くまで上昇するのを待っている。

同氏は、「世界的に利回りが上昇しており、欧州もその影響を免れない。何がきっかけになれば利回り上昇が止まるのか、私には分からない」と語った。

原題:Bond Selloff is Hitting Europe Harder Than Anywhere Else (1)(抜粋)

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