世界の年金基金や保険会社の開示資料を精査すると、一つの特徴が浮かび上がる。それは、米国資産を大量に保有する一部の投資家はドル安への備えが乏しく、市場心理が突然悪化すれば、ドルが一段と大きく下落するリスクを抱えている、という事実だ。

ブルームバーグがこうしたデータを入手できる6市場の資料を基に算出したところ、日本、カナダ、台湾などの投資家による外貨エクスポージャーのヘッジ比率は6月30日時点でわずか41%と、少なくとも2015年以降で最低となった。

これは全体像を網羅するものではないものの、トランプ米大統領による世界的な関税導入を受け、昨年急速に広がったドル下落へのヘッジの動きが、ドルが徐々に安定するにつれて後退した様子がうかがえる。

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投資家はヘッジを縮小することで、過去10年の大半で機能してきた運用手法に回帰している。市場の変動が激しくなる局面では、ドルは上昇するか、少なくとも底堅さを保つ傾向がある。こうしたことが、米国株や米国債の損失を投資家が自国通貨に換算する際にクッションとして作用してきた。また、ヘッジには高いコストがかかるため、費用を払ってまで為替変動に備えるインセンティブに乏しかった。

高いヘッジコストと安全資産としてのドルの地位という、この戦略を支えてきた二つの柱が同時に揺らいでいることが、現在のリスクだ。

ドルは7-9月(第3四半期)に約2%下落し、G10通貨の大半に対して軟化している。米国の政策が通貨価値を低下させるとの見方に基づく「ディベースメント取引」が投資家の間で再び活発になっているためだ。

ベッセント米財務長官による円支援の日米協調介入や米国債利回りの上昇抑制に向けた動きも、こうした懸念を強めている。トランプ氏が金利低下を求める状況にあって、ウォーシュ連邦準備制度理事会(FRB)議長がインフレ抑制のため利上げに踏み切るかどうかを巡る疑念もある。

為替ヘッジでは、デリバティブ(金融派生商品)を使ってドルを売り、自国通貨を買うことで、為替変動から投資家を守る。米国資産は世界の投資ポートフォリオで大きな割合を占めるため、ヘッジの拡大は実質的にドル売りの増加を意味する。

資産運用会社ヌビーンでマクロクレジット部門を統括するローラ・クーパー氏は、「外国人投資家による米国資産の保有規模を踏まえると、ポジションが大きく変化しなくても影響は生じる」と指摘。「外国人投資家は米国資産を相当規模で保有しているため、ヘッジ比率のわずかな変化でも、為替市場で無視できない資金フローを生み出す可能性がある」と述べた。

ブルームバーグの試算によると、6市場の外貨建て資産4兆6000億ドル(約729兆円)を基にすると、ヘッジ比率が5ポイント上昇すれば、約2300億ドルの取引が発生する計算になる。6市場には日本、カナダ、台湾のほか、オーストラリア、デンマーク、フィンランドが含まれる。

この試算には英国やユーロ圏などの主要市場は含まれていないものの、対象国・地域だけでも米国資産の保有で大きな割合を占める。日本は米国債を保有する外国勢として世界最大で、海外保有分の約10%を占める。カナダと台湾も上位10カ国・地域に入っている。

50%超だったヘッジ比率は過去4年間で低下してきたが、その要因は変化しつつある。

まず、ヘッジコストを高止まりさせてきた金利差は縮小している。円を基準通貨とする投資家の3カ月物ドル・ヘッジコストは、2023年10月の6%をピークに低下し、4年ぶりの低水準となる2.75%まで下がった。ユーロを基準通貨とする投資家についても、2年ぶりの低水準となる1.32%まで低下している。

ヘッジ需要はこれまでも大きく変動してきた。ドイツ銀行のデータによると、1年前には米国資産に投資する為替ヘッジ付き上場投資信託(ETF)への資金流入が、ヘッジなしETFを2020年代で初めて上回った。現在はイランでの戦争とエネルギー価格の急騰がインフレ圧力を強め、世界の中央銀行を利上げ方向に促しており、米国との金利差は縮小している。

米国の金利の先行きは不透明だ。ウォーシュFRB議長の情報発信を受け、投資家は議長がどの程度積極的にインフレ抑制に取り組むのか判断しかねている。ウォーシュ議長が8月28日の講演で物価上昇圧力を抑えると表明したことで、利上げ観測が強まった。一方、11月の米中間選挙を控え、金利抑制を求めるトランプ政権からの圧力にも投資家は留意している。

マニュライフ・インベストメント・マネジメントのマルチアセット・ソリューションズ・チームで最高投資責任者(CIO)を務めるネイサン・スフト氏は、「市場が米利上げ観測をさらに後退させ、金利差が縮小し続ければ、投資家は再びヘッジを積み増し始める可能性がある」と指摘。「そうなればドルに継続的な売り圧力が生じる」との見方を示した。

ブルームバーグのストラテジスト、タチアナ・ダリエ氏は「政策への信認が金利差に代わって主要な相場変動要因となる中、ドルは名目・実質双方の利回りとの連動性を一段と失っている」と解説した。

オーストラリア最大級の政府系資産運用会社QICのマルチアセット・ソリューションズ部門責任者、スチュアート・シモンズ氏は、ドルへのエクスポージャーが70%を占める外貨バスケットをリスク回避の手段として頼る戦略は、もはや機能しない可能性があると指摘する。

シモンズ氏は「地政学的な不確実性が高まっている時代に、今後もドルがリスク回避の主要な手段になると本当に確信できるのか」と問い掛け、「われわれが推奨しているのは、他の選択肢にも目を向け、外貨バスケットの中でもう少し分散を確保することだ」と語った。

ドルの強さにも疑問が生じている。借り入れコストを抑えるため長期債の買い入れを拡大する米財務省の計画や、日米の円買い協調介入を受け、当局がドルを犠牲にして市場や他通貨を支えることも辞さないのではないかとの懸念が高まっている。

ドバイを拠点とするエクイティ・グループのチーフマーケット・ストラテジスト、ヌーレルディーン・アルハムリー氏は「市場が混乱する局面でドルが確実に上昇するとの投資家の確信が薄れれば、大規模な為替エクスポージャーをヘッジせずに抱える理由は乏しいと考える可能性がある」とコメントした。

投資家は米国資産を売却する必要はない。株式や米国債を保有し続けながら、ドルを先物で売ることで為替ヘッジを拡大できる。アルハムリー氏は「この違いは非常に重要だ。ドルに下押し圧力がかかる一方でも、米国資産への需要は比較的堅調に推移する可能性を意味する」と説明した。

日本

ヘッジ拡大に転じる余地が最も大きいのは、米国資産を大量に保有する投資家が多い日本かもしれない。ドイツ銀行による日本の投資家の推計でも同様の傾向が示されており、今年上期(1-6月)の新規外国債券購入に対するヘッジ比率は41%と、24年の62%から低下した。

ドイツ証券の大森翔央輝チーフ債券ストラテジストは、これほどヘッジ比率が低かった前回の2013年には、ドルは10年間にわたる強気相場に入りつつあったとし、現在のマクロ環境はむしろ当時とは正反対に近いと述べた。

大森氏は、ヘッジ拡大につながる潜在的な要因として、日米金利差を縮小させる日本銀行の追加利上げ、為替損失を拡大させてリスク管理委員会にヘッジ強化を促す可能性のあるドルの急落、為替変動に対する保険会社の許容度を低下させる新たなソルベンシー規制の三つを挙げた。

ウェルズ・ファーゴのストラテジスト、エリック・ネルソン氏は、為替ヘッジをドル相場のファンダメンタルズを左右する要因と見なすことには慎重な見方を表明。長期的には金融政策の影響が大きくなる可能性が高いと指摘した。それでも、ドル売りのコストが低下するにつれ、投資家がドルのヘッジを積み増す余地があるとみている。

ネルソン氏は、欧州のファンドが為替ヘッジをせずに米国株を大量に購入していることで、ユーロが主な恩恵を受けると予想している。「リスクオフ局面でドルが弱含む兆候が見られれば、為替ヘッジの動きが急速に変化し、ドル下落を加速させる可能性がある」と話した。

原題:World’s Unusually High Dollar Exposure Risks Fueling Selloff(抜粋)

--取材協力:Matthew Burgess、Marcus Wong.

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