米国では今、「空の巣」になったはずの家に再び子どもたちが戻ってきている。

親と同居する米国の若年成人の割合は、新型コロナウイルス禍に伴うロックダウン(都市封鎖)以来の高水準に迫っている。特定の危機が原因というわけではなく、住宅価格の高騰や根強いインフレ、低迷する労働市場、学生ローンの返済負担などが重なった結果だ。

子どもとの同居は、親の老後資金を圧迫しかねない。スライベントの調査によると、成人した子どもを経済的に支援している親の半数は家計への影響を感じており、5人に1人は必要であれば老後資金への積み立てを減らすと答えた。

スライベントの金融コンサルタント、ジーン・エルダー氏は、「親は本能的に子どもを助けられるなら助けたいと考える」とし、「親自身の財務計画に悪影響を及ぼすケースもある」と話す。

もっとも、子どもを支援することが、必ずしも老後資金を犠牲にすることにつながるわけではない。どこまで支援するかの線引きや、資産・相続計画への長期的な影響を織り込んでいるかどうかで、親の負担は大きく変わる。以下、気まずくなりがちな親子の話し合いに役立つポイントを紹介する。

最初にルールを決める

子どもが戻ってくる前に、親として何を引き受けるのかを明確にしておく必要がある。ファイナンシャルプランナーによると、成人した子どもを実家で暮らさせる費用は月約1500ドル(約24万円)、年間では約1万8000ドルに上る。期限や家を出る時期も含めてあらかじめルールを決めておけば、一時的な同居で終わる可能性が高まる。

家賃を取るか決める:ウェルス・エンハンスメント・グループの上級副社長兼ファイナンシャルアドバイザー、ダスティン・スミス氏は、当初は控えめな家賃を設定し、その後徐々に引き上げることを勧める。家賃が市場の実勢に近づけば、子どもはルームメートと住むほうが得だと判断するかもしれない。

相場より低い家賃なら、子どもは貯蓄しながらも、いずれ独立しようという経済的な動機を維持できる。そうした動機を完全になくしてしまうと、同居生活を終わらせることが難しくなると専門家は指摘する。

生活上のルールを決める:実家へ戻る子どもは、新卒とは限らない。別居中や離婚後だったり、子どもを育てていたり、ペットを連れてきたりすることもある。プライバシーや育児、来客、生活費の分担などについては、同居後ではなく事前に取り決めておくべきだ。

バンク・オブ・アメリカで高齢者向け資産設計部門の責任者を務めるシンシア・ハッチンス氏は、親が予想外の負担を背負う典型例として、末娘が独立した直後に、離婚した長女が子ども3人を連れて戻ってきたある夫婦のケースを紹介した。長女は退職した母親が孫の世話をするものと考え、現役で働く父親は家計を補うためにパートタイムの仕事を始めたという。

お金以外の貢献も決める:子どもの貢献は金銭だけとは限らない。仕事をしていない場合は、家の手入れや買い物、日常的な家事を担うこともできる。親の負担を減らすだけでなく、自立した生活に必要な習慣を身につけることにもつながる。

スミス氏は、車のオイル交換や芝刈りなど、持ち家で暮らす上で必要なことを経験させることが、自立への準備になると話す。

別の支援方法も検討する:支援の方法は同居だけに限らない。十分な資産を持つ親であれば、住宅購入時の頭金を援助したり、低金利の家族間融資を行ったりするほうが、長年にわたって住居費を負担するより、子どもの経済的自立を早められる場合もある。こう指摘するのは、チーム・ヒューインズの最高投資責任者(CIO)兼ファイナンシャルアドバイザー、ジョン・バッセル氏だ。

マイアミやサンフランシスコのように、初めて住宅を購入する層向けでも200万ドルを超える市場の顧客を担当する同氏は、近年では相続を待つのではなく、生前贈与や融資を通じて早めに資産を移転する親が増えていると話す。

守るべき家計の一線を決める

専門家によると、老後資金を十分に準備してきた人でも、成人した子どもへの長年の支援によって、知らないうちに退職後の生活設計が崩れているケースは珍しくない。

スミス氏は、「家を失うような事態には通常陥らないものの、どこかを大幅に切り詰めざるを得なくなる」と話す。「そのために引っ越しや70歳まで働き続けることを余儀なくされる場合もあり、大きな衝撃だ」という。

ハッチンス氏は、こうした事態を避けるには、成人した子どもとの同居にかかる費用の実態を把握することが重要だと話す。食費や光熱費、交通費、保険料、育児費用など、追加で発生する支出を試算した上で、子どもが数カ月ではなく3-5年間同居すると仮定して老後資金計画を検証すべきだと助言する。

親は子どもが支援を必要とする期間も、自分の老後資金が何歳まで必要になるかも甘く見がちだ。現在65歳で健康な人なら、100歳まで生きる可能性も十分あると同氏は指摘する。

財務計画のうち、譲れない部分を特定することも大事だ。子どもの支援によって老後資金への積み立てを減らしたり、緊急の蓄えを取り崩したり、退職時期を遅らせたりする必要があるなら、その代償を事前に十分検討すべきだと専門家は助言している。多額の贈与や融資は記録に残し、それが将来の相続にどう影響するかも家族へ説明しておくことが望ましい。

自立を後押しする

ハッチンス氏は、親の支援の目的は子どもの長期的な経済状況を改善することであり、生活をいつまでも支え続けることではないと強調する。

実家へ戻る機会を利用して、子どもの収入や債務、貯蓄目標を一緒に見直してもよい。収支が成り立たない場合は、収入を増やす、支出を減らす、追加の教育を受ける、転職するといった選択肢が考えられる。銀行や勤務先、金融アドバイザーが提供する資産形成に関する支援サービスも役立つ。

定期的に見直す

計画通りに進む家庭などほぼ皆無だ。当初は半年だけの予定だった同居が2年続くこともあれば、親の家計状況も短期間で様変わりし得る。

率直に話し合い、定期的に計画を見直すことが重要だと、ハッチンス氏は話す。人生にはさまざまな変化が起こるため、今は支援できても半年後には状況が大きく変わっている可能性があるからだ。

専門家自身も万能な方策はないと認めている。エルダー氏は、来年卒業する娘が就職先を決められなければ実家へ戻る可能性があるとみている。バッセル氏の娘も大学卒業後、修士課程を修了するまで実家に戻っており、卒業後も同居を続けるなら、その時点で改めて話し合う考えだという。

スミス氏の子どもはまだ在学中だが、すでに将来を見据えている。「子どもたち全員が良いスタートを切れるよう、常に気にかけている」

原題:How to Protect Your Money When an Adult Child Requires Support(抜粋)

もっと読むにはこちら bloomberg.com/jp

©2026 Bloomberg L.P.