要旨

・政府の概算要求は大きく膨らむが、実際の当初予算は抑制される。

・内閣改造での積極財政派の処遇が、今後の政権の財政運営を左右する。

・消費減税法案や今後の各種選挙が、財政政策の大きな争点となる。

高市政権は2027 年度から当初予算の作り方を見直しており、歳出規模が大きく膨らむ見込みだ。その端緒として、8月末締め切りの概算要求の規模感が注目されている。概算要求総額は、140 兆円を超える迫る勢いだ。ただ、作り方が見直されているが故に、実際の当初予算・歳出総額は概算要求ほど伸びない可能性がある。三文書改定に伴う防衛費増額、および食料品消費減税の財源が確保されるか否かなどを含め、年末の当初予算編成まで、財政運営の不透明感が燻りやすい。

高市政権の財政スタンスを見極める上では、予算編成と並行して、政局動向にも目を配る必要がある。目先は内閣改造・自民党役員人事が重要だ。また、秋の臨時国会で審議される消費減税法案は、財政面のみならず政局面でも注目材料だ。そして、2027 年秋の自民党総裁選、2028 年夏の参院選は、いずれも財政が争点となりやすい。

本稿では、当面の政治・財政イベントについて、予算編成関連と政局関連の2つを軸に整理、財政の行方を考察する。

予算編成と政局に注目

予算編成関連

◆ 概算要求

市場では2027年度予算の概算要求への注目度が高い。2027年度から当初予算の作り方が大きく見直され、歳出規模が大きく膨らむ可能性があるためだ。「骨太方針2026」に基き、①複数年度で管理する「強く豊かな日本」投資枠の創設、②賃金・物価上昇分の上乗せによる実質的な規模維持、③補正予算依存からの脱却、といった予算見直しが概算要求の段階から反映されている。①の枠では、各省庁は青天井の要求が可能となった。また、③に基づき、従来補正予算で計上していた類の歳出を概算要求に盛り込む動きもみられる。各省庁は8 月末の締め切りに向けて、概算要求を財務省に順次提出している。主要各紙は、一般会計の概算要求総額が「130兆円超」へ達すると報じた。その後の各省庁の要求状況を踏まえれば、一般会計ベースの概算要求総額は、140 兆円を超える勢いだ。本稿執筆時点の試算では139 兆円前後で着地の見込みだ。2026 年度の概算要求総額は122.4 兆円、当初予算の歳出総額は122.3 兆円と比べれば大幅な増加となりそうだ。青天井の要求が可能な「強く豊かな日本」投資枠については、本稿執筆時点で経済産業省など6省庁があわせて約8 兆円を要求しており、概算要求が膨らむ主因となっている。また、財務省は2027 年度の国債費の要求額を36.6 兆円程度とする模様だ。2026 年度の国債費の要求額(32.4 兆円)や予算額(31.3 兆円)を大きく上回る。足元の長期金利上昇を受け、2027 年度の想定金利を3.8%と前年度(要求時点2.6%、当初予算3.0%)から引き上げ、利払費が膨らむ。

◆ 年末の予算編成

近年、一般会計ベースの当初予算・歳出総額は、概算要求総額に概ね連動してきた。上述の通り、2026 年度は概算要求122.4 兆円に対し、当初予算が122.3 兆円となり、ほぼ一致した。

だが、2027 年度については、例年と作り方が異なるが故に、概算要求と当初予算の乖離が大きくなりやすい。2027 年度の概算要求総額は大きく膨らんでも、実際の当初予算編成では、歳出総額がさほど伸びないとみられる。

2027 年度の概算要求と当初予算はなぜ乖離が大きくなりやすいのか。まず、今回の概算要求では、一般会計ではなく特別会計で措置される予定の分も含まれることになる。「強く豊かな日本」投資枠のうち、経済安全保障上特に重要な分野等については、償還財源の裏付けのある「つなぎ国債」の発行により特別会計で別枠管理されることになるが、その振り分けは年末の予算編成で実施される見込みのためだ。

また、「強く豊かな日本」投資枠は青天井の要求が可能だが、一定の財政規律が働き、要求段階から抑えられる見込みだ。「骨太方針2026」では、「強く豊かな日本」投資枠のうち一般会計で措置される分について、「債務残高対GDP 比を安定的に引き下げていく中でも可能となる財政規模」にすると明記されている。

よって、8月末から9月初に掛けて概算要求総額が確定、「130 兆円超」の観測報道をさらに上回って140 兆円台への断層を伴うような拡大となる場合は、財政悪化懸念が一時的に高まるかもしれない。ただ、実際の当初予算は、財政目標を踏まえ、歳入面の動向も考慮して編成されることになり、野放図な歳出拡大とはならないだろう。いずれにせよ、年末の予算編成まで、財政運営の不透明感が燻りやすいだろう。

◆ 年末へ向けた注目点

財務省は各省庁からの概算要求を8 月末に締め切る。例年通りであれば、財務省は9 月以降に事業の必要性の査定等を行い、12 月中旬頃に予算原案をとりまとめて各省庁に内示する。大臣折衝などの最終調整を経て、政府は12 月下旬頃に2027 年度当初予算案を閣議決定する。上述の通り、年末の予算編成まで、財政運営の不透明感は燻りやすいが、予算編成の前の段階でいくつか注目点がある。

消費減税法案:政府・与党は、消費減税を含む税制改正大綱を9 月中旬頃にとりまとめる(15 日頃に閣議決定と目される)。臨時国会にて、消費減税の関連法案が提出、審議されよう。食料品消費減税は、2029 年度から「所得に連動したきめ細かな給付」を導入するまでのつなぎ措置に位置付けられているため、2年の時限措置とすることが法案にも盛り込まれよう。かつて木原官房長官が示唆した、減税を延長する景気条項などが盛り込まれるか否かが注目される。ただ、現時点でその可能性は低いだろう。食料品消費減税で悪影響を受ける外食産業や農林水産業へどのような支援措置が打ち出されるか、2027年度の歳出に影響するため注目される。なお、消費減税の財源について、片山財務相は12月第2週頃に示すと述べており、予算編成の段階まで待つ必要がある。秋の経済対策の有無:歴代政権は例年秋頃に大規模な経済対策を策定、補正予算を編成してきたが、これが見送られるか否かを見極める必要がある。高市政権は補正予算依存からの脱却を打ち出し、それに基づいて2027 年度当初予算を編成する方針だ。上述の通り、概算要求についても、補正予算依存からの脱却を踏まえて、各省庁は提出している。

防衛費増額:防衛省は2027 年度の防衛費として約8.9兆円を要求した。この水準は、2022 年末に策定された防衛力整備計画に基づく。当初予算における2027 年度の防衛費は、概算要求を上回る可能性が高い。高市政権は、年内に防衛力整備計画など三文書を改定、5年以内に防衛力の変革を実現する方針だ。当初予算には、三文書改定を踏まえた防衛費増額が反映されることになろう。なお、現行の防衛力整備計画は2027 年度に防衛費および関連経費をGDP 比2%、11兆円規模とする方針を提示しているが、名目GDP が上振れたことで、GDP 比2%は14兆円規模に相当する。GDP 比2%達成には、2027 年度の防衛費を約3兆円積み増す必要があり、更に三文書改定に伴う上乗せ分が生じる。単年度に防衛費を一気に膨らませるのか、そして「骨太方針2026」に明記された防衛費増額の財源確保が実際に行われるのかが注目される。

政局関連

◆ 内閣改造・自民党役員人事

高市政権の財政スタンスを見極める上では、予算編成と並行して、政局動向にも目を配る必要がある。目先は内閣改造・自民党役員人事が重要だ。官邸や党幹部から何らかの情報提供があったためか、8月21~22日に掛けて、主要各紙は日程や人事構想を巡る観測を相次いで報じた。

まず内閣改造の日程については、主要各紙とも「9月中下旬」が軸と報じている。混戦が予想される沖縄県知事選(9月13日)の後、かつシルバーウィーク(および高市首相訪米)の前後で調整が進んでいる模様だ。産経新聞(8月22日付け)は、臨時国会までの新閣僚の準備時間を確保するなどの理由から、候補日程の中で早めの9 月16、17日が有力と報じている。

財政の行方を見極める上で、まずは高市政権の継続性が注目される。高市首相にとって、政権継続の次なる関門は2027年秋の自民党総裁選であるため、今回の人事構想は総裁選再選を見据えて練られるはずだ。

総裁選におけるライバル(特に林氏)の処遇が重要となろう。また、高市政権が当面継続するとして、政権の財政に対するスタンスの変化も見極める必要がある。積極財政派の処遇が注目されよう。

総裁選ライバル(特に林氏)の処遇:高市首相以外で2025年秋の自民党総裁選に出馬したのは、小泉防衛相、林総務相、小林政調会長、茂木外相の4人だ。主要各紙報道に基づけば、小泉防衛相と茂木外相は留任が有力の模様だ。小林政調会長については留任もしくは重要閣僚への起用が取り沙汰されている。焦点となるのは、総裁選出馬への意欲を示している林総務相の処遇だ。林総務相が閣内にとどまれば、総裁選出馬が困難になる。高市首相にとって無投票による総裁再選が視野に入る。

なお、林総務相が閣内にとどまるか否かは、高市政権の財政スタンスにも多少なりとも影響する可能性がある。林総務相が閣内にとどまらず、総裁選実施の可能性が高まるのであれば、高市首相は麻生副総裁の意向への配慮を強める可能性がある。逆に、林総務相が閣内にとどまり、総裁選実施の可能性が低下するなら、高市首相は相対的に自らが望む政策を推進しやすい。

幹事長人事:主要各紙は鈴木幹事長の進退を焦点に挙げている。鈴木幹事長が交代するなら、高市首相と麻生副総裁に距離感が生じる、といった論調もみられる。だが、実際にはそう単純ではないだろう。幹事長の後任候補として萩生田幹事長代行が取り沙汰されているが、萩生田幹事長代行は高市首相と麻生副総裁のパイプ役として機能している模様だ。萩生田幹事長代行は、国民民主党に連立政権入りを呼び掛けるなど、このところ麻生副総裁の意向に配慮する発言もみられる。仮に高市首相が萩生田幹事長代行を幹事長に起用する場合は、麻生副総裁の了解を得ている、とみてよいだろう。

積極財政派の処遇:高市政権の財政スタンスを見極める上では、経済政策関連の要職に積極財政派の起用が維持されるか否かが注目されよう。現職では片山財務相と城内経済財政相の処遇が注目される。片山財務相については、「続投が確定的」との政府関係者の見方を8 月24 日付けでロイターが報じている。片山財務相は、元々は積極財政派として起用されたものの、OB として財務省の方針を理解しており、バランスを採るスタンスとみられる。片山財務相が退任となれば、後任次第で財政規律寄りにも積極財政寄りにも変わり得るが、現時点でサプライズが生じる可能性は低そうだ。城内経済財政相については、主要各紙から特段観測は出ていないが、高市首相と考えが近いことから、続投が有力だろう。もしくは、小林政調会長が閣僚起用の場合の後任に抜擢される可能性も取り沙汰されている。経済政策関連に限らず、積極財政派の閣僚や党役員への起用が増えるか否かも注目される。具体的には、青山環境副大臣や西田参院議員など大物のほか、中堅・若手から構成される「責任ある積極財政を推進する議員連盟」からの起用があるか注目される。なお、現在無所属である世耕元経産相の復党が間に合えば、要職に起用される可能性がある。

◆ 消費減税法案

秋の臨時国会で審議される消費減税法案について、財政面での注目点は上述の通りだが、政局にも影響し得る。

与党で3分の2超を有する衆議院においては、法案は問題なく可決するだろうが、少数与党の参議院において過半数を確保できるか否か微妙な情勢だ。「社会保障国民会議」での議論をみる限り、主要野党である立憲民主党や国民民主党、公明党からの賛成を得るのは難しそうだ。少数政党では、チームみらいは元々消費減税に否定的だ。日本保守党や無所属議員の賛成を得れば可決し得るが、与党から採決の意図的な欠席など造反行為が出る可能性も否定できない。

参議院で否決の場合、与党は衆議院で再可決を目指す可能性が高い。憲法59 条の規定によれば、衆議院で可決した法律案を参議院が否決した場合、もしくは参議院が法律案を受け取ってから60 日以内に議決しない場合、衆議院が元の案を出席議員の3 分の2 以上の賛成で再び可決すれば、法案が成立する。

いずれにせよ、衆議院や参議院の財政規律派から何らかの造反行為が出た場合、造反者は自民党内で処分され得る。その場合、財政規律派の影響力が落ちる可能性がある。

なお、参議院で否決の場合、高市首相は衆議院での再可決ではなく、衆議院解散に踏み切る、との見方も永田町には存在する模様だ。小泉政権による2005年の郵政解散が先例として意識されているようだ。ただ、衆議院において与党で(自民党単独でも)3分の2超を有する状況下では、可能性は低いだろう。

◆ 来年以降の重要イベント

2027年秋の自民党総裁選、2028年夏の参院選は、財政にとって重要イベントになる。まだ先の話であるが、現時点での注目点を整理する。

自民党総裁選:内閣改造・自民党役員人事の項目でも指摘の通り、そもそも自民党総裁選が2027 年秋に実施されるか否かが重要であろう。内閣改造における林総務相の去就が注目される。総裁選の予想は時期尚早だが、実施の場合は高市首相と林総務相の一騎打ちとなりそうだ。現職の総理総裁が出馬する場合、候補乱立とはなりづらい。財政規律派を含め、現在の非主流派(≒石破前政権における主流派)が林総務相を支援しよう。すなわち、政策面では、積極財政の是非が争点となりそうだ。

参院選:2028年夏の参院選は、タイミング的には食料品消費減税が争点となりやすい。消費減税は2027年4月から2年間の時限措置で実施される。消費減税法案にも明記されよう。だが、消費減税終了の約半年前のタイミングで参院選を迎える。現時点で食料品消費減税を批判している野党も、参院選の段階では、減税延長を主張しやすい。争点を潰すべく、高市政権も減税延長を検討する流れがあり得る。高市首相は、7月30日の記者会見において、「2年後には、私が責任をもって、確実に税率を元に戻す」と明言したものの、政策変更について参院で信を問うこともできる。高市首相が範とする安倍政権下では、消費増税延期の信を国政選挙で問うた例が2度ある。

(情報提供、記事執筆:SMBC日興証券日本担当シニアエコノミスト 宮前 耕也)

2026年8月26日発行レポートより転載