■要旨

・未婚女性の流出が、地域の出生率を人為的に押し上げる錯覚。

・東京都のデータが、高出生率エリアでの深刻な少子化を証明。

・自治体は、無意味な出生率比較を捨て若年女性の定着を推進。

女性の人流を無視した出生率による少子化測定

1|合計特殊出生率の3要因

過去に合計特殊出生率(以下、出生率と表記)ついては何度も解説を行ってきたが、いくつかの自治体では、いまだに理解不十分なまま少子化測定の指標として用いられているケースが見受けられるため、出生率の高低を決定する3つの要因について、最初に簡潔に図解しておく。

出生率は、測定エリアに住む15歳から49歳までの各歳の女性を分母とし、同じ年齢の女性における①未婚女性割合、②(既婚者で)子を産む女性の割合、③エリア外との女性人流による社会増減、の3つの要因によって上下する。この3要因が綱引きした結果が出生率の高さ(女性1人あたりが生涯に持つだろう子の数の推計値)である。この3要因のうち「②子を産む女性の割合」は、ほぼ結婚生活支援が奏功する。昭和世代の「結婚していて当たり前が常識だった世代」が最も思いつきやすい少子化要因であり、高齢化が進む日本において一番、直感的理解ができる人々が多い要因ともいえるだろう。

しかし、これも何度もレポートで指摘してきたことなので詳細解説は省略するが、日本の少子化は「おばあちゃんの時代よりもお母さんの時代の方が、夫婦が子を持たなくなったから大幅な出生減が発生した」わけではない。

統計的には、初婚同士婚姻数が激減した分だけ、パラレルに出生数が激減した「初婚同士婚姻なくして、出生なし」が正解である。

水田で米がとれなくなったから米不足なのではなく、水田そのものが消失しているから米不足である、といったらイメージしやすいかもしれない。

筆者が研究所から未婚化が少子化の主因であると発表し始めたのは、2016年の「2つの出生力推移データが示す日本の「次世代育成力」課題の誤解-少子化社会データ再考:スルーされ続けた次世代育成の3ステップ構造-」からである。当時は少子化対策といえば子育て支援、つまりは妻が産まなくなったという既婚女性へのモラルハラスメントともいえるアンコンシャス・バイアスが日本を支配していた。10年経過して、ようやく出生率の高低の決定要因の1つである、「①未婚女性割合」が知られるようになってきた。しかし、あまりにも長い間「少子化対策=子育て支援」という「結婚していて当たり前」支援が社会の共通認識だった経緯から、政治・経済分野のトップ層の認知がいまだに低いと感じている。

そうはいっても、①未婚女性割合、②既婚者で子を産む女性割合、については、「結婚する女性が減れば出生数は減るから、女性1人当たり指標の出生率が低下する」「既婚女性が子を持たなければ出生数は減るから、女性1人当たり指標の出生率が低下する」であるため、出生数の低下=出生率の低下となり、出生率が下がることを少子化として見ることに問題は生じない。

問題は3つ目の要因、「③エリア外との女性人流による社会増減」の影響である。この計算構造がいまだに周知されておらず、意味のない出生率の高低で少子化度合いを判断してしまい、誤った判断をしている自治体が後を絶たない。

現在、日本の国内移動のメインプレイヤーは20代前半人口であり(東京に増加する一極集中人口の6割以上)、男性より女性の方が、過疎化したり過密化したりしていることを押えておきたい。

20代前半女性は国勢調査結果からその9割以上が未婚者(婚歴がない独身者)であり、特に20代前半で国内移動する人口は、未婚であるゆえに身軽に移動しているともいえる。

20代前半の未婚女性が地元(以下、イメージしやすいように地方部と総称)を去ることによって、地方部では「同じ年齢で結婚、出産する女性割合が高くなる」という「自動未婚化解消」現象が発生する。つまり、「①未婚女性割合」の変形バージョンが「③エリア外との女性人流による社会増減」であるが、厄介なことに、地元の未婚化割合は低下する(有配偶率は上昇する)ものの、そもそも地元で出生するはずだった女性がいなくなってしまうため、母親候補者数の減少による出生数の減少がセットとなってしまう。地元に残った女性が、いなくなった女性分も産まない限りは、母親世代と子世代の出生数はバランスしない。そのため、地元女性1人当たり指標である出生率は高止まり、もしくは微増しつつ、出生数は激減してしまう、といった状況が容易に発生する。

一方で、20代前半女性が6割以上を占める社会増先の東京都では、20代前半女性の「自動未婚化」(有配偶率の低下)が発生してしまい、出生率が低下する。しかし、母親候補が増加しているため、出生数は減らない、もしくは増加するという逆張りの現象が発生する。

東京都62市区町村の出生率と少子化の関係

1|東京都であっても9自治体は「参考値」(2018年)

47都道府県は年単位で出生率が公表されるが、市区町村は5年ごとにベイズ法によって測定された5年平均値が公表される。母親候補人口がそもそも少ないエリアでは、1人の女性の出産の有無が年単位では出生率の値に大きく反映されてしまうために、5年間の出生数の動きを加味した推計値が採用されている。

しかし、それもあくまで「そのエリアにいる女性が持ち上がりで年齢を重ねる」前提の話のため、女性の移動によって測定集団(計算分母)が変化してしまうことについての出生率への影響まで理解している人は多くはない。

そこで本稿では、東京都の市区町村における出生率の高低と、その測定期間における少子化(出生数の変化)の関係性を相関分析で分析する。果たして、出生率が高い自治体ほど少子化していない(出生数が減っていない)のだろうか。

最新の市区町村の出生率は、2018年から2022年の実績に基づいて計算されているため、2018年から2022年の5年間の市区町村出生率と、2018年から2022年の出生数の変化(2022年の出生数)/(2018年の出生数)の関係性を測定する。

ここで、2018年から2022年の出生数の変化(2022年の出生数)/(2018年の出生数)は、分母となる出生数があまりに少ない自治体では、1人の出生数の増減が割合測定に大きな影響を与えてしまい、増減率の比較に用いるには不適切となる点に留意が必要である。そこで本稿では、2018年の出生数が30人未満の東京都の自治体を比較分析から除外する。

比較の起点となる2018年の東京都の市区町村の出生数を多い順に並べたデータをみると、54位以下の9自治体が2018年時点ですでに出生数30人を切っていることがわかる。

東京都の最西部に位置するエリア以外はほとんどが諸島部であるため、地理的に考えても東京都の本島部のエリアと比べるのはいかがなものか、という話がデータでも示されている。この点でも、女性1人当たり指標という測定女性の母集団を完全にマスキングしてしまう出生率よりも、出生数という実数の変化をしっかり確認する方が、はるかに結果から得られる情報量が多い、ということもあわせて指摘しておきたい。

東京一極集中という言葉でまるで東京都全域が過密化しているようなイメージをもつかもしれないが、本島部であっても東京都の西側エリアでは出生数が20人もないエリアも存在している。

2|出生率と少子化は弱い関係性、しかも、高いエリアほど少子化傾向

2018年時点で出生数30を切る9自治体を除く53市区町における2018年から2022年の期間出生率と出生数維持水準(2022年出生数)/(2018年出生数)は、相関分析の結果、「弱い負の相関関係」となった。どういうことかというと、出生率の高いエリアほど、少子化が進んでいる傾向が若干みられる、という結果である。分散図を見ると、「出生率が高い方が少子化していない」という結果であれば、市区町の点は右肩上がりに並ばなければならないが、近似曲線は右肩下がりとなっていることが理解できるだろう。

このグラフからは「東京都の自治体の少子化対策の成果を出生率の高低で語ることは禁忌」であることが示されている。東京都は都としても、都内の自治体としても、移民を大量に受け入れて2025年は出生率が低下する一方で出生数が増加したカナダ型の構造をクリアに見せている。相関関係がないだけではなく、負の相関であるため、むしろ、出生率が高いエリアほど、少子化対策を頑張るか、少子化の要因=その自治体の特徴としてとらえなければならない。

「八丈町は女性の社会減によって出生率が高止まりしている」
(わずか5年で半減の大幅な少子化)

「豊島区は女性の社会増によって出生率が低く抑えられている」
(出生率が1.0を切るも、5年前の92%水準の出生数をキープし、東京都でベスト6位の少子化対策エリア)

といった、実態に即した結論を得ることができる。

出生率が低いことを盲目的に少子化であると信じて下されたブラックホール自治体といった汚名を得ていた自治体にとっては、データサイエンスに基づく判定が救世主となる結果である。

出生率比較は少子化対策の勝ち組を更に強くする魔法

筆者は研究者として、アンコンシャス・バイアスを可能な限り排除し、よりニュートラルに実態に即した提言ができるように日々、研究を続けてきており、女性社会減を上流とする大幅出生減による人口減少に苦しむ地方部からの分析依頼に多くの時間を費やしてきたが、最も強く感じている危機感は「出生率比較を止めない限り、地方部の未来はない」という点である。

今回の東京都の自治体少子化分析で明確になった通り、出生率比較は誤った判断を自治体の少子化対策にもたらしかねない。

誤った判断の典型例としては、

「八丈町は出生率が高いから、少子化が最も進んでいない」

「八丈町のように、自然が豊かで過密化していなくて、非都会的なところでしか女性は生みたくならない、または産めないのだ」

「出生率の高いところに若者を集めれば子どもが増えそうだ」

などである。

若い女性が未婚で山を下り、里を離れ、海を渡るからこそ、有配偶率が高止まりし、出生率が下がらない。若い女性が去れば去るほど高評価になりかねない出生率の計算構造に気づき、その事実に向き合って、出生数の実数をしっかり把握したうえで、「子ども真ん中」「地方創生」などの自治体政策をどのようにするか考えるべきであるという点では、1788のすべての自治体にあてはまる結果である。

「若年女性の定着なくして、出生なし」

人口サステナビリティの基本に立ち返り、自分(自らの世代)に都合の良い読み方に固執してしまうという「確証バイアスの罠」を排した先に、日本の人口の未来が開けてくることをデータは呼びかけている。

(※情報提供、記事執筆:ニッセイ基礎研究所 生活研究部 人口動態シニアリサーチャー 天野 馨南子 )