一見すると改善している雇用指標

インドの雇用指標は、表面的には改善している。定期労働力調査(PLFS)によると、15歳以上の失業率は2018年の6.0%から2025年には3.1%まで低下した。一方、労働参加率は同期間に約50%から約59%へ上昇した。労働参加率も上昇していることから、失業率の低下は、仕事探しを諦めて労働市場から退出する人が増えたことによるものではないとみられる。
失業率と労働参加率だけを見れば、雇用環境は順調に改善しているように映る。しかし、これらの指標から分かるのは、働いているか、仕事を探しているかという労働市場への参加状況であり、仕事の安定性や賃金、年間の就労日数、本人の教育水準に見合う仕事かどうかまでは分からない。
インドでは、失業給付などの所得保障が十分でないため、失業状態のまま求職を続けることが難しい。十分な収入が得られなくても、自営業や無給の家族労働、臨時・日雇い労働などに従事する人が少なくない。こうした人々は統計上では就業者に数えられるため、失業率は低く抑えられる。このため、インドの雇用問題を捉えるには、失業率だけでなく、若者の就職難や就業形態、就労日数といった雇用の質を見る必要がある。
若者が求めるのは安定雇用への入口
雇用問題の第一は、若者、とりわけ教育を受けた若者の就職難と職業ミスマッチである。

15歳以上の失業率が2025年に3%程度まで低下したのに対し、15~29歳の若年失業率は約10%と、全体の3倍以上の水準にある。若年失業率も2018年の17%台からは改善したが、若者が直面する就職環境はなお厳しい。
こうした若者の雇用不安を象徴するのが、「ゴキブリ人民党」の抗議運動である。5月には医学部入学試験NEETの問題漏えい疑惑が発覚し、試験が無効とされ、再試験が決まる混乱が生じた。そうしたなか、最高裁長官が失業中の若者を「ゴキブリ」にたとえた発言への反発から同党が生まれ、NEET問題を主要な争点に掲げて、6~7月には抗議運動が全国に広がった。ダルメンドラ・プラダン教育相が辞任し、自殺した学生の遺族に対する補償などの要求を政府が受け入れたほか、試験制度改革についても今後協議する方針を示したことから、抗議活動はいったん終了した。一連の運動の広がりには、試験制度への不信に加え、若者の失業問題と、政府の雇用対策に対する不満があった。