トピック:個人向け国債の強みと弱み
今年に入ってから、個人向け国債の利回り上昇が加速している。本日公表された8月募集・9月発行分の利回り(税引前)は、固定3年物が1.71%、固定5年物が2.06%、変動10年物が1.87%と、それぞれ昨年12月発行分に対し、0.7%~0.9%高い水準にある。なかでも固定5年物は、個人向け国債として初めて2%の節目を突破している。
(個人向け国債の強みと弱み)
まず、個人向け国債の特徴を確認すると、時価評価を行わないため価格変動がなく、国が債務不履行に陥らない限り元本が保証されている。利子の受け取りは半年毎に年2回で、発行から1年経過後は直前2回分(つまり1年分)の利子と引き換えにいつでも解約が可能な仕組みになっている(ちなみに、市場で売買される国債や新窓販国債、国債を組み込んだ投資信託は時価が変動するため、中途売却時に元本割れするリスクがある)。
現在は満期の異なる3種類が毎月発行されており、3年物と5年物が固定金利タイプ、10年物が変動金利タイプ(市場の国債利回りに応じて半年毎に適用利率が変動)となっている。

ここで、個人向け国債の販売動向を確認すると、2024年以降、販売額が増加傾向にある。とりわけ、今年7月までの累計販売額は5.2兆円と前年同期比で5割以上増加している。日銀による金融政策正常化や財政拡張観測、インフレ観測などを受けて、基準となる国債利回りが上昇したことで、個人向け国債の利回りが各種ともに大きく上昇したためだ。


もちろん、外国国債や社債に比べれば利回りは低いものの、価格変動リスクがなく、信用リスクも極めて低い金融商品としては高い利回りといえる。
実際、商品性が近い銀行の定期預金と比べると、個人向け国債の金利面での優位性は高まり続けている。個人向け国債と同じ期間の銀行定期預金金利(各行平均)との差は、2022~2024年頃から拡大傾向にある。直近のデータである今年7月時点では、個人向け国債の利回りが定期預金金利を1.0~1.3%も上回っている。個人向け国債の利回りは、仕組み上、この間の市場における国債利回り上昇の影響を強く反映する一方、定期預金金利の引き上げは比較的緩やかなためだ。
このように、個人向け国債は金利面において預金に対する優位性を高めている。さらに、安全性についても、個人向け国債に優位性がある。銀行の定期預金も、1金融機関につき預金者1人当たり元本1000万円とその利息までは預金保険制度の対象となるため、安全性が大きく見劣りするわけではない。ただし、1000万円を超える部分については、銀行の破綻時に損失が生じる可能性がある。これに対し、個人向け国債には保護金額の上限がなく、日本政府が債務不履行に陥らない限り、国が元本と利息の支払義務を負う。
国が債務不履行に陥る一方で、銀行預金が毀損を免れる事態も理論上はあり得る。ただし、そのような状況では、銀行経営も深刻な打撃を受けている可能性が高い。
また、金利上昇リスクへの対応力という面でも個人向け国債に分がある。10年物に限られるものの、市場の国債利回りに応じて半年ごとに適用利率が見直されるため、金利上昇時の機会損失をある程度抑えることができる。
一方、銀行預金と比較した場合の個人向け国債の弱点としては流動性が挙げられる。銀行の定期預金は、特殊なものを除き、いつでも中途解約が出来る(ただし、適用利率は下がる)。一方、個人向け国債は、死亡時や、災害救助法の適用対象となった大規模な自然災害によって被害を受けた場合を除き、原則として発行後1年間は中途換金ができない。さらに、手続きから着金までの期間も、定期預金が原則即日であるのに対し、個人向け国債は申込日を含めて概ね3営業日を要する。
なお、中途解約時の利息はケースバイケースだが、定期預金では減額され、個人向け国債では直前2回分(1年分)が差し引かれる。このため、保有期間が短い場合は、個人向け国債の方が不利になりやすい。
また、手続きの面でも個人向け国債はやや劣る。定期預金は普通預金口座があれば比較的簡単に始められるが、個人向け国債の購入には、銀行で専用口座を開設するか、証券口座を開設する必要がある。
以上の通り、個人向け国債にも弱点はあるものの、金利面での優位性が顕著に高まっており、相対的な魅力は増していると言えよう。特に、高齢期を迎え、価格変動リスクを取りづらくなった家計にとっては、必要な流動性を預金で確保したうえで、余裕資金の一部を個人向け国債に振り向けることは一考に値する。