求めなくても守られるAI相談へ~要望に表れにくいリスクを、事業者が先回りして考える

見えやすい機能なら、金融理解への自信が低い人も必要性を感じやすいでしょう。

見えにくい仕組みになると、保険やデータ利用に関する知識が前提となり、必要な条件を具体的に想起し、リスクの評価につながっている可能性があります。

逆に、リスクを知らなければ、評価や要望として言葉にしにくく、問題が起きた後で、初めて確認すべき点に気づくこともあります。

この状況を考えると、何を質問すべきか分からない人も利用するという前提で、相談の仕組みを整えることも欠かせないとも言えるのではないでしょうか。

こうした考え方は、金融行政が示す顧客保護の方向とも重なります。

金融庁の「顧客本位の業務運営に関する原則」では、金融事業者と顧客の間に情報の差があることを踏まえ、顧客の取引経験や金融知識に配慮した、明確で平易な情報提供を求めています。商品を選んだ理由や利益相反についても、顧客が理解できるように示すことが盛り込まれています。

2026年に公表された金融庁のAIディスカッションペーパー第1.1版では、顧客の理解を段階ごとに確認すること、回答の根拠や情報源を示すこと、いつでも有人対応へ移れること、会話記録や推薦の偏りを監視することなどが取組例として挙げられました。

また、海外でも、利用者の自発的な確認に頼らない方向が示されています。欧州委員会が2026年7月に公表したEU AI Act第50条のガイドラインでは、対話型AIの提供者に対し、利用者がAIとやり取りしていることを、原則として最初の対話時から明確に知らせるよう求めています。生命保険に特化したルールではありませんが、「AIだと気づいた人だけが注意すればよい」としない点は、本稿の問題意識と重なります。

実際、保険業界ではAIによる顧客対応や提案支援、顧客データの統合が進められつつあり、募集にAIを使う際の基準やガバナンスの明確化を求める声も出ています。

これまで、生命保険AI相談の価値は、AIに決めてもらうことよりも、利用者が自分で確かめ、納得して選べるよう支えることにあると考えてきた。今回の結果からは、選択肢や安全機能が用意されていても、何を確認すべきかに気づかなければ、十分に活用できない、という実態も見えてきました。

利用者が求めた安全だけを用意するのではなく、知らないために求められなかった安全にも備える。

保険のAI相談が広がる時代において、保険に詳しい人にも、詳しくない人にも届くAI相談を考えるなら、この視点が欠かせないと言えるでしょう。

(※情報提供、記事執筆:ニッセイ基礎研究所 生活研究部 主任研究員 小口 裕 )