■要旨

・大阪IRは、特定業種や時期における外国人労働者の需要を急増させることが見込まれる。
・制度変更により、建設や宿泊業での外国人材の獲得競争が一段と激化。
・国や自治体が、未定のカジノ在留資格や外国人の受入環境を整備する必要がある。

はじめに

大阪では2030年秋頃の開業を目指して、カジノやホテル、国際会議場などが併設される「統合型リゾート」(以下、IR)の開発事業が進められている。工事が進むのは、2025年10月に閉幕した大阪・関西万博の隣接地であり、万博会場の北側の約49.2万m2である。

大阪府・大阪市などの整備計画によると、近畿圏(福井県、滋賀県、京都府、大阪府、兵庫県、奈良県、和歌山県の2府5県)におけるIR開業の経済波及効果は、建設フェーズで約2.4兆円、IR運営フェーズ(開業3年目)で約1.1兆円になると見込まれている。また、雇用創出効果は、建設フェーズで約17.5万人、運営フェーズ(開業3年目)で約9.3万人とされ、IR施設完成後の同区域への来訪者数は、国内・海外を合わせて年間約2,000万人になると想定される。

他方で、IR工事や運営を担う雇用者については、総量の見込みは示されているものの、労働者の内訳はなく、外国人労働者がどの程度を担うことになるかは触れられていない。大阪IRは、宿泊・飲食サービス業など外国人労働者依存度の高い産業で構成されるため、IRが創出する雇用における外国人労働者の役割は、自然と大きくなる可能性が高い。

そこで本稿では、産業別の外国人労働者依存度に一定の仮定を置きながら、大阪IRが生む外国人労働者需要を試算し、その規模や課題について考察する。

試算方法

本試算では、国が認定した公式計画である整備計画を土台として、産業別の雇用創出効果に外国人労働者依存度を掛け合わせることで、外国人労働者需要を算出した。

建設フェーズは、工事が本格化する2025年4月から建設工事が終わる2030年夏頃までの約5年間を対象とし、運営フェーズは、開業3年目時点を対象とした。なお、同整備計画には、近畿圏の雇用創出効果(約9.3万人)とともに、その内数であるIR区域内の雇用創出効果(約1.5万人)も開示されていることから、両地域を対象とした分析を実施した。ただし、直接効果の部門別内訳は公表されていないため、整備計画に示された施設規模(ホテル約2,500室、テーブルゲーム約470台、夢洲シアター約 3,500 席など)をもとに、業界の標準的な人員を当てることで部門構成を推計した。

外国人依存度については、高位・中位・低位の3つのシナリオを設定した。最も保守的な低位ケースには、2025年10月時点における全国の産業別・外国人労働者依存度をそのまま置き、本試算の高位ケースには、人口減少下において外国人労働者依存度を高めてきたドイツの外国人労働者依存度16.7%(2025年6月時点)を一律で適用した。本試算のメイン・シナリオとなる中位ケースには、両シナリオの中間値を採用し、国内人材を優先しても埋められない人手不足を、外国人労働者が補うことを想定したケースとして位置づけた。

なお、本稿で試算した外国人労働者需要は、IRにより創出される雇用のうち、各シナリオで外国人労働者によって充足されると仮定した人数であり、企業への採用意向調査等に基づく需要予測ではない。

試算結果(全体)

1|近畿圏の外国人労働者需要

近畿圏で創出される外国人労働者需要は、建設は5年間の累計で約1.8万人、運営は開業3年目時点で約1.0万人と試算される。建設フェーズでは、外国人労働者需要が建設業に集中する一方、運営フェーズでは、宿泊・飲食サービス業など幅広い産業に分散する。これは2030年のIR開業を境に、外国人労働者需要の中心が、建設業からサービス業に大きく切り替わることを意味している。

なお、運営フェーズで創出される雇用には産業分野の偏りがある。その内訳は、宿泊・飲食サービス業で5,233人、清掃・警備・物品賃貸などのサービス業で2,086人であり、2分野で全体の約7割を占める。

2|IR区域内の外国人労働者需要

IR区域、すなわち夢洲のIR施設では、運営フェーズ(開業3年目)に1,645人の外国人労働者需要が生じると試算される。その内訳は、宿泊・飲食サービス業で894人、生活関連サービス業・娯楽業309人であり、2分野で全体の約7割を占める。

このうち生活関連サービス業・娯楽業には、テーブルゲームや電子ゲームなどを提供するカジノ事業が含まれており、外国人労働者需要にもこの部分が反映されている。

「業種」「時期」の集中がもたらす課題

1|建設業

建設業では、2025年から2030年の5年間で、延べ1.8万人(年平均3,662人)の外国人労働者需要が生じると試算される。近畿圏の建設業で就労する外国人労働者は、2025年10月時点において約2.8万人であり、単純年平均では2025年10月末の就労者数の約13%に相当する規模となる。

ただし、この規模の外国人労働者需要が、そのまま新規の流入につながるとは限らない。夢洲地区では、2022年10月に大阪・関西万博の会場工事が始まり、開幕1年前の2024年には大屋根リングやパビリオンなどの建設工事がピークを迎えて、2025年4月の開幕を経て人材需要は落ち着いている。IR工事は大阪・関西万博の準備と並行しながら、時期をずらして進行してきたため、万博工事から人材が円滑に移行していけば、需要の一部は吸収されると考えられる。従って、総量面でみた労働需給への影響は、一定程度緩和される可能性がある。むしろ、問題は「時期」の重なりである。

大阪府などの整備計画によると、IR工事は2025年4月に着工し、2030年夏頃に完成する計画が立てられている。この工程から考えると、IRにおける労働需要のピークは、躯体工事に設備や内装・外装工事などが重なる2028年頃になると予想される。この時期は、次に詳述するとおり、建設業における外国人労働需給の面で、とりわけ注意を要する時期にあたる。

ここ最近、建設業は人手不足を補う手段として、特定技能外国人への依存を高めているが、現在の増加ペースが続くと仮定した場合、2028年9月頃には分野別の受入れ枠が上限に達する計算となる。すでに2026年4月に上限に抵触した外食業では、特定技能外国人の新規受入れが停止され、企業の採用計画や出店計画に大きな影響が及んでいる。仮に、建設業でも同様の問題が生じれば、事前準備をしていても、少なからず影響を受けることが予想される。

加えて、建設業界は、技能労働者の高齢化という構造的な問題だけでなく、都市部の再開発計画や国土強靭化関連の工事などが重なることで、人手不足が一層深刻化するという問題も抱えている。大手・中堅のゼネコン企業などが加盟する一般社団法人日本建設業連合会の推計によると、過去10年間の生産性向上(15%程度)が今後も継続する保守的な場合でも、技能労働者の不足見込み数は、2025年の▲13.1万人から2030年には▲52.7万人の不足まで拡大するとされる。IR工事が完了するまでに、業界全体で着工時の4倍近くの人手不足が発生するとの見通しであり、外国人労働者の上限問題は、この逼迫にさらなる供給制約を課すものとなる。

こうした人手不足に大手企業は対応できたとしても、下請けとなる中小・零細企業では難しい場合があり、工期全体の遅れにつながるリスクは懸念される。

2|宿泊・飲食サービス業

宿泊・飲食サービス業では、開業3年目までに5,233人の外国人労働者需要が生じると試算される。これは、近畿圏の同分野で就労する外国人労働者の約10%に相当する。規模でみれば建設業ほど大きくはないが、増加ペースでみると注意を要する分野となる。

宿泊・飲食サービス業における外国人労働者需要の推移からは、開業1年目に必要となる外国人労働者は1,592人であるが、開業2年目には4,943人が必要となることがわかる。IR開業に伴って近畿圏で生じる外国人労働者需要が、この短期間に約3倍に急拡大し、周辺企業との人材獲得競争を強めることを示唆している。ここで生じる人材獲得競争は、これから先の外国人政策の変化を踏まえると、より激しいものとなる可能性が高い。

例えば、特定技能1号については、2029年4月に向こう5年間の新たな上限枠が設定されるが、この上限枠の拡大が小幅に留まれば早期に上限に到達し、企業が十分な採用数を確保できない事態も想定される。外国人労働者の誘致政策は高市政権の発足以降、受入れ拡大一辺倒からルール適合をより重視する方向に重心が移り、総量についても枠をはめる議論が進んでいる。不確実性は高いものの、2026年1月の見直しで上限枠が縮小されたように、この先の見直しにも厳しい見方が適用される可能性は十分にあり得る。

また2027年4月には、外国人の転籍要件が緩和される育成就労制度が始まる。育成就労制度は、技能実習制度の後継となる制度であり、一定期間就労した後、技能や日本語要件などの要件を満たせば、本人の意向による転籍が可能となる。転籍が可能となるまでの期間は、宿泊業で1年、外食業で2年とされており、採用がピークを迎える2030年頃には、転籍実績も増えて中途採用市場も立ち上がっていくことが見込まれる。

ここで生じる人材獲得競争は、次のメカニズムを通じて近畿圏に広く波及していく可能性がある。IR事業が必要とする高スキル人材が他社から転職してきた場合、転職元の企業は同じ階層で人材を採用するか、内部昇格によりポジションを埋めることになる。後者を選んだ場合、下位ポジションの欠員を、同様の方法で埋めることになる。その結果、欠員は当初のスキル層とは別のスキル層へと移動し、最終的には中小・零細企業で雇用される外国人材にまで人材獲得競争が及ぶことになる。地域の需要増と人材の流動化が重なり、企業間の人材獲得競争は一段と強まることが見込まれる。

3|生活関連サービス業・娯楽業

生活関連サービス業・娯楽業では、開業3年目までに309人の外国人労働者需要が生じると試算される。前述の2業種とは異なり、近畿圏全体ではなくIR施設での採用が中心となるため、人数規模自体は小さいが、ここには別種の問題が潜んでいる。すなわち、カジノ人材に適用される在留資格が明確になっていないという問題である。

例えば、建設業や宿泊業などで主要な戦力となる特定技能は、生産性向上や国内人材の確保に努めても、なお人材確保が難しい人手不足産業を対象としている。しかし、カジノやゲーミング業務は、これまで日本になかった産業であり、どの程度の人手不足が生じるか判断し難いという課題がある。また、高度人材として就労できる在留資格「技術・人文知識・国際業務」は、基本的に大学や専門学校で修得した専門知識やスキルを活用して、ホワイトカラー業務などに従事する資格であり、ディーラーなどの現場実務や接客業務には適用できない可能性が高い。加えて、IR整備法(特定複合観光施設区域整備法)には、カジノ管理委員会による厳格な適格性審査を経ていない者を、ディーラーなどのカジノ業務に従事させてはいけないとの厳格な規定があり、この点も在留資格の設定を複雑にしている。

在留資格が決まらなければ、職務範囲や在留期間などの募集要件を固められず、企業が国外から経験豊富な人材を呼び込む動きは制約される。とりわけ、家族帯同の可否は、外国人のライフ・プランに大きく影響するため重要である。日本の入管制度では、専門的・技術的分野の就労資格などにおいては家族帯同を認める一方、特定技能1号や育成就労制度などの在留資格には認めていない。

仮に、長期滞在が可能な在留資格が適用された場合、カジノ職種における外国人労働者への依存は長期化する可能性が高まる。カジノ分野における国内人材の供給能力は小さく、代替人材が育つまでには時間を要する。当面は、経験豊富な外国人労働者が上位ポジションに就きながら、国内人材を育成する形となる可能性は高いだろう。大阪府などの整備計画には、地元人材の活用を重視する方針が掲げられているものの、現実には外国人労働者に依存せざるを得ない可能性がある。

おわりに

本試算では、近畿圏で生じる外国人労働者需要は、開業3年目の外国人労働者需要が最も大きくなる高位ケースでも、昨年の年間増加数の3か月分程度に留まる。総量だけをみれば、近畿圏の外国人労働市場に与える負荷は限定的にもみえるが、業種や時期の集中まで踏まえると、特定分野では労働需給の逼迫や人材獲得競争を強める要因となり得る。

とりわけ、建設業、宿泊・飲食サービス業では、特定技能や育成就労などの制度変化が、人材確保の難易度を上げる可能性がある。企業には、早期採用や育成計画の策定、省人化や生産性向上などの取り組みが求められる。

また、カジノ人材が必要となるIR施設では、外国人労働者に適用される在留資格が定まらないことが、人材誘致を妨げる要因となりかねない。海外から経験豊富な人材を呼び込むためにも、国にはカジノ人材の在留資格を、早期に明確にすることが求められる。

IR開業後には、訪日外国人旅行者だけでなく定住する外国人労働者も増加する。自治体には、教育や医療、行政サービスなど、外国人が生活するための受入基盤を整え、外国人労働者から働く場所として選ばれる環境を整備していくことが求められる。

こうした企業・国・自治体それぞれの取り組みが、大阪IRをスムーズに船出させるための重要な条件になっていくと考えられる。

(※情報提供、記事執筆:ニッセイ基礎研究所 総合政策研究部 准主任研究員 鈴木 智也 )