(ブルームバーグ):1973年の資源危機と聞いて世界の多くの人が思い浮かべるのは、石油だろう。第4次中東戦争や緊迫した石油輸出国機構(OPEC)の会合、そしてガソリンスタンドに並ぶ長い行列が大きなニュースになった。
日本では、その数カ月前に起きた別の禁輸措置が、石油危機に匹敵するほどの心理的衝撃をもたらした。それが大豆ショックだ。1973年6月に当時のニクソン米大統領は食料インフレを抑制するため、大豆の輸出を停止した。当時、日本が輸入する大豆の約92%は米国産だった。
この措置は豆腐やみそ、しょうゆのサプライチェーンを直撃した。日本は、戦後の高度経済成長期を通じて続けてきた食料安全保障に対する自由放任的なスタンスを見直さざるを得なくなった。
この出来事は現在にも通じる教訓を示している。1973年と同様、日本は今、2つの資源ショックに直面している。1つはペルシャ湾からの石油、もう1つは中国から輸入してきたレアアース(希土類)やタングステンなどの重要鉱物だ。
大豆ショック時と同じように、後者への対応は問題の大きさに比べて十分とは言い難い。しかし、今になって分かるのは、日本政府の長期戦略を軽視すべきではないということだ。

重要鉱物を巡る直近の圧力は昨年、日本が台湾有事への対応を巡って中国と外交的対立を深めたことに端を発する。この対立をきっかけに、中国から日本へのタングステンとイットリウム、ジスプロシウム、テルビウムの輸出はほぼゼロに落ち込んだ。これは、高性能磁石や切削工具、兵器、レーザーの製造能力を大きく制約する。
中国共産党や政府系のメディアは「日本の脆弱(ぜいじゃく)さ」を突く力を誇示し、日本の「誤った安全保障路線」を改めるよう繰り返し圧力をかけている。しかし、こうした慢心は、かつて米国が日本の大豆政策を見下していた姿勢を思い起こさせる。
米農務省は1986年、エコノミストを起用し、1973年のショックが世界の油糧種子市場に与えた影響を分析した。このエコノミストが達した結論は、ほとんど影響がなかったというものだった。日本政府の備蓄は小さ過ぎ、効果が限定的で、ブラジルで代替サプライチェーンを構築しようとした試みも失敗したと見なされた。
しかし、今から振り返れば、この見方は致命的な誤りだった。日本は危機直後からブラジルの大豆ビジネス振興を図り、この報告書が公表されたころにようやく成果が表れ始めていた。現在、ブラジルの大豆生産は当時の約10倍となり、米国を追い抜き世界最大の生産国となっている。
代替手段
日本のレアアース戦略も、今同じような段階にあるのかもしれない。1980年代後半の大豆と同様、日本は以前から代替サプライヤーへの投資を静かに進めてきた。
中国との外交摩擦が2010年に起きた際、日本の資源安全保障機関である独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)は、オーストラリアのライナスへの支援を開始した。同社は中国以外では最大級のレアアース供給企業だ。

こうした取り組みにより、2010年代に最大の懸念だったネオジムやプラセオジムなど軽希土類を巡る中国の支配力は、次第に克服されつつある。15年前にはほぼゼロだった中国以外のレアアース生産は、現在では世界全体の約3分の1を占めるまでに拡大した。
この状況を踏まえ、中国はここ数年、ライナスが十分対応できていない重希土類へ重点を移した。ジスプロシウムとテルビウムに加え、磁気特性を高めるサマリウムが対象だ。
これらレアアースの採掘や精製は中国以外ではほぼ不可能と指摘する向きもあった。しかし、実際にはそうではないようだ。ライナスは過去1年間で3種類すべての精製を開始し、JOGMECと共に、豊富な鉱床が存在し得るマレーシア中部地域の調査も進めている。
これだけではない。JOGMECは最近発表されたフランスとマレーシアの共同事業にも資金を提供している。この事業は世界の重希土類需要の最大20%を供給できる可能性がある。
また、住友商事は米MPマテリアルズの大手顧客の1社だ。MPマテリアルズは米最大のレアアース鉱山を運営し、数カ月以内に重希土類の分離プラントを稼働させる予定となっている。ベルギーのソルベイはフランスで重希土類プラントを建設しており、ブラジル産鉱石を精製する計画だ。

それでも中国は、これら鉱物について自国の優位は揺るがないと考えているようだ。しかし、ほころびも見え始めている。欧米各社は人材確保を積極化。レアアース産業が中国に移る以前にこの分野で働いていた引退した専門家らの知見も活用している。
それに、レアアース関連の重要特許は中国企業ではなく、日本と米国が大半を保有している。中国が圧力の重点を重希土類に移したこと自体、ネオジムやプラセオジムを巡る締め付けが十分な成果を上げなかったことを暗に認めたようなものだ。
そして、その分野でもブラジルの大豆畑のように、中国以外でサプライチェーンが力強く立ち上がりつつある。
資源輸出国にとって最も古く、そして最も学ぶのが難しい教訓がある。それは、ほとんどの場合、顧客には代替手段があるということだ。
サプライヤーを信頼できないと考え始めた顧客は、必ず別の選択肢を探すようになる。かつて米国が大豆でそうした教訓を学んだように、今度は中国がそれを思い知ることになりそうだ。
(デービッド・フィックリング氏は気候変動とエネルギーを担当するブルームバーグ・オピニオンのコラムニストです。ブルームバーグ・ニュースやウォールストリート・ジャーナル、フィナンシャル・タイムズでの記者経験があります。このコラムの内容は個人の意見で、必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの見解を反映するものではありません)
原題:The Soy Shock Lesson for China on Rare Earths: David Fickling(抜粋)
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