(ブルームバーグ):政府が年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)や少額投資非課税制度(NISA)を使い国内金融資産への投資拡大を検討し始めたことについて、市場関係者は長期的に債券価格や円を押し上げる可能性がある半面、短期的に足元の金利上昇と円安の勢いを止めることは難しいとみている。
政府の一手で巨額の預貯金を国内の金融資産にシフトさせることができれば、国債にとって長期的な買い手が生まれ、円相場も下支えされるとの声がストラテジストやアナリストの間では多い。半面、高市政権の積極的な財政政策に対する警戒や日本銀行の利上げペースは緩やかにとどまるとの見方は変わっておらず、円の方向性は依然として大きい内外金利差が握っている。
片山さつき財務相は先週、GPIFなど国内年金基金に日本の金融資産にさらに投資してもらう方向で後押しする方策を追求すると表明。投資マネーの国内回帰が期待され、株式、債券、円がそろって上げるトリプル高となった。14日の閣議後会見でもGPIFのポートフォリオ修正に前向きな姿勢を示し、NISAの対象に日本国債を加える可能性にも言及した。
インフレの加速につながる金利の高騰や円安を止めたい政府の新たな一手が功を奏すれば、国内金融資産への流入規模は膨大なものとなりそうだ。仏銀ソシエテ・ジェネラルはGPIFのポートフォリオ比率の変更がなくても、現在の保有比率を許容レンジの上限に引き上げるだけで約12兆3000億円の日本国債の買い入れ余地があると試算した。
ドイツ銀行では、年金に追随し生命保険会社や個人投資家の国内回帰が進むと、最終的には最大4400億ドル(約71兆円)が日本の金融資産に流入すると分析している。
市場関係者が疑問視するのは、こうした日本政府のアイデアがいつ実行され、スピーディーに日本への資金回帰が起こる可能性だ。資産運用会社のヌーヴィンでグローバル投資ストラテジストを務めるローラ・クーパー氏は日本国債の急騰相場(金利は急低下)に飛びつくことに警鐘を鳴らす。
クーパー氏は、市場は長期債への投資を積極化させる姿勢を示していることは明らかだと指摘。片山財務相の発言で2027年度に国内への資金環流が加速する可能性はある半面、「財政政策や利上げの道筋でより明確な見通しが求められる」とし、引き続き日銀の国債買い入れ縮小や政府の国債増発の程度が相場の方向性を左右すると述べた。
国内投資を後押しする政策に市場の注目が高まったのは、政府・日銀が巨額の為替介入を行っても、円安の勢いを止められないからだ。円が対ドルで160円台に下落した後の今年4月28日か5月27日にかけ、過去最大となる11兆7300億円の円買い介入を実施したが、すぐに反落し約40年ぶりの安値圏で推移。22年、24年の介入後も結局円安トレンドに逆戻りした。
債券市場では金融政策の正常化を進める日銀が国債の買い入れを縮小させており、高市政権の物価高対策や成長促進策で国債が増発される分を民間部門が引き受ける必要性が以前より高まっている。年金基金や日本国債の主要投資家である生命保険会社に加え、ここ数十年にわたり高金利を求め海外資産に向かっていた個人の投資マネーがどれだけ国内に回帰するかが今後の焦点だ。
モルガン・スタンレーMUFG証券の杉崎弘一ストラテジストは、年金基金による超長期国債の買いは市場が想定しているほど増えないとみる。今回の政府の取り組みは国債だけというより国内投資全般にわたるもので、債券市場の観点で見れば「口先介入に過ぎない可能性がある」と言う。
市場では高市政権の積極的な財政出動への懸念が根強い上、インフレ傾向が続いているにもかかわらず、日銀の利上げは緩やかにとどまるとみる向きが多い。スワップ市場が織り込む利上げ確率は年内1回、利上げ幅も25ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)と小幅で、海外と比べ日本の金利水準が大きく見劣りしている状況に変わりはない。
ラボバンクの為替戦略責任者、ジェーン・フォーリー氏は、日本の財務省は「為替介入以外にも円を支える方策を模索しているようだ」と言及。もっとも、日本国債が十分魅力的な投資先となり、国内への資金環流が加速するには「政府が財政政策でさらに安心感を与え、日銀は政策がインフレに対し後手に回っていないことを示す必要がある」とも話す。
みずほ銀行で日本を除くアジアのマクロ調査責任者を務めるビシュヌ・バラサン氏も、GPIFによる国内資産への投資拡大策は円安を見込む最も投機的で攻撃的な取引を阻止するには十分かもしれないが、「円安派の動きを一時的に食い止めるだけで、円の強気派を引き寄せることにはならない」とみている。
--取材協力:グラス美亜.
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