弱いCPIは本当に株高要因といえるのか?

7月14日の米国株式市場は、6月CPIが弱めの結果となったことを受け、堅調な推移となった。注目されていた6月CPIは総合・コアともに市場予想を下回り、市場の利上げ観測は後退した。このところ、FRBの利上げ観測の高まりによってイールドカーブ全体で金利が上昇してきたことが意識されていたことから、株式市場はポジティブに捉えたようである。この日、議会証言を行ったウォーシュ議長は弱いCPIによって任務完了となるかどうかについて「うーん、私はそうは思わない」(ロイター)と述べ、慎重な姿勢を示した。利上げ観測が後退する余地はまだあると言える。

もっとも、原油高やAI・半導体関連のコスト増が消費者物価にも転嫁されるという見方が増えているという前提を考えると、CPIが弱いことは株価にポジティブとは言えない。PPIが加速してCPIが減速する状況は、企業の交易条件の悪化を意味しているため、特にBtoCのビジネスで先行きの企業業績の懸念につながり得る。また、一段とインフレ懸念が弱まることになれば、債券投資の妙味が増してくる。これまでインフレ懸念によって債券投資が敬遠され、消去法的に株式市場に資金が流入していた面があるとすれば、マネーフローの観点からも株式市場にポジティブな流れにはならないだろう。むろん、実際に株価の下落が景気減速懸念につながれば、FRBの利下げ観測が高まり、株価は下支えされることが予想される。中長期的には過度に悲観的になる必要はないとみられるが、当面はリスクがやや下方に傾いていると、筆者はみている。

弱いCPIで利上げ観測は後退したが、米経済の評価はこれから決まる

7月14日の米国債券市場では、利上げ観測が後退し、金利が低下した。長期金利は前日比▲3.4bp、2年金利は同▲8.8bpと、イールドカーブはブルスティープ化した。10年実質金利は同▲1.2bp、10年BEIは同▲2.2bpだった。米国がイランに対する海上封鎖を再開したことで、原油価格は上昇したが、6月CPIが市場予想を下回ったことが注目された。FF金利先物市場では、9月FOMCまでの利上げ回数の織り込みが約0.66回となり、前日の1.03回から減少した。26年中の利上げ回数の織り込みも約1.24回となり、前日の1.71回から減少した。今後は、①インフレ率の鈍化が続くかどうか、②雇用統計がどうなるかの2点が金利動向を左右するだろう。これまでは株価が堅調だったことから、個人消費が刺激されるといった漠然としたインフレ懸念が先行して注目されていたものの、実際の経済指標を確認していくフェーズに入っている。6月CPIのように弱めの結果が続けば、徐々に利上げ観測が剥落していくだろう。

他方、利上げ観測から利下げ観測への急激な転換をもたらし得るのは、雇用統計の結果だろう。仮に、今回のCPIの結果が消費者レベルの需要の弱さを示しているのであれば、最近の労働参加率の低下は株高による前向きなもの(いわゆるFIRE)ではないという可能性が高まる。FIRE以外の何らかの要因で仕事を探す人が減っているのであれば、労働市場の状況は芳しくないという判断になる。今回のCPIの結果だけで判断することはできないが(6月の小売売上高にも注目)、米経済の先行きを見極める上で経済指標の結果とその解釈には注目が集まるだろう。

強い結果となった20年債入札を受け、債券市場は「短期楽観・長期悲観」

日本の債券市場では、14日に行われた20年国債入札が非常に強い結果になったことが注目された。片山財務相が10日に「GPIFをはじめとする年金基金が日本の金融資産にさらに投資する方向で後押しをする方策を追求したい」(日経)と述べて以降、市場では政府の意向を反映してGPIFなど年金基金がアロケーションを変更する可能性が意識されている。この日の入札結果を受け、市場では「GPIFに買い支えてもらっていると思わざるを得ず、相場がしらけてしまう。やってはいけない一線を越えようとしている」(同)という見方が生じている。

むろん、実際に誰が動いたのかは分からない。GPIFや年金基金が動いているという思惑が生じることを企図して動いた投資家がいた可能性も十分考えられる。

いずれにせよ、当面は金利上昇圧力が一旦弱まることになるだろう。特定の投資家の動きが注目される面もあるが、そもそもこれまで金利上昇が一方的に続いてきたため、債券を買うタイミングがあまりなかったと考えられることが重要である。きっかけは何であっても、金利上昇が一服したところで債券投資を増やそうと考えていた投資家が潜在的に多かった場合、今回の事象がそういった投資家の背中を押すことになる可能性がある。

もっとも、こういった需給面の動き以外の面では、金利低下を予想することは難しい。特定の投資家(今回であればGPIFや年金基金)による買い支え的な動きは為替介入(円買い)と同様に、量的な限界がある。また、政府の判断によって特定の投資家が動くとすれば、市場はその背景を読みに行くだろう。その結果、特定の投資家による買い支えが必要なほど政府はビハインドザカーブの状況になっているのかという不安につながったり、日銀の利上げはどうしても避けたいのではないかという思惑につながったりするだろう。政府や日銀がビハインドザカーブに陥っており、為替やコストプッシュ型のインフレを制御できていない(その上で、それを財政出動で解決しようとしている)という懸念を強めることになり得る。

政府は「骨太の方針」について、「脚注に、金融政策決定での日銀の自主性に関して定めた日銀法第3条を明記」(時事通信)した上で、21日に閣議決定する方向のようである。言うまでもなく、結果的に何が書かれたかよりも、市場はこれまでのプロセスを含めて政府の姿勢を評価することになる。高市政権のポリシーミックスについて、市場とのミスコミュニケーションが懸念される状況が続くだろう。

(※情報提供、記事執筆:大和証券 チーフエコノミスト 末廣徹)