(ブルームバーグ):米大リーグ(MLB)のシカゴ・ホワイトソックスは2年前の9月下旬、メジャーリーグ近代史上最多敗戦を記録したシーズンの終盤を迎えていた。
当時、本拠地でホワイトソックス戦を観戦するのに、事前の予定などほとんど必要なかった。約4万人収容の球場も、観客は半分程度か、それ以下しか入っていなかったからだ。駐車スペースも容易に見つかった。球場に入り、ホームベース裏のボックス席へ移ると、1列をまるごと独り占めできた。
ホワイトソックスが最後にプレーオフへ進出したのは5年前。直近3シーズンはいずれも162試合制で、101敗、121敗、102敗を喫した。マイアミ・マーリンズやコロラド・ロッキーズのように、長年低迷が続くチームを応援するファンは、自分たちの方がもっとつらい思いをしていると言うだろう。それでも、弱いチームを応援するのも決して悪いことばかりではない。
筆者も多くのホワイトソックスファンと同じく、シカゴ南部で生まれ育ち、物心ついた頃にはこの球団を応援していた。1970-80年代には、父によく球場へ連れて行ってもらった。今では、自分が子どもたちやその友人、行きたいという人を球場へ連れて行く立場だ。ホワイトソックスファンでいる数少ない特典は、チケットを比較的簡単に手に入れられることだ。球団から歓迎されているような気分になれる。
ホワイトソックスのチケット担当者と筆者は、時折連絡を取り合う仲だ。数シーズン前には、その担当者から、好きな試合で使えるチケット10枚入りを2セット、計20枚分購入した。特典としてダッグアウト横の4席も付いてきた。24枚分のチケット代は、合わせて178ドルだった。
担当者から連絡があるたび、チームの話で盛り上がる。上機嫌で話すこともあれば、不満をこぼし合うこともある。彼が歴代で最も好きなホワイトソックスの選手は、2005年のワールドシリーズ制覇に貢献したポール・コネルコだ。球団がワールドシリーズを制したのは、1917年以降ではこの1度だけだ。
多くのプロスポーツでは、試合を1度観戦するだけで数百ドルかかることも珍しくない。それに比べると、今季のホワイトソックス戦のチケットは、誤植かと思うほど安い。入場券とビール2杯が付いたセットで24ドル。日曜日の家族向け企画は12ドルからで、試合後には子どもたちがグラウンドを走ることもできる。シーズン開幕からの本拠地28試合を観戦できるチケットも、わずか149ドルだ。
ホワイトソックスのマーケティング責任者を務めるブルックス・ボイヤー氏は、投手や打者のプレーを左右することはできない。ただ、観客が球場でどんな体験をするかには影響を与えられる。
今シーズン序盤のある試合前、グラウンドでボイヤー氏に話を聞いた。同氏は「過去3年のように苦しいシーズンが続くと、チケット代に見合う価値を感じてもらえる工夫をしなければならない」と語った。
その一つが、球場グルメだ。シカゴ風ホットドッグや、牛肉の薄切りを挟んだイタリアンビーフサンドといった定番メニューに加え、地元の飲食チェーンやシェフと提携して品ぞろえを充実させた。その結果、昨年のMLBの消費者調査では、料理の品ぞろえとコストパフォーマンスで1位に選ばれた。日本人スラッガーの村上宗隆を獲得した今季は、「Fuku」のチキンサンドや中華鍋料理のコーナーも加わった。
ホワイトソックスは、来場者への無料配布グッズも充実している。昨年の消費者調査では、この来場者プレゼントもMLBで1位の評価を受けた。シカゴでは、ホワイトソックス戦でもらったTシャツを着ている人をよく見かける。品質が高いうえ、ユーモアのあるデザインも人気を集めている。
今季最大の話題となりそうな来場者プレゼントは、ローマ教皇の儀式用帽子(ミトラ)を模した「ホワイトソックス教皇帽」だろう。球団ロゴをあしらったデザインで、8月11日の来場者に配布される予定だ。シカゴ南部(サウスサイド)出身のローマ教皇レオ14世は、熱心なホワイトソックスファンとして知られ、今も球団の黒い帽子を愛用している。
ホワイトソックスは以前から、個性的でファン目線のイベントに力を入れてきた。毎年、エルビス・プレスリーをテーマにしたイベントや、愛犬と一緒に観戦できるイベントなどを開催している。2年前、チームが歴史的な低迷に苦しんでいたシーズンには、新たに「メキシコ文化ナイト」を開催した。シカゴではメキシコ系住民が人口の2割超を占めることもあり、平日にもかかわらず球場は満員となった。
子どもの頃にメキシコ中部グアナフアト州からシカゴへ移住した地元ジャーナリスト、ラウラ・ロドリゲス・プレサさんも、このイベントに足を運んだ。
「長年チームを支えてきたメキシコ系コミュニティーへの、心からの感謝が伝わってきた。本当に大きな家族の集まりのような雰囲気だった」と振り返る。プレサさんがチームの成績にかかわらずホワイトソックスを応援し続けるのは、祖父から「労働者やシカゴのラテン系住民のチーム」だと教えられて育ったからだという。
ホワイトソックスが2026年シーズンに掲げるスローガンは「Feel the Momentum(勢いを感じよう)」だ。優勝を目指すといった威勢のいいものではない。チームはすでにどん底を脱したという、控えめながら前向きなメッセージが込められている。実際、有望な若手はそろっている。
今春の本拠地開幕戦では、ここ数年の低迷など誰も気にしていないように見えた。球場のあちこちで、人々はそれぞれに試合観戦を楽しんでいた。バグパイプの音色が響き渡り、シカゴ出身ラッパーのチャンス・ザ・ラッパーが始球式に登場した。
外野席裏のコンコースはファンであふれ、ビールを片手に、殿堂入り選手フランク・トーマス氏やハロルド・ベインズ氏の銅像の周りで談笑する人たちの姿があった。肌寒い中、多くの人が過去の試合でもらったホワイトソックスのポンチョやジャケットを身に着けていた。
売店を見て回っていると、ロン・キトル氏の姿が目に入った。銅像ではない。1983年のア・リーグ新人王に輝いた本人だ。知人と談笑していたので、「やあ、ロン・キトル」と声をかけると、「やあ、元気か」と気さくに応じてくれた。
その日の試合は、ホワイトソックスが終盤に3対1のリードを追い付かれ、延長戦にもつれ込んだ。それでも延長10回、新加入の外野手トリスタン・ピーターズが右前適時打を放ち、劇的なサヨナラ勝ちを決めた。
いつの日か、思ったより早くホワイトソックスが再び優勝争いに加わる日が来るかもしれない。そうなれば、一般の野球ファンや、一度足が遠のいたファンも、2000年代半ばのように球場へ戻ってくるだろう。今のような手厚いサービスの一部はなくなるに違いない。それでも、強いチームと引き換えなら、誰もが喜んで受け入れるはずだ。
サヨナラ勝ちの後、球団からメールが届いた。全てのファンに向けたチケット半額セールの案内だった。まだしばらくは、筆者のような古株ファンを大切にしてくれるらしい。
(原文は「ブルームバーグ・ビジネスウィーク」誌に掲載)
原題:A Once-Terrible Team Is Becoming the Best Bargain in Baseball(抜粋)
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