日本はついに非常用ハンマーを手に取り、円高を促すためにガラスを割ったのだろうか。

片山さつき財務相は10日、政府が巨額の年金基金に国内投資を一段と促す政策を進める方針を閣議後の定例記者会見終盤に発表し、市場を驚かせた。詳細は乏しく、円についても直接の言及はなかった。

しかし、成長戦略から日本銀行の利上げに至るまで、あらゆる政策が事前に報道機関へ慎重にリークされる日本で、この発表が予告なく行われた事実は、片山氏が不意打ちの効果を狙ったことを示唆している。そして市場は反応し、円相場は上昇し、国債も値上がりした。

もっとも、この発想自体は数カ月前から市場で語られてきたものだ。政府が293兆6000億円を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)に加え、その運用方針に追随する他の年金基金に対し、国内投資を増やすよう促す可能性があるという見方である。筆者と同僚コラムニストのダニエル・モス氏は、今年1月の時点で既にその必要性を主張していた。

これは円相場にとって最も賢明な一手だ。この2年以上、日本銀行は利上げを進め、米国との金利差を縮小しなければ円高にならないと言われ続けてきた。

しかし5回の利上げを経て、政策金利は1995年以来の高水準に達したにもかかわらず、円はマイナス金利時代よりも弱い水準にある。

この現実は長年にわたりファンダメンタルズ(経済の基礎的諸条件)から乖離(かいり)しており、必要なのは相場を巡る「ナラティブ(物語)」そのものを変えることだ(これは韓国でも同様で、より速いペースで大幅な利上げを実施してもウォン相場の下支えにはつながっていない)。

一方で、為替介入は常に短期的な手法に過ぎない。5月の大型連休期間中、流動性の低さを利用しようとした介入戦略は賢明だったが、為替相場の方向性を大きく変えるには至らなかった。

GPIFに国内投資を促すことは、円相場だけでなく、日本国債市場にも恩恵をもたらす。大口で安定した国内の買い手が存在すれば、変動の大きい国債相場は落ち着き、日本の財政状況に対する過度な懸念も、需要の下支えによって和らぐだろう。

それだけではない。日本は資本を海外へ流出させるのではなく、投資が必要とされる今こそ、国内で得られるリターンの恩恵をより多く享受すべきだ。

脱デフレ後

故・安倍晋三氏が政権を担っていた際、GPIFに海外投資を拡大させた政策は、デフレ下の日本にとって正しい選択だった。当時、日本10年国債利回りはわずか0.5%で、日経平均株価は1万5000円前後に低迷していた。

安倍政権時の見直しによって、ポートフォリオの3分の2を占めていた日本国債から資金を振り向け、外国債券や国内外の株式への投資が拡大した。その成果は大きく、日本の年金財政の将来は、着実な運用判断によって大幅に改善された。

しかし、今は状況が大きく異なる。GPIFは現在も資産の約半分を海外で保有しているが、分散投資を損なうことなく、その一部を国内へ戻す余地は十分にある。

ほぼゼロ金利の時代を経て、日本は今や「金利のある世界」に戻っている。国内資産の魅力は十分に高まっており、国内景気の回復局面で家計が恩恵を取り逃さないためにも、より多くの資金を国内にとどめるべきだ。

株式市場では株主還元が大幅に拡大し、コーポレートガバナンス(企業統治)改革も進み、日経平均株価は一時7万円を突破した。

日本国債利回りは変動しているものの、「30年ぶりの高水準」という見出しに振り回されるべきではない。これは約30年に及ぶ金利抑制から正常化へ向かう過程で生じる一時的な揺れに過ぎない。

日本国債利回りは絶対水準で見れば決して突出して高くなく、GPIFによる適度な買い入れが利回りをやや押し下げる可能性がある。

一方で、米国債との利回り格差は十分に縮小しており、給付を円建てで支払う基金が、為替リスクを抱えながら縮小する上乗せ利回りを求めて海外投資を続ける理由は乏しい。

その結果として海外への資金流出が減り、円安圧力が和らぐことは、副次的な効果に過ぎない。ただし、政府は慎重に進める必要がある。

公然の秘密と言ってよいが、高市早苗政権は実際にはかなり弱い円を好んでおり、1ドル=150円前後を高市首相が求めるような国内投資を促すスイートスポットとみている。

政治家や官僚は、市場を急激に逆方向へ動かし、企業の設備投資計画を狂わせる事態を警戒するだろう。片山財務相が具体的に何を考えているのかもはっきりしていない。GPIFは厚生労働省の監督下にあり、近くポートフォリオを見直す予定もない。

仮に見直しを試みれば、政府が年金資産の運用に介入しているとの批判を招く公算が大きい。実施には、数カ月に及ぶ検討を経て行われた2014年の資産配分見直しと同程度の政治的資本と慎重な対応が求められるだろう。

それでも方向性としては、すべての関係者にとって理にかなった政策だ。日本が脱デフレ後の産業国家を築こうとするのであれば、日本の資本もそのリターンを受け取るべきだ。

(リーディー・ガロウド氏はブルームバーグ・オピニオンのコラムニストで、日本と韓国、北朝鮮を担当しています。以前は北アジアのブレーキングニュースチームを率い、東京支局の副支局長でした。このコラムの内容は個人の意見で、必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの見解を反映するものではありません)

原題:Yen Fix Starts With Pension Cash Coming Home: Gearoid Reidy(抜粋)

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