(ブルームバーグ):AIによる大失業時代の到来を予想する声が上がる中、米国ではAIが記録的な数の起業家を生み出す原動力となりつつある。
こうした新興企業の多くは短命に終わるかもしれない。AIによって実現性に乏しい事業計画でも具体化しやすくなり、ソーシャルメディア上にあふれるAIスロップ(AIが作る低品質コンテンツ)のような現象が、起業の世界でも起こりかねないためだ。
しかし、中小企業向けにサービスを提供するガストのエコノミスト、アーロン・テラサス氏は、AIを活用した起業の勢いは非常に強く、淘汰が進んだ後も多くの企業が生き残るだろうと話す。
南アフリカ出身の起業家、ロビー・ファンザイル氏(26)もその一人だ。同氏によると、AIは秘書やスケジュール管理、パワーポイント資料の作成、時には経理や法務アドバイザーの役割まで担っている。
その結果、自身と6人のエンジニアで構成するチームは、国防総省と国土安全保障省向けのドローン開発に専念できるようになったと言う。まさに、AIがバックオフィス業務全体を支えている構図だ。
アスカリ・ディフェンスの代表を務めるファンザイル氏は、「AIは中小企業にとって次世代の戦力増幅装置のようなものだ」と語った。

米国では、新型コロナウイルス禍の都市封鎖(ロックダウン)時に始まった起業ブームの「第2波」が到来している、とエコノミストらは指摘する。当時は雇用不安を抱えた人や解雇された人が相次いで起業に踏み切ったが、今回はAIの普及との関連が強いとみられている。特に、専門サービス業などAIを活用しやすい分野で起業の伸びが顕著だという。
米国勢調査局が9日公表した6月のデータによると、起業家が内国歳入庁(IRS)に提出した設立関連書類に基づく推計では、今後1年間に全業種で毎月2万9700社の新規企業が設立される見通しだ。これは1年前の予測と比べて17%多い。
AIとの親和性が高い専門サービス業(建築士、弁護士、広告業など)では、今後1年間に毎月5000社超の新規企業が設立されると見込まれている。これは1年前の予測を24%上回り、2004年の統計開始以降で最多の水準だ。

アポロ・グローバル・マネジメントのチーフエコノミスト、トーステン・スロック氏は、「これほど多くの企業が設立されたことはこれまで一度もない」と指摘。「AIが非常に大きな役割を果たしていることを物語っている」と述べた。
米国勢調査局の推計には、従業員を雇用する「雇用主企業」だけが含まれている。ただ、こうした企業が最終的にどれだけの雇用を生み出すかは現時点では不透明だ。
起業家が設立関連書類を提出してから事業が本格的に軌道に乗るまでには時間差があるため、AIを活用した新興企業の急増が雇用創出につながるかどうかを判断するには、1-2年を要する可能性がある。
メリーランド大学のジョン・ハルティワンガー氏が指摘するように、AIの影響を受けやすい分野では、1人で起業するケースの増加はさらに顕著だ。ただ、米国勢調査局はこうした「1人起業」の長期的な増加は予測していない。こうした一人起業家は少なくとも当初は従業員を雇用しないだろう。
米国での起業ペースは、新型コロナ禍で過去最高水準に達し、2021年にいったん横ばいとなった。その後、2022年11月に公開されたChatGPTをはじめとするAIツールの普及が、新たな起業ブームを引き起こしたようだと、ロンドンを拠点とするエコノミスト、ギジェルモ・ガラチャー氏は指摘する。
エコノミストらは、IRSに提出される事業設立初期の申請書類に、その兆候を見いだしている。有限責任会社などの法人設立や従業員の雇用、雇用関連税の納付には、IRSに対して雇用者識別番号(EIN)の取得を申請する必要がある。
ガラチャー氏らエコノミストは最近、特にAIによって業務の効率化や自動化が可能な業種で、EINの新規申請が急増していることに注目している。ガラチャー氏によると、ChatGPTの公開以降、専門サービス業での新規申請件数の伸びは、AIの影響を受けにくい建設業の4倍超のペースに達している。
新たに起業する人の多くは、ベンチャーキャピタル(VC)やエンジェル投資家の支援を受ける起業家を含め、AIの可能性に衝撃を受け、それを活用して何ができるかに気づいたテクノロジーに精通した人々だろうと、ガラチャー氏はみている。
一方で、「今後は、ごく普通の人たちがますます起業するようになると思う」と述べた。
原題:AI Fuels a Wave of Startups in the US Rivaling the Pandemic Boom(抜粋)
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