ホルムズ海峡を通る海運への混乱は、地球の反対側にあるもう一つの重要な海上交通路にも注目を集めている。インドネシアとマレーシアの間に位置し、シンガポールを経由して商船が行き交うマラッカ海峡は、世界海上貿易の2割余りを担っている。

特にエネルギー輸入でこの航路への依存度が高い中国にとって、マラッカ海峡は以前から戦略上の弱点と見なされてきた。米国とイスラエルによる軍事攻撃への対応として、イランがホルムズ海峡を事実上閉鎖したことで、マラッカ海峡の重要性が改めて強く認識されている。

マラッカ海峡は自由通航を保障する国際ルールの下で運用されているが、4月にはインドネシアの閣僚が一時的に通航料徴収の可能性に言及し、懸念が広がった。

その後、ホルムズ海峡に面するオマーンが、ホルムズ海峡を通航する船舶への料金徴収の可能性に言及。世界の他地域にある海上要衝での管理手法を分析していると明らかにした。

ホルムズ海峡で通航料徴収の仕組みが導入される可能性を受け、一部の船主やトレーダーの間では、無料で通航できるマラッカ海峡にも同様の動きが及ぶのではないかとの見方が出ている。

マラッカ海峡の重要性とは

マラッカ海峡は、インド洋と南シナ海、さらに太平洋を結ぶ世界有数の海上輸送ルートだ。インドネシアのスマトラ島とマレー半島の間に約500マイル(約805キロメートル)にわたり延びている。北側にはタイ、南の入口にはシンガポールが位置し、中東と東アジアを結ぶ最短の航路となっている。

この効率性により、マラッカ海峡は世界の物流に不可欠な存在となっている。

マレーシア海事局によると、2025年にマラッカ海峡を通航した船舶は10万2500隻余りと、前年の約9万4300隻から増えた。原油や液化天然ガス(LNG)、石炭、パーム油、鉄鉱石のほか、さまざまな工業製品がこの海路を通過している。

米エネルギー情報局(EIA)によれば、2025年1-6月(上期)には1日当たり石油約2320万バレルがマラッカ海峡を通過し、中国や日本、韓国など主要経済国に供給された。これは同期間にホルムズ海峡を通過した約2090万バレルを上回る。

マラッカ海峡が海上要衝とされる理由

最も狭い地点の幅はわずか1.7マイル、つまり2.7キロメートルほどで、極めて多くの船舶が行き交うことを考えると、その脆弱(ぜいじゃく)性が際立つ。

このため、特に交通量が多い海域では衝突事故や座礁のリスクが高まる。局所的な障害でも船舶の流れが滞り、輸送コストの上昇につながりかねない。海賊行為や武装強盗も懸念材料で、2025年にはマラッカ海峡とシンガポール海峡で計108件が発生し、増加傾向にある。

インドネシアの島嶼(とうしょ)部を通る代替航路も存在するが、利便性や航行の容易さでは劣る。スンダ海峡は一部が浅く、活火山の近くを通る必要がある。

ロンボク海峡とマカッサル海峡を経由するルートは時間と費用が大幅に増加し、サウジアラビアの港湾都市ラスタヌラから日本への航路では、マラッカ海峡経由に比べて距離が倍以上となる。

マラッカ海峡では通航料が課されているのか

現在、沿岸国がマラッカ海峡の通航に義務的な通航料を課すことはない。国際海峡に分類されるマラッカ海峡は、継続的かつ妨げられることなく航行できる通過通航権が船舶に認められている。

国際法上、沿岸国は通航を停止したり、単なる通航を理由に料金を徴収したりすることはできない。ただし、救助活動など特定のサービスについては料金を徴収できる可能性がある。

海峡に面するインドネシアとマレーシア、シンガポールは、国連海洋法条約(UNCLOS)に基づき、自国沿岸から最大12カイリ(約22キロメートル)までの領海に主権を行使する。

3カ国は1971年にマラッカ海峡の管理を調整する3カ国協力の枠組みを設立し、タイとも海賊対策や合同哨戒を含む安全保障・航行安全面で協力している。通航料の代わりに、3カ国は「マラッカ・シンガポール海峡協力メカニズム」の下で設立された基金を通じて任意の資金拠出を受けている。

この資金は、ブイや標識、灯台など航行支援施設の維持に充てられる。公表されている拠出国には日本や中国、インド、韓国、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)が含まれ、加えて業界団体や海事関連財団も資金提供を行っている。

同基金は資金支援額の定期開示をしていない。シンガポールは2017年、10年間で2200万ドル、年平均約220万ドルを集めたと公表した。

シンガポール海事港湾庁(MPA)は数十万ドル相当の拠出コミットメントのみを2025年後半に発表。あえて比較すれば、イランがホルムズ海峡で石油タンカー1隻当たりに課すと提案している通航料を大きく下回る水準となっている。

マラッカ海峡への警戒感が高まる理由

ホルムズ海峡を巡る海運への脅威は、海上交通の要衝がいかに短期間のうちに政治的な火種となり、貿易を混乱させ、世界経済の重しとなり得るかを浮き彫りにした。

今年4月にはインドネシアのプルバヤ財務相が、イランの動きを受けてマラッカ海峡の通航料徴収の可能性に触れた。すぐに撤回したが、波紋が広がった。

シンガポールは直ちに、マラッカ海峡は国際航行のために開かれた自由な海峡であり続けなければならないと強調した。マレーシアも通航の妨げがあってはならないとの立場を示しており、沿岸各国が海上交通の円滑な維持という共通の利益を有していることを反映している。

ホルムズ海峡を巡る危機を受け、マラッカ海峡の北東に位置するタイでも、南部半島を横断する道路・鉄道による「ランドブリッジ」構想への関心が再び高まっている。この構想が実現すればマラッカ海峡を迂回(うかい)し、輸送時間を短縮できるが、物流面でも資金面でも実現のハードルは高いとみられている。

中国にとってマラッカ海峡が重要な理由

世界最大の輸出国で、原油輸入で世界一でもある中国は、マラッカ海峡のリスクに最もさらされている国の一つだ。エネルギー供給の大半を海上輸送に依存しており、その多くがマラッカ海峡を通過する。

こうした脆弱性を受け、中国は中央アジアやロシアからのパイプライン整備や巨大経済圏構想「一帯一路」の下でミャンマー経由を含む代替輸送ルートへの投資など、供給経路の分散化を進めてきた。

それでも海上輸送は中国経済の中核であり続けており、マラッカ海峡の不安定化に対する感応度は依然として高い。

中国指導部は以前から、有事の際にはマラッカ海峡が戦略上の弱点になると認識してきた。この懸念は、胡錦濤政権期の2000年代前半に広く知られるようになった「マラッカ・ジレンマ」という言葉でも表現されている。

さらに、南シナ海における領有権問題や、この地域での海洋覇権を巡る米国との戦略的競争が、状況を一段と複雑にしている。

東南アジアの海域では、制裁逃れのため秘密裏に原油を輸送するイランのいわゆる「ダークフリート」による船舶間積み替えも行われており、その多くは最終的に中国を含むアジア市場へ向かっている。米軍はイランに物的支援を提供しようとする船舶を「積極的に追跡」するとケイン統合参謀本部議長が表明。イラン産原油を積載する船舶もその対象に含まれると明らかにした。

原題:Why Disruption in Hormuz Puts Malacca in Spotlight: Explainer(抜粋)

--取材協力:Shadab Nazmi.

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