・Z世代の「物欲低下」は誤り。スマホ内に購入待ちリストを作成。

・情報を蓄積・再評価して購入判断を行う、特有の意思決定プロセス。

・背景にあるのは「消費を間違えたくない」という切実な心理である。

はじめに

関西学院大学鈴木謙介ゼミが2025年7月に実施したアンケート調査(全国18~49歳男女620人)では、Z世代がスマートフォンのスクリーンショットやSNSの「お気に入り」機能などを活用し、「近いうちに買いたい商品」をリスト化している実態が明らかになった。Z世代はしばしば「物欲がない」「コスパにシビア」と語られる。しかし調査結果から見えてきたのは、欲しいものがないのではなく、欲しい商品を数多く抱えながらも購入に踏み出せていない姿である。

Z世代が「近いうちに買うつもりはあるけれど、まだ買っていない商品」の情報を保存する手段の割合を見てみよう。特に「スマートフォンのメモ帳アプリを使う」(57.2%、30歳以上との差+18.4pt)、「SNSのお気に入りに入れる」(55.8%)、「LINEなどのメッセージアプリで人に送信する」(45.7%)、「SNSのリポスト機能を使う」(39.4%、同+18.8pt)が目立っており、Z世代が商品情報を保存する際に、スマートフォンやSNSを中心としたデジタルツールを積極的に活用している様子がうかがえる。

なかでもメモ帳アプリの利用率が高い点は、Z世代が専用の買い物リストやECサイトの機能に依存するのではなく、普段から利用しているスマートフォン上のツールに情報を集約していることを示している。商品名やURLをすぐに保存できるほか、買い物以外のメモやタスクとも一元管理できるため、日常生活の延長線上で商品情報を管理していると考えられる。

また、「SNSのお気に入り」や「SNSのリポスト機能」の利用率が高いことからは、SNSが単なる情報収集の場ではなく、情報を蓄積・管理する場としても機能していることが分かる。InstagramやTikTokで見つけた商品紹介投稿やレビュー動画をそのまま保存し、購入を検討する際に見返しているとみられる。これは、検索エンジンやECサイトではなくSNSを起点に商品と出会う機会が多いZ世代ならではの特徴といえる。

さらに、「LINEなどのメッセージアプリで人に送信する」の高さは、商品情報の保存とコミュニケーションが密接に結び付いていることを示唆する。気になる商品を友人や家族に共有しながら意見を聞いたり、トークに送って後で見返したりするなど、情報管理そのものがコミュニケーション行動の中に組み込まれている。

総じてオレンジ色の結果からは、Z世代が「覚えておく」よりも「見つけた場所や普段使うアプリに残しておく」ことを重視していることが分かる。商品情報の保存は専用ツールで管理するのではなく、SNSやメッセージアプリ、メモアプリなど日常的に利用するデジタルサービスの中で完結しており、情報収集・保存・共有の境界が曖昧になっていることが、Z世代の特徴として読み取れる。

一方、青色の項目は、29歳以下の利用率が30歳以上を下回った手段を示している。これらの結果からは、Z世代が商品情報を保存する際に採用しにくい方法や、相対的に利用頻度の低い記憶手段が見えてくる。まず、「ブラウザのブックマークに登録する」(43.3%)は、30歳以上の世代に比べて利用率が低い。従来はWebサイト単位で情報を管理することが一般的だったが、Z世代はSNSやアプリ内で商品を発見し、そのまま保存する行動が定着しているため、ブラウザを介した情報管理の重要性が低下していると考えられる。特に、商品ページそのものよりも、インフルエンサーの投稿やレビュー動画など、商品と出会ったコンテンツ自体(=その商品やサービスに興味を持ったきっかけ)に価値を感じる傾向が強く、SNSの保存機能がお気に入りやブックマークの役割を代替しているとみられる。

また、「特にサービス・モノに頼らず、頭で記憶する」(34.1%)も利用率が低い。Z世代は商品情報を覚えておくよりも、スマートフォンやSNS上に残しておき、必要になったときに再検索・再閲覧する行動を取りやすい。スマートフォンを常時携帯し、多様な保存機能に日常的に触れている世代であることから、「記憶する」よりも「記録しておく」ことを重視する傾向がうかがえる。

さらに、「紙の手帳やメモ帳に書き残す」(33.7%)も30歳以上より利用率が低かった。紙媒体は文字情報しか残せないのに対し、スマートフォンであれば商品画像やURL、動画なども含めて保存できる。加えて、他のメモやタスクと一元管理できる利便性もあるため、Z世代にとって紙の手帳やメモ帳は商品情報の保存手段として優先度が低くなっていると考えられる。

これらの結果から、Z世代は「ブラウザに保存する」「頭で覚える」「紙に書き留める」といった従来型の記憶・管理方法よりも、スマートフォンやSNSを活用して情報を外部化する手段を選択していることが分かる。言い換えれば、Z世代にとって重要なのは情報を記憶することではなく、必要なときにすぐ取り出せる状態で保存しておくことであり、その役割をSNSやスマートフォンが担っているといえる。

「遭遇型」と「データベース型」

筆者は2020年に執筆したレポートにおいて、若者の情報処理には「データベース型」と「クラスタ型」があると指摘した。このうちデータベース型とは、気になる情報をカメラロールやブックマーク機能、SNSの保存機能などに蓄積し、必要になったときに取り出して利用する情報処理のあり方である。若者にとって、情報はすぐに古くなり、自身の興味関心も短期間で変化していく。そのため、商品名や検索ワードを一つひとつ記憶しておく必要性は低い。むしろ、その場で気になったものをスクリーンショットしたり、SNS上で保存したり、メモアプリに残したりすることで、自分だけのデータベースを構築している。

今回の調査結果でも、29歳以下ではスマートフォンのメモ帳アプリやSNSのお気に入り、リポスト機能などを用いる割合が高く、商品情報を頭で記憶するのではなく、デジタル空間に一時的に保管しておく傾向が確認できる。つまり、Z世代にとって重要なのは情報を正確に覚えることではなく、必要なときに再びアクセスできる状態にしておくことであり、商品情報の保存行動にもデータベース型の情報処理が表れているといえる。これはリキッド消費におけるアクセスベースの様相も垣間見ることができる。実際に2018年にクロスフィニティ株式会社が行った「Instagramの保存機能と購入行動に関する調査」をみるとInstagramを参考にして実際に「購入」に至るまでに、全体の58%が「保存を利用」していた。また39%が「スクリーンショットをする」を選んでおり、調査者の多くがInstagramで遭遇した情報をデータベースに保管していることがわかっていた。

また、同レポートにおいて筆者は、若者の情報行動を「遭遇型」と「データベース型」の組み合わせとして捉えている。若者はXのタイムラインやInstagramのおすすめ投稿など、アルゴリズムによって提示された情報と日常的に遭遇し、その中から必要な情報を取捨選択する。そして、すぐに消費行動へ移るものもあれば、気になった情報をスクリーンショットやSNSの保存機能などを用いて保管し、自身のデータベースとして蓄積していく。重要なのは、保存された情報がそのまま眠り続けるわけではない点である。新たに遭遇した情報や体験が、過去に蓄積した情報と結び付くことで、忘れていた商品やコンテンツの再発見が起こる。つまり、若者のデータベースは単なる保管庫ではなく、情報同士が相互に補完されながら価値を更新し続ける動的な仕組みとして機能しているのである。

さらに、SNS上の他者の投稿は「疑似体験」としての役割を果たす。レビューや利用シーン、購入後の感想に触れることで、自ら消費を経験しなくても、その商品やサービスの価値をある程度理解できる。そのため、若者は他者の体験を参考にしながら、「自分にとって本当に必要なのか」「購入する価値があるのか」を判断している。SNSで新たに遭遇した情報や他者の経験は、過去に保存した情報と掛け合わされることで再び評価の対象となる。若者はそうした情報の再解釈や再評価を繰り返しながら、最終的に消費行動を起こすかどうかを判断しているのである。

こうした視点から見ると、購買における保存行為は単なる「後で見返すためのメモ」ではない。保存すること自体が商品を検討するプロセスの一部であり、将来の意思決定のために情報を保留・蓄積しておく行為なのである。従来の購買行動では、商品情報を収集し、比較検討した後に購入するという直線的な流れが想定されていた。しかし、SNS時代の若者は、まず情報と遭遇し、その場では購入せずに保存する。そして、その後もSNSを利用するなかで関連する情報や他者の口コミ、レビュー動画、購入報告などに繰り返し遭遇する。こうした新たな情報は、過去に保存していた商品情報と結び付きながら補完され、商品の理解や関心を徐々に深めていく。 つまり、保存された商品情報は静的なデータではなく、その後に遭遇する情報によって意味が更新され続ける動的なデータベースとして機能しているのである。

例えば、以前保存した商品について、後日インフルエンサーのレビュー動画に遭遇したり、友人の購入報告を目にしたりすることで、「気になる商品」が「欲しい商品」へと変化することがある。 また、他者のSNS投稿は疑似体験としての役割も果たす。実際に購入した人の感想や利用シーンを見ることで、自分が購入した場合のイメージを具体的に想像できる。その結果、「自分も購入する価値があるのか」「今はまだ必要ないのか」を判断する材料となる。若者は商品を購入する前に、他者の体験を通じて事前に消費をシミュレーションしているのである。

このように、若者の購買行動は「遭遇→保存→再遭遇→情報補完→再評価→行動」という循環的なプロセスとして捉えることができる。保存された情報は、新たな情報との掛け合わせによって何度も再評価され、その過程で購買意欲が形成されていく。言い換えれば、若者にとって保存とは情報の終着点ではなく、将来の消費行動につながる可能性を残しておくための中間地点なのである。

「脱タイパ」の背景

電通プロモーションプラス若者消費ラボ所長の五十嵐響介は、SNSネイティブであるZ世代について、情報処理においては「一般的に店頭では3~7秒という短い時間で判断していると言われている。SNSではさらに短いコンマ数秒で判断している」と情報精査のスピードの速さを指摘する。しかしその一方で、消費行動においては最終的な購買判断に至るまでにはむしろ時間と手間を惜しまない傾向が見られる。SNSや動画、口コミによる事前調査に加え、店頭でのテスター試用、他者の意見の確認、価格比較などを重ねる行動は、効率性を重視する“タイパ志向”とは対照的な「脱タイパ」的態度と言える。

Z世代が購買において極めて慎重になる背景には、「想定外」を強いストレスとして受け取る特性がある。予期しない出来事そのものが不安や負担として作用するため、できる限り結果をコントロールし、失敗の可能性を事前に排除しようとする傾向が強いのだ。

この“不確実性への敏感さ”は、関西学院大学・鈴木謙介ゼミの別調査「「Z世代のコスパ感覚」に関する調査(https://seminar.szk.cc/genz_research_20240830.pdf
)」でも確認できる。同調査ではZ世代の消費におけるリスク認識や「失敗」への感度についても詳細に尋ねている。まずリスクに関する項目では、「購入前に、その商品が自分に合わなかった場合のリスクを考慮する」と回答した割合が53.2%と、半数を超えている。

さらに「失敗」についての問いを見ると、「購入後により安い価格で同じ商品を見つけたら、『失敗した』と思う」が62.5%、「事前に調べた情報で期待していたほどの商品ではなかった」が52.2%、「購入後に、より自分に合っていそうな別の選択肢を見つけた」が51.0%と、いずれも半数前後が“失敗”と捉えている点が特徴的である。

興味深いのは、「周囲の友人にSNS等でその商品を共有したら、予想よりも反応が悪かった」という項目で、29.3%がこれを“消費の失敗”と判断する要因として挙げている点だ。他者からの評価が、消費の成否そのものに影響を与えていることがわかる。

これらの結果は、Z世代が「失敗」と見なす範囲が、商品そのものへの不満だけでなく、選択しなかった別の可能性や、他者からの評価、相対的な損失感といった周辺的な要素まで含んでいることを示している。

心のフタ

では、なぜZ世代はここまで多様な事象を「失敗」と感じやすいのか。背景には、消費行動に付随するさまざまな“損失”を強く意識する心理がある。若者が「消費で失敗したくない」と強く感じる背景には、従来の費用対効果の観点だけでなく、ある選択をしたことで別の消費機会を逃すこと、他人が得をしているのに自分は得られなかったという相対的な損失感、SNS上での反応の低さなど「損(マイナス)」を避けたいという心理が、Z世代の消費判断を大きく左右していると考えられる。

こうした傾向の背景には、経済的余裕の乏しさもある。長期的な賃金停滞に加え、税負担や社会保険料、物価の上昇によって若者の可処分所得は限られている。大学生についても仕送り額は長期的に減少しており、限られた予算の中で生活費と娯楽費をやりくりしなければならない。そのため、一度の消費で失敗したくないという意識が強まりやすい。加えて、SNSや動画サイトから膨大な情報が流れ込む環境では、選択肢が増えるほど「全部には手が出せない」という現実があり、誤った選択を避ける意識が強まる。さらに、消費行動がSNSで可視化されることで、他者からの評価がストレスとなり、「間違った選択をしたと思われたくない」という心理が働く。つまり、Z世代の消費行動の根底には、「支出先を間違えたくない」「選択を間違えたくない」「間違っていると思われたくない」という三つの不安が存在している。彼らにとって消費に失敗することは、単なる金銭的損失ではなく、自らの判断が誤っていたことを意味する。そのため、「消費に失敗したくない」という感情は、言い換えれば「消費を間違えたくない」という強い欲求なのである。

実際、冒頭で紹介した関西学院大学鈴木謙介ゼミの調査でも、購入に踏み出せない理由として「お金がないから」(31.8%)が最多だった。購入待ちリストに加えた商品を「購入したことはない」と回答したZ世代も18.9%にのぼり、欲しいものはあっても購入に至らないケースが少なくないこともうかがえる。

また鈴木謙介教授は、購入待ちリストを作成する理由として「何を欲しいと思っていたのか忘れないようにするため」が最多(29.4%)だったことから、情報過多が購買の障壁になっていると指摘する。膨大な情報や選択肢に接する中で、何を選べばよいのか判断できなくなり、さらに「自分に合うのか分からない」という不安や、購入を正当化する決め手の欠如が重なる。その結果、購入に対する「心のフタ」が形成されるのである。この根底には、「失敗の責任を負いたくない」という心理があり、消費者は購入をためらいながら、納得できる理由や後押しを求め続けている。

「Q.O.C」という考え方

Z世代にとってタイパとは、単に時間を短縮することではない。たとえ時間がかかったとしても、情報収集によって消費の失敗リスクを下げられるのであれば、それはむしろ効率的な行動と捉えられる。SHIBUYA109 lab.の「Z世代の時間の使い方に関する意識調査」でも、21.3%が「失敗しないように念入りに情報収集した上で買い物」をすると回答しており、情報収集に時間を投じることは“非効率”ではなく、納得できる消費にたどり着くためのプロセスとして認識されている。

このような志向は、従来の「時間を短縮すること=タイパ」という理解からの“脱却”であり、むしろ限られたリソースの中で失敗を避け、消費の質(Q.O.C:Quality of Consumption)を最大化するための合理的なタイパ観として捉えるべきである。失敗を避けたいという心理が情報収集への投資を正当化し、結果としてタイパの評価軸そのものを変容させている。若者にとって情報収集に時間をかけることは非効率ではなく、「将来の無駄な消費を避けるための合理的な投資」なのである。

こうした志向の下で形成される購入待ちリストは、単なる「欲しいものリスト」ではない。若者にとってそれは、まだ購入の判断を下していない商品の保留リストであり、将来の意思決定のためのデータベースとして機能している。言い換えれば、購入待ちリストの増加は意思決定プロセスの長期化を意味しているのではないだろうか。

若者はSNS上の口コミやレビュー、他者の利用体験といった情報を継続的に取り込みながら、その商品が本当に自分に必要なのか、購入する価値があるのかを慎重に見極めている。その過程で保存された情報は何度も再評価され、消費判断の材料として更新され続ける。つまり、購入待ちリストとは消費の停滞を示すものではなく、失敗を回避しながら消費の質(Q.O.C)を高めようとする現代の若者ならではの情報処理と意思決定の表れなのである。

(※情報提供、記事執筆:ニッセイ基礎研究所 生活研究部 研究員 廣瀬 涼 )