(ブルームバーグ):サッカーのワールドカップ(W杯)で米国代表は、過去30年にわたりナイキのユニホームを着用して戦っている。一方、スタンドでは、米国で前回W杯が開かれた1994年に思いをはせ、アディダス製のレトロな代表ユニホームを身に着けたサポーターが数多く見られる。
こうした需要を取り込むため、アディダスは3月、この復刻ユニホームを再投入した。お披露目には、元米国代表で現在はFOXスポーツの解説者を務めるアレクシー・ララス氏を起用した。
アディダスは約60年にわたりW杯オフィシャルスポンサーを務めてきたサッカー界の老舗ブランドで、前回のW杯ではリオネル・メッシ率いるアルゼンチン代表の優勝の恩恵を受けた。
しかし、最近ではサッカーそのものに加え、それを取り巻く文化やライフスタイルの魅力を前面に打ち出し、ナイキとの競争で優位に立とうとしている。レトロなサッカー関連商品だけでなく、著名人やファッションデザイナーとのコラボレーションを通じ、販売拡大を狙う。
アディダスでサッカー事業を統括するサム・ハンディ氏は最近、バイエルン州の本社でのインタビューで、「サッカーは文化でもあるという考え方を、これまで以上に積極的に打ち出し始めた」と語った。

もっとも、サッカーとファッションを融合させる取り組みは、W杯に合わせた中核的なマーケティング戦略となっている。ユニホームやサッカーボールの販売だけに依存しない商品構成への転換を狙うためだ。両社にとって、こうした販売拡大策は欠かせない。
アディダス、ナイキ、プーマの株価は昨年初め以降、軟調に推移している。その背景には、HOKAやニューバランス、オン・ホールディングなどランニングシューズを主力とする新興ブランドとの競争激化がある。オンはサッカー市場への本格参入も計画している。
チャンスを生かせるか
2022年大会の決勝は世界で約15億人が視聴するなど、W杯の注目度は高い。ただ、ブランド各社がその機会を十分に生かせるとは限らない。2022年大会では、メッシを擁してW杯を制したアルゼンチン代表のユニホーム需要に、アディダスは対応しきれなかった。一方、今大会では、ナイキがW杯向け広告に起用したコール・パーマー選手はイングランド代表から漏れた。
市場調査会社グローバルデータによると、アディダスは約10年前、国際サッカー連盟(FIFA)との2030年までのスポンサー契約を8億ドルで結んだ。このうち、今大会分は約1億2000万ドルに相当するという。
こうした巨額の費用は、ランニングなど他分野への投資を圧迫する恐れがある。さらに、契約先のチームや選手が試合で振るわなければ、サッカー関連のライフスタイル商品の魅力を消費者に訴えにくくなる。
アディダスとプーマに投資するドイツの投資会社デカ・インベストメントのインゴ・シュパイヒ氏は「W杯にこれほど多くの経営資源を振り向ければ、他の分野に振り向ける余力は小さくなる」と指摘する。

ナイキの株価は2021年のピークから7割超下落した。オンやニューバランスに市場シェアを奪われたうえ、バスケットボールシューズをライフスタイル向け商品として展開する戦略への依存が強すぎたためだ。
エリオット・ヒル最高経営責任者(CEO)は、中核のランニング事業を立て直すことで、自ら「スポーツへのこだわり」と呼ぶ原点回帰を進めている。次の重点分野にはサッカーを挙げる。
負けられない戦い
1994年の米国開催W杯では、ナイキと契約する出場チームはなかった。しかし、1998年大会までにはブラジルを含む複数チームと契約した。ロナウド選手が空港でボールを蹴りながら駆け抜けるテレビCMは、サッカー市場でのアディダスとの全面戦争の幕開けを告げた。今大会では、レブロン・ジェームズ氏やトラビス・スコット氏、キム・カーダシアン氏らがカメオ出演する「Rip the Script」キャンペーンを展開している。
アディダスとの競争を象徴する動きとして、ナイキは2027年からドイツ代表のユニホームサプライヤーとなる。報道によると、契約額は年間1億ユーロに上る。ナイキは契約金額についてコメントを控えた。
ナイキは今大会で、フランスやブラジル、イングランドなど優勝候補を含む12カ国・地域の代表にユニホームを供給している。
一方、日本代表のユニホームはアディダス製だ。販売元のアディダスジャパンによると、アウェー用の白いユニホームの売れ行きは、2022年のカタール大会時に比べ約29倍に伸びた。今月の一次リーグで選手が着用した青色のホーム用ユニホームも約2倍の売れ行きだという。
ファッションとの融合
昨年にアディダスの最高営業責任者からプーマのCEOに転じたアーサー・ホールド氏によると、同社はモロッコ代表やクリスティアーノ・ロナウド選手を擁するポルトガル代表など、契約チームの活躍だけに期待しているわけではない。ファッションを重視した戦略を通じ、サッカーファン以外の層の取り込みにも力を入れている。
プーマの商品ラインアップには、ブルックリンを拠点とするブランド「キッドスーパー」が米国代表クリスチャン・プリシッチ選手向けにデザインした、赤・白・青のサッカーシューズ「Ultra」などがある。
アディダスは最近、これまで主にライフスタイル商品に使ってきたトレフォイル(三つ葉)ロゴを、アルゼンチンやドイツ、スペインなど各国代表のW杯アウェーユニホームにも採用した。1994年の米国代表の赤、白、デニム柄のユニホームを復刻したモデルも、その戦略の一環だ。
こうした動きに対し、ナイキはブラジル代表の青いアウェーユニホームに、マイケル・ジョーダン氏の「ジャンプマン」ロゴをあしらって対抗した。
米証券会社ウィリアムズ・トレーディングのアナリスト、サム・ポーザー氏はリポートで「今大会でのナイキの存在感を踏まえると、トンネルの先に光が見えてきたとの確信が強まる」と指摘した。
一方、アディダスはサッカーにさらに大きな可能性を見いだしている。昨夏のパリ・ファッションウイークで開いたイベントでは、サッカーを「ファッション界にとって究極のミューズ」と位置付け、現在はエルメスでも活躍するデザイナー、グレース・ウェールズ・ボナー氏による新作などを披露した。
同氏は最近、サッカーシューズ「プレデター」のヘビ革仕様モデルを手がけた。黒と白を基調とした従来の定番モデルとは大きく異なる。
アディダスでサッカー事業を統括するハンディ氏は「世界で最も人気のあるスポーツであるサッカーにおいて、スポーツとカルチャーが交わる領域を象徴するブランドを目指したい」と語った。
原題:Adidas Turns World Cup Nostalgia Into Weapon Against Nike(抜粋)
--取材協力:Maddie Parker.もっと読むにはこちら bloomberg.com/jp
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