トランプ米大統領はイランとの暫定和平合意に署名した理由について、世界経済が崩壊する可能性が高かったからだと説明した。この発言は今後の対イラン協議を前に、米国が抱える重大な弱点を浮き彫りにしている。

トランプ氏が17日に署名した覚書によって、ホルムズ海峡は船舶の通航が再開されることになり、イラン産原油の輸出に対する制裁免除の手続きが始まった。その効果は即座に現れ、原油価格は一段と下落し、米国株は上昇した。その点はトランプ氏自身が、今週フランスで開いた記者会見で強調した通りだ。

同氏は18日、フランスのエビアンで開いた記者会見で「経済の大惨事を見たくなかった」と述べた。「これを続けていたら、そうなっていたかもしれない」と認めた。

この認識は、両国が21日にスイスで再開する交渉で米国の立場を弱くする。合意では、核開発の制限と経済支援について60日間にわたり協議することになっている。トランプ氏が軍事作戦の再開とそれによる経済混乱に消極的なことを、イラン側が認識すれば、交渉を急いでまとめる必要性は薄れる。

Photographer: Nathan Laine/Bloomberg

実際、交渉開始を控えた20日、イランはイスラエルとレバノンの間で緊張が再び高まったことを理由に、ホルムズ海峡の再閉鎖を発表した。

米国への圧力は強まる一方のようだ。紛争が長期化すれば、世界経済はこの40年で最も深刻な減速に陥る恐れがある。メリーランド大学の世論調査では、56%がイラン戦争は米国の利益にとってマイナスの影響を及ぼすと回答した。

11月の中間選挙を控え、共和党内でも懸念が広がっている。共和党が過半数を占める下院は今月、イランとの戦争停止を目的とした決議案を賛成多数で可決した。

ブルームバーグ・エコノミクスの経済安全保障政策責任者で、元米国務省当局者のクリス・ケネディ氏は「覚書の14項目を総合的に見ると、核問題を巡る今後の交渉において、イランは強い立場にある」と述べた。

一方で、米政府はこれまで核開発阻止のためなら戦争も正当化できるとしてきたが、バンス副大統領は今週、イランの核計画はすでに破壊されたとの認識を示し、核協議で米側にとっての突破口を得ることに必ずしも強いこだわりを持っていないことをうかがわせた。

バンス氏は「イランは弱体化し、核開発計画は破壊され、経済は窮地に追い込まれた。彼らが行動を改めるなら、イランにも戦争にも大きな変化が起きるだろう」と述べた。「そうしないとしても、われわれにとっては痛くもかゆくもない」と続けた。

しかし問題は、合意がイラン寄りになっていることだ。ブルームバーグ・エコノミクスの分析では、14項目中10項目がイランに有利で、米国に有利なのは1項目のみ、3項目は中立だった。

覚書によれば、米国は制裁免除を通じてイランの原油輸出の即時再開を認め、60日間の交渉の中で全面的な制裁解除の可能性も検討する。またイランには戦後復興支援として3000億ドル(約48兆3900億円)規模の開発プログラムも提供される。こうした米側の譲歩に共和党議員から怒りの声が上がっている。

一方でイラン側が見せた最大の譲歩は、核兵器保有を目指さないという意思の再確認であり、これは2015年の核合意でも既に約束していた内容だった。米国はホルムズ海峡の航行再開を実現できる可能性があるが、同海峡はそもそも、米国がイスラエルと共に対イラン戦争を始める前には開放されていた。

覚書にはまた、60日間の交渉期間は「延長可能」とも明記されており、協議が何カ月も長引く可能性が排除されていない。米財務省で対イラン制裁を担当した経験を持ち、現在は民主主義防衛基金の上級研究員を務めるミアド・マレキ氏によると、長期化シナリオは米国よりもイランに有利に運ぶ。

「既に獲得した制裁緩和をあらためて得るために、核開発計画を手放すはずがない」と同氏は指摘。「米国は依然として、軍事行動をエスカレートさせることはできる。しかし経済面での交渉力は、最も必要なタイミングで自ら手放した」と述べた。

原題:Trump’s Fears About Economy Undercut US Leverage in Iran Talks(抜粋)

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