(ブルームバーグ):トランプ米政権が人工知能(AI)スタートアップのアンソロピックに対する規制強化を進める中、ラトニック商務長官は同社に対し「ミュトス(Mythos)5」「フェイブル(Fable)5」モデルを外国人が利用する場合は、米政府の承認を得るよう命じた。輸出管理法を前例のない形で適用したもので、AIシステムへのアクセス権を認める対象を、米政府が決定できるのかという法的な疑問を投げかけている。
ラトニック氏の措置により、機微技術の移転を規制する法律の適用範囲は、最先端AIモデルの単なる利用にまで拡大された。その結果、国家安全保障を理由に政府が企業活動へ介入することへの懸念が、開発企業や利用者の間で広がっている。
テクノロジー業界ではそれまで、過去の政府見解に基づき、ソフトウエアのコード自体の移転に輸出規制が適用されても、クラウド経由で提供されるサービスの利用には適用されないとの理解が一般的だった。
だが、戦略国際問題研究所(CSIS)の副部長のケイト・コーレン氏は、「ラトニック氏の書簡が出た後では、もはやそうは言えない」と語る。以前商務省で勤務していたコーレン氏は「この措置が法的に争われない限り、全ての利用者は、どのモデルに対してもいつでも同じことが起こり得ると考えなければならない」と述べた。
商務省の命令は、政府によるAI業界への介入としてはこれまでで最も重大で、アンソロピックは直ちに両モデルへのアクセスを停止した。企業の自主的な参加を前提にAIモデルを審査するという、トランプ大統領が約2週間前の大統領令で示した方針から、大きく転換している。
解釈の問題も
ブルームバーグ・ニュースが確認したラトニック氏の書簡は、AIモデルを単に利用すること自体が、法的には技術移転と見なされるのかという疑問にもつながる。
米輸出管理制度を管轄する産業安全保障局(BIS)は長年、「みなし輸出」と呼ばれる制度の下で、外国人従業員を含め、特定の機微技術を共有する際には米政府の承認を求めてきた。だが、それをAIモデルの利用に適用するのは前例のない領域だ。
元商務省顧問で、モリソン・フォースター法律事務所の国家安全保障部門パートナーを務めるクリス・チェンバレン氏は「基本的な解釈では、ソフトウエアへのクラウドアクセスを提供することは、そのソフトウエアの輸出やみなし輸出には当たらない」と語った。
ラトニック氏は、アンソロピックのダリオ・アモデイ最高経営責任者(CEO)宛ての書簡で、米政府がライセンス取得義務を課す権限を与える2つの輸出管理法上の権限を引用している。
一つ目の法律は、新興技術を特定し、それに対する暫定的な規制を導入する権限を米政府に与えるものだ。もう一つは、中国やロシアなどの軍事・情報機関利用者に機微技術が渡るリスクを回避するため、迅速にライセンス取得義務を課すことを認めている。
ただ、こうした権限は十分に検証されてはおらず、全世界ではなく、中国やロシアなど特定国向けに限定して適用される可能性もある。
トランプ政権は、今回の措置の理由について説明していないが、アンソロピックは、フェイブル5の安全対策を回避する可能性のある「ジェイルブレイク(脱獄)」手法の存在を政府が把握したため、命令が出されたと考えている。
アンソロピックの技術担当者と政権当局者は先週から、国家安全保障上の懸念を解消するため協議を続けている。これまでのところ、進展を示す公的な兆候はほとんどない。
供給網の多様化
現時点では、商務省の措置により、アンソロピックは外国人にこれらのモデルを提供する際にライセンスを取得しなければならない。新アメリカ安全保障センター(CNAS)の研究員ミシェル・ニー氏は、「今回の米国の措置は、技術主権や米国エコシステムからの自立を求める声を世界中で再燃させた」と述べた。
今回の措置によって、AI業界全体はラトニック氏が主張した権限を無視できなくなった。
アンソロピックに適用された法的根拠が争われる場合でも、BISは別の権限を行使できる。その結果、米政府の要請に反した企業が、サービス停止などのリスクに直面する可能性が高まっている。
カナダのAI企業コヒアのエイダン・ゴメスCEOは18日、「少数の巨大企業に依存していると、アクセスを失うリスクにさらされる。だからこそ、多様なAI供給網が必要だ」と述べた。
原題:Lutnick’s Anthropic Crackdown Claims New Power Over AI Models(抜粋)
--取材協力:Benoit Berthelot、Josh Wingrove、Mackenzie Hawkins、Ania Nussbaum.もっと読むにはこちら bloomberg.com/jp
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