イラン戦争によってホルムズ海峡が事実上の人質となった瞬間から、中東のエネルギー業界幹部らは、業界史上最大の物流作戦の立案に着手していた。世界の石油供給にとって極めて重要な海峡の通航を再開し、過去に例をみない規模となった減産を巻き戻すためだ。

前例のない海峡閉鎖により、多くの関係者は十分な情報もなく、先行きも見えないまま対応を迫られた。

アラブ首長国連邦(UAE)では、戦後の生産回復をできるだけ円滑に進められるよう、油井をどの順番で停止するかを、戦争初期の段階から検討していたと当局者は明かす。関係者によれば、UAEとサウジアラビアはいずれも油田内の圧力を十分維持しており、戦前の生産水準へ2週間以内に戻せる可能性がある。

サウジアラビアの超大型タンカーは、数百万ドルの収益を得る機会を犠牲にしてでも、海峡再開時に即座に原油を積載できるよう4月以降待機を続けてきた。米国とイランが17日に暫定和平合意に署名してから数時間以内に、多くの船舶に先駆けて、3隻のサウジ超大型タンカーがホルムズ海峡を通過していった。

一方で、機雷除去の計画や、どのような順序で各船舶が通過できるのかについて、さらなる保証を求める慎重な関係者もいる。それでも、米国とイランが合意に署名したことは、中東各地に点在する油井や製油所の再稼働の合図となるはずだ。その規模は非常に大きく、ガス燃焼による数千メガワット規模の熱源が宇宙からも観測される見通しだ。

「海峡が開放された状態に本当に戻るのであれば、今後6カ月以内に市場全体で通常業務を回復できるはずだ」と、フランスのエネルギー大手トタルエナジーズのパトリック・プヤンヌ会長兼最高経営責任者(CEO)は17日にフランス議会で述べた。「誰もが現場で実際に何が起きているのかを注視するだろう」

湾岸諸国にとって重要なのは、生産再開とホルムズ海峡経由の輸出回復が、エネルギー価格の低下と、世界の中央銀行が懸念するインフレ圧力の緩和につながる可能性をもたらすことだ。トランプ米大統領にとっては、11月の中間選挙を前に燃料価格を引き下げる効果に加え、最低水準近くまで減少した米国在庫を積み増す機会にもなる。

再開を円滑に進めるには、船舶配置、油井再稼働、インフラ修復、機雷除去作戦での合意が適切に調整されなければならない。船主らがホルムズ海峡に入る意思を示さなかったり、イランが通航料を課したり、あるいはトランプ氏の和平構想が頓挫して戦闘が再燃したりすれば、計画は容易に狂う可能性がある。

過去4カ月間で、湾岸地域の石油輸出は日量1500万バレル近く減少し、2月時点から60%落ち込んだ。原油指標価格は1バレル=126ドル超まで上昇したが、戦略備蓄の過去最大規模の放出と需要急減が供給不足を和らげたことで、それ以上の上昇は抑えられた。

イランの攻撃により、製油所やパイプラインなど主要施設には約420億ドルの被害が生じたと、コンサルティング会社リスタッド・エナジーは推計している。イランの石油収入抑制を狙った米国の封鎖措置も輸送を停滞させた。石油業界幹部によれば、一部の精製設備は完全復旧まで数カ月を要する可能性がある。

戦争下では100隻超の原油タンカーと数百人の乗組員がペルシャ湾内に足止めされていたと、船舶仲介会社EAギブソンのアナリストはみている。

サウジアラビアとUAEの当局者は、原油輸送再開のスピードに自信を示している。一方、原油を燃料へ加工する製油所の再稼働には、専用設備や高度な技術作業が必要となるため、より時間がかかる見通しだ。データ分析会社IIRエナジーによると、中東の主要6製油所では日量約140万バレル分の処理能力が停止しており、戦前にホルムズ海峡を通過していた石油製品輸出量の2割超に相当する。

すべての産油国が同じように油田運営を維持できたわけではない。サウジアラビアとUAEは一部原油を紅海沿岸ヤンブーやオマーン湾のフジャイラへパイプライン輸送し、ホルムズ海峡を迂回(うかい)していた。

同じ国の中でも状況は一様ではない。ある関係者は、イラクでは長期停止によりパラフィンなどの物質が坑井を詰まらせており、生産回復には時間がかかると警告する。一方で、南部バスラ石油会社の幹部は今週、生産量が戦争初期より日量約50万バレル増加したと明らかにした。

「この規模の供給回復は完全に前例がない」と、ウッドマッケンジーの上流部門分析責任者フレイザー・マッケイ氏は指摘する。戦前生産量の70%が3カ月以内、90%が6カ月以内に回復すると推計しているといい、「生産者にとって好材料もあれば、後退もあるだろう」と述べた。

実際には、ホルムズ海峡の再開は数週間前から静かに進んでいた。原油タンカー数隻が毎日オマーン沿岸を航行して海峡を抜けており、当初はごく少量だった輸送量も、最近では日量500万バレルと戦前水準の4分の1から3分の1程度まで回復していた。

中東の石油産業が本格的に再稼働すれば、この流れは急増する見込みだ。復旧に向けて、サウジの油田技術者やインド人タンカー船長といった人たちが昼夜を問わず働き、市場を通常状態に近づけようとするとみられる。

「すぐに戦前水準の100%へ戻る必要はないが、少なくとも50%にはかなり早く戻る必要がある」と、トラフィグラ・グループのチーフエコノミスト、サード・ラヒム氏は語った。

輸送を担う船舶の動きは

トランプ氏が14日に今週中の合意成立を発表すると、湾岸産油国には顧客から輸送再開の現実性や詳細を尋ねる問い合わせが殺到した。

18日になっても、多くの関係者からの問い合わせは続いた。世界最大の原油タンカー業界団体インタータンコは、船舶を安全にホルムズ海峡へ通過させるために必要な措置について緊急の明確化を要求した。船主らも、航路に機雷が存在しないとの保証を求めている。

ホルムズ海峡での機雷除去作戦がどのようなものになるのか、誰が実施するのかは依然不明だが、安全保障当局者は数日ではなく数週間を要する作業になるとの見方を示している。

「誰もが船を出したいが、必ずしも最初である必要はないという雰囲気だ」と、D/Sノルデンのヤン・リンドボCEOは語る。「通航が再開すれば信頼は高まるだろう。しかし依然として不安定で、その信頼感はひとたび何か起きれば再び失われる恐れがある」

リスクを取る船主には、大きな報酬が待っているかもしれない。適切な時期に適切な場所へ船を配置できれば、1日当たり数十万ドルを稼げるとの見方がある。17日には1200万バレルの積載能力を持つ少なくとも6隻の超大型タンカーがインド洋で大きく進路変更し、ホルムズ海峡再開を見込んでペルシャ湾へ向かった。一部のギリシャ船主のほか、最近世界最大の超大型タンカー運航会社のオーナーとなった韓国人船主のチョン・ガヒョン氏も、オマーン湾周辺に船舶を配置している。

背景にあるのは、積み荷が急増する一方で、それを運ぶ船舶が不足するという読みだ。クラークソンズ・セキュリティーズは今週、ペルシャ湾からの輸送を正常化するには超大型タンカー約140隻分が必要になると試算した。マラッカ海峡以東には理論上1週間以内にホルムズ海峡へ到達できる空船約120隻があるものの、その一部は世界各地の別の仕向け地へ向かう必要がある。

今週、中国のある石油会社がイラク産原油の輸送船を探していたところ、複数の船舶仲介業者によると、タンカー船主は日額60万ドル超の運賃を提示した。これは昨年の少なくとも10倍に当たり、石油会社側はこうした水準に難色を示している。

一方、海峡内で足止めされている船員たちにとっては事情が異なる。22人の乗組員を抱えるタンカー船長のアブジット・チョプラ氏は110日間にわたり身動きが取れず、インドにいる家族のもとへ帰ることを願っている。18日朝、携帯電話のメッセージで合意を知ったが、船内にも周囲の船にも祝福ムードはなかったという。

チョプラ氏はこの数カ月を振り返り、単調な日々が続くなか、ときおり頭上をミサイルが飛び交うこともあったと語った。現在は乗組員とともに、ただ指示を待っている状態だという。

「今後何が起きるのか分からない状態が100日以上続き、緊張感と不確実性が常につきまとっていた」とチョプラ氏は話す。「船舶は慎重に行動している。私たちは皆、次の対応を進めるため、陸上の運航拠点からの指示を待っている」

アジア市場はどう動くか

ホルムズ海峡の再開は、大きな市場変動局面で利益機会を見いだす商品トレーダーにとって、新たな収益機会をもたらすことになる。今年は業界最大手のエネルギートレーダー数社が、2022年のロシアによるウクライナ侵攻以来で最高の利益を記録している。

再開が進めば、中東原油の最大の買い手であるアジアの製油所へ大量の原油が流れ込む見通しだ。数カ月に及ぶ供給不足により、一部の国では精製削減や週4日稼働によるエネルギー配給が行われていたが、日本からベトナムまでの買い手は既に多数の積み荷提案を受けているという。18日にホルムズ海峡を出た最初の船の1隻は、パキスタン向け液化天然ガス(LNG)を積載していた。

これまでは、中国の輸入急減という予想外の要因に加え、戦略備蓄の放出や中東のパイプラインへの輸送振り替えといった対応策が、原油価格の一段の上昇を食い止めてきた。今後は、供給増加により市場は再び供給過剰に転じる可能性がある。一方で、各国や企業は紛争開始以降に失われた10億バレル超の在庫を積み増そうとしている。

「中国は需要を非常に大きく、しかも迅速に変化させる能力を持っており、システムは供給ショックに対してかなり強固だ」と、石油市場調査会社コモディティ・コンテクスト創業者のローリー・ジョンストン氏は指摘する。「今回は究極の供給ショック試験だったが、市場は今のところ合格したようだ」と述べた。

複数の商品トレーダーは、この混乱を乗り越えた後、市場は戦前に予想されていた2026年の姿、すなわち供給が需要を大幅に上回る局面へ戻るとみている。その場合、18日時点で約79ドルだった原油価格はさらに下落する可能性が高い。

中国は最近、商業備蓄の取り崩しを開始したが、輸入回復の兆候は乏しい。ただし、価格下落とホルムズ海峡経由の供給増加が状況を変える可能性があるとトレーダーはみている。

その後は、この戦争から得られた教訓へ焦点が移る見通しだ。UAEは既にホルムズ海峡を迂回する追加パイプライン建設計画を発表した。アジアのトレーダーや製油会社は、中東産原油への依存度の高さを見直すことになるとの見方を示している。

また、戦争で減少した貯蔵タンクを補充するため、供給増加分が迅速に在庫へ回るとの予想もある。米国の戦略石油備蓄は1980年代以来の低水準にあり、日本も3月以降保有在庫の約15%を放出している。一部の関係者は、この在庫補充需要が少なくとも年末まで原油価格の下支え要因となり、世界各地へ原油を運ぶタンカー需要も支えるとみている。

トラフィグラのラヒム氏は、「誰もが在庫を再構築する必要があると考えるだろう」と述べた上で、「原油生産者も製油会社も可能な限りフル稼働するはずだ」と語った。

原題:Hormuz Reopening to Spark Oil Field Restart Visible From Space(抜粋)

--取材協力:Serene Cheong、Yongchang Chin、Sarah Chen、Mia Gindis、Nicholas Lua、Jack Wittels、Paul Burkhardt、Stephen Stapczynski、Anthony Di Paola、Mitchell Ferman、Khalid Al Ansary、Alaric Nightingale.

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