ベッセント氏が原油安を予想していたとすると、高市ビハインドに納得感

イラン情勢について、想定よりも順調に状況が改善していると感じている市場参加者も多いだろう。この流れは、日銀の利上げ判断にも大きな影響を与える可能性が高い。市場では、ベッセント米財務長官が米国のインフレ懸念と金利高止まりを懸念しており、5月11~13日の訪日の際に片山財務相や高市首相に日銀の利上げを求めたという見方が少なくない。しかし、仮にベッセント氏が、足元のイラン情勢の改善と原油価格の下落という流れを予想していた(情報を持っていた)とすれば、話が変わってくる。例えば、もうすぐ原油価格の下落が予想されるので、利上げの判断は遅らせても大丈夫だろう、というメッセージがベッセント氏から日本側に送られていた場合、前述したような市場の見方(ベッセント氏が日銀の利上げを求めた)は外れるだろう。

むろん、実際のところは分からない。しかし、ベッセント氏のもともとのスタンスは無理に日銀の利上げを求めるものではなかったと、筆者はみている。例えば、1月下旬には米財務省は異例の日米協調レートチェックを行い、円安圧力に対応したようである。当時は日本が衆院選挙を控えていたという特殊事情もあったが、仮にベッセント氏が日銀に利上げを求めているのであれば、協調レートチェックに応じるような義理はなかったはずである。少なくとも、ベッセント氏が利上げを求めた上での協調レートチェックだったとすれば、その後の日銀決定会合で利上げが決まっていただろう(実際には3、4月の決定会合で利上げは行われなかった)。

ベッセント氏としては、もう少し早期にイラン情勢の改善(原油価格の低下)が早く訪れるはずだったと考えていた可能性があるものの、考え方は変わっていない可能性がある。そのように考えると、高市首相が原油高やナフサ不足の問題に対して楽観的なように見えることにも合点がいく。高市首相は米国からイラン問題は早期に解決するという情報を受け取っていたのではないだろうか。その情報を頼りに、補正予算は不要であるという主張を続けた。問題が長期化する中で、仕方なく補正予算案を編成することになったものの、依然として米国側からは楽観的な情報が入ってきているため、ナフサ不足に対応して節約要請をする必要はないとみている可能性がある。今後、仮にイラン問題がさらに長期化する場合、各種判断がビハインドザカーブになっていくことになるだろう。

財務省は高市政権の積極財政に対して、「つなぎ国債」で「攻めの撤退」か
日経新聞は5月28日、「政府・自民、成長投資へ『つなぎ国債』 早期に資金調達も償還財源課題」との記事を配信した(朝刊にも掲載された)。記事によると、「政府・自民党は成長投資や危機管理投資に向けて『つなぎ国債』を発行する方針だ。まとまった資金を早期に調達して集中投資し、日本経済の底上げをめざす」という。

「つなぎ国債」は赤字国債とは異なり、将来の財源確保と紐づける形で発行される国債である。国債であることに変わりはないため、「説得力のある償還計画を示さなければ金利上昇につながるリスクも伴う」(日経)ことは事実である。例えば、将来の増税案がその財源とされる場合、その増税による税収増は赤字国債の償還財源には使えなくなるため、財政的にはほとんど赤字国債と変わらないと言える。もっとも、財源を明確にしていくという姿勢は、多くの積極財政派が主張している「財源は成長による税収増によって賄う」といった姿勢とは大きく異なるものである。言い方を変えれば、「つなぎ国債」を使って成長投資を進めようというアイデアは、非常に財務省的だと言える。

高市政権は「責任ある積極財政」を前面に押し出してきたことから、「積極財政」を完全にやめることはできない。したがって、一定の成長投資は実施する必要がある。この状況を前提にすれば、「つなぎ国債」を使って将来の財源(増税の可能性も含む)を明確にしておくというのは、財務省的には「攻めの撤退」といったところだろう。債務残高のGDP比は、「内閣府によると、一般的な試算はGX経済移行債などのつなぎ国債を除いて数字を出す」(同)とされ、形式的には財務省にとって都合が良い。

このような、財務省の復権と言える動きの背景には、最近の金利上昇への懸念があるのか、高市氏に接近している麻生副総裁の意向があるのか、もしくはその両方なのか、現状では分からない。しかし、いずれにしても積極財政は一定の「責任」を意識したものになっていきそうである。消費税率の引き下げの議論についても、流動的だろう。

(※情報提供、記事執筆:大和証券 チーフエコノミスト 末廣徹)