業界初の「無料朝食」と「満足保証」というイノベーション
最初のホテルの稼働率は100%を記録しました。
優れた商品だと確信した創業チームは、ホテル開発業者や建設業者への売り込みを開始します。その強力な武器となったのが、業界初の試みである「無料の朝食」の標準サービス化でした。

当初は無料のコーヒー、ベーグル、マフィンという内容でしたが、ホテル運営側のコストが少し増える一方で、忙しいアメリカの消費者のニーズに完璧に合致しました。
この朝食は大ヒットを記録し、ハンプトン・インは「広くて安く、朝食まで無料」のホテルとして広く支持されるようになります。
さらに数年後、ハンプトン・インは100%の満足を保証する初のホテルチェーンとなりました。
導入当初は、業界内から「大損するぞ」と批判の声が上がりましたが、結果は大成功でした。実際、顧客から返金を求められるのは全体の1%から1.5%程度に留まっています。
ハンプトンbyヒルトンの上級副社長でありグローバルブランド責任者を務めるシュルティ・バックリー氏は、長年のブランド調査において、一貫性のある企業として常に名前が挙がるのがハンプトン・インであると語ります。
もちろん、この成功を競合他社が放っておくはずはありませんでした。ハンプトン・インの開業からわずか3年後にはマリオットが「フェアフィールド・イン」を、1990年にはホリデイ・インが「ホリデイ・イン・エクスプレス」を開業し、追随してきました。
ヒルトンによる買収と「資産を持たない」驚異の成長戦略
1990年代後半、ホテル業界では高級・中級・格安といった市場の細分化が進んでいました。
アメリカ最大手のヒルトンは、拡大する中間層市場への参入を狙っており、中級ホテルのための物件を必要としていました。
そこで1999年、ヒルトンはハンプトン・インの親会社を40億ドルで買収したのです。
ヒルトンのお墨付きを得たことで、ハンプトン・インのアメリカ市場での信頼はさらに高まりました。
1999年の買収当時、1000軒だった物件数は、現在世界3000軒超へと拡大しています。
競合であるマリオットのフェアフィールド(世界約1300軒)を大きく引き離し、物件数でわずかに上回るホリデイ・イン・エクスプレスに対しても、客室数ではハンプトン・インが約1000室多くなっています。
驚くべきことに、これらのハンプトン・インの維持費や管理責任はヒルトンにはありません。なぜなら、すべての責任はホテルのオーナーにあるからです。
ヒルトンが展開する全8497軒のホテルのうち、自社で所有・賃借しているのはわずか47軒(1%未満)に過ぎません。ヒルトンは実質的にホテルをほとんど所有しておらず、この「資産を持たないビジネスモデル」において、成長の主役はオーナー自身なのです。

あるオーナーは、2000年代初頭に出張でハンプトンに泊まった際、当時フルサービスホテルでは有料が当たり前だった「無料Wi-Fiと朝食」を提示され、部屋の美しさと値段以上の価値に感銘を受けました。
翌朝目覚めた瞬間に「ホテルを買うべきだ」と決意したといいます。市場をリードするブランドにヒルトンの強みを掛け合わせることは、投資家にとっても最強の組み合わせでした。
89室のハンプトン・インの開発費は土地代を除いて1500万ドルからですが、その見返りは驚くべきものです。
アメリカにおけるハンプトン・インの平均的な業績は、2024年に競合を21%も上回りました。ブルームバーグの分析によると、この年は9000万泊以上を販売しており、これはホリデイ・イン・エクスプレスより数百万泊も多い数字です。
世間の関心は高級ホテルに集まりがちですが、ヒルトンの成長と収益を支える真のエンジンは、このハンプトン・インなのです。