高市政権のビハインドザカーブのリスクと、「国力研究会」発足の関係
結局のところ、原油高というインフレ圧力はどこかの誰かが体感しなければならない。その影響をできるだけ軽減するためには、通貨高によって輸入物価を弱めることが望ましいというのが過去の経験則である。そういった中で、日銀にもこれまで以上に利上げを求める声が増えているが、高市政権は利上げによる経済への悪影響を懸念しており、日銀が6月利上げに踏み切ることは難しいという見方も多い。
そういった中、5月22日に高市首相と植田日銀総裁は、首相官邸で会談を行った。植田総裁は会談後に「中東情勢を踏まえて、経済、物価、マーケット情勢についてお互いに意見交換した」「金融政策の考え方についても説明した」(日経)と述べた。6月利上げについては、「具体的な話は特に出さなかった」(同)としたものの、日銀はできるだけ早期の利上げを実施したい立場とみられ、高市首相がこれを容認した可能性がある。後に重要な会談だったとされる可能性がある。筆者は、高市政権が企業マインドのダウンサイドリスクを警戒しているとみていることから、7月1日に公表される予定の日銀短観の結果を確認した後に利上げの可否が議論されると予想している(6月会合は現状維持)。とはいえ、高市政権がこれ以上のビハインドザカーブは望ましくないと考えている可能性も否定できない。
市場では、日銀がビハインドザカーブに陥っている可能性について議論されることが多いが、ビハインドザカーブの傾向があるのは高市政権だと、筆者はみている。この点は、当初は必要ないとされながらも、結局は編成されることになった26年度補正予算案を巡る議論で明確化されたのではないだろうか。
では、高市政権はもともとビハインドザカーブの特徴があったのだろうかと考えると、当初は逆のイメージであった。高市政権は25年10月21日に発足したが、25年11月18日に植田総裁と最初の会談を行い、日銀は25年12月18-19日の決定会合で利上げを決めた。後に、高市首相が日銀の判断について不満を持っているという見方も指摘されたが、少なくとも現在よりは機動的だった印象である。また、高市政権は26年1月23日には、衆議院を電撃的に解散した。この解散は、政治的にかなりフォワード・ルッキングな判断だった。
フォワード・ルッキングの傾向があった高市政権がビハインドザカーブになってきた背景については、官邸機能の低下が背景にあると、筆者はみている。この点について、高市首相と早期の解散を助言したと言われる今井内閣官房参与に確執があると、4月に報じられたことが関係している可能性があるだろう。
奇しくも、麻生自民党副総裁が高市首相を支えることを目的としているとされる「国力研究会」を立ち上げ、5月21日に初会合が行われた。高市首相と今井内閣官房参与の距離ができていると報じられる中で、高市首相と麻生氏の距離が縮まっているようにみえることは、無関係ではないだろうと、筆者はみている。麻生氏は、25年10月4日に行われた自民党総裁選で高市氏を支持し、高市政権発足の立役者と言われている。しかし、高市氏は今井内閣官房参与が早期の実施を助言したとみられる衆院の解散判断について、事前に麻生氏に相談しなかったと報じられている。そして、高市首相は選挙で大勝した後、麻生氏に衆院議長就任を打診して固辞されたとも報じられている。そういった中で、麻生氏が「国力研究会」を立ち上げたことは、これまでの構図が大きく変わってきていることを意味しているだろう。すなわち、現在は高市首相と今井内閣官房参与は距離があり、その結果として麻生氏と距離が縮まっているという見方ができる。
政策判断との関係で言えば、高市首相と今井内閣官房参与の距離があることは懸念材料である。これまで今井内閣官房参与がフォワード・ルッキングな判断の中心にいた可能性が高いと考えると、しばらくは高市政権のビハインドザカーブが続く懸念があると、筆者はみている。
(※情報提供、記事執筆:大和証券 チーフエコノミスト 末廣徹)