防衛支出を一過性の需要に終わらせないために
防衛費拡大には、財政面のリスクが伴う。IMF[2026]によれば、典型的な防衛費拡大局面では、防衛支出はGDP比で平均2.7%ポイント増加し、その約3分の2が財政赤字で賄われる。財政赤字はGDP比で約2.6%ポイント悪化し、公的債務の GDP 比は3年以内に約7%ポイント上昇する。場合によっては社会保障支出を圧迫するリスクもある。財政状況が厳しい日本では、この点を軽視すべきではない。その意味でも、同志国との共同開発・生産は、単独で研究開発や量産を担う場合に比べ、費用や技術的リスクを分担し、財政負担を抑えながら必要な装備を確保する選択肢となり得る。
制約は財政だけではない。国内基盤の強化には供給面の制約もある。人材や設備、サプライヤー網が追いつかず、円安・物価高で調達費が上振れすれば、予算を増やしても、それが直ちに防衛力として発現するわけではない。
したがって、防衛費の規模だけを競っても意味は薄い。重要なのは、限られた財源と供給力を、どの領域に優先的に振り向けるかである。防衛支出を一過性の需要に終わらせないためには、輸入装備への依存を過度に高めず、国内で開発から維持整備・改良までの要所を担う必要がある。装備移転や共同開発を継続的な需要につなげるとともに、デュアルユース技術については実証から調達へ進みやすい場を広げる。あわせて、政策効果を客観的な指標で検証する。
内閣府が関係府省庁と取りまとめた「EBPMアクションプラン2025」は、防衛生産・技術基盤の維持・強化を対象分野に含めている。同計画では、サプライチェーンリスクへの対応や先端技術の取り込み、装備化につながる研究、防衛装備移転などについて、アウトカム指標を設定し、データに基づく分析・検証を進めることとしている。こうした枠組みを生かし、国内企業が装備のライフサイクルの中で担う範囲が広がったか、研究開発や改良に資金が回ったか、重要部品の供給途絶リスクが下がったかなどを確認していく必要がある。大学発・スタートアップ発の技術が、実証止まりでなく本格調達へ進んだかも重要な検証対象である。支援企業の前後比較だけに頼らず、条件の近い非支援企業とも比較できるようになれば、防衛支出が技術・産業基盤を実際に厚くしたかをより厳密に検証できる。
国内の技術・産業基盤を維持・強化することは、防衛を名目にあらゆる支出を産業政策化することではない。すべての装備や部品を国内で完結させることでもない。国際的なサプライチェーンのなかで、海外から調達すべきものは調達し、同盟国・同志国と分担すべきものは分担する。そのうえで、日本が強みを持つ分野や戦略上不可欠な中核領域については、システム統合、重要部品、ソフトウェア改修、弾薬・補給、維持整備・改良などを国内で担える力を確保する。防衛支出を「コスト」で終わらせないために必要なのは、国内に生まれる需要を、単発の発注にとどめず、将来の防衛力と成長力を支える技術・人材・設備の蓄積へつなげることである。防衛費増額の成否は、予算の総額ではなく、こうした国際分業のなかで日本が担うべき機能を見極め、調達や国際協力等を通じて、開発・生産・維持整備のどの機能を国内に残し、伸ばせるかにかかっている。
参考文献
• International Monetary Fund (IMF) [2026]. World Economic Outlook, April 2026:
Global Economy in the Shadow of War, Washington, DC: International Monetary Fund.
• 首相官邸 [2026]. 「令和 8 年 2 月 24 日 経済財政諮問会議」首相官邸ホームページ
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• 内閣府 [2025]. 『EBPM アクションプラン 2025』(2025 年 12 月 25 日経済財政諮問会議
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• 防衛省 [2026a]. 「防衛力抜本的強化の進捗と予算-令和 8 年度予算の概要(要約版)」防
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(https://www.mod.go.jp/j/press/kisha/2026/0417a.html)
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• 三菱重工業 [2026]. 「豪州政府と次期汎用フリゲートの共同開発・生産に関する契約を締
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(https://www.mhi.com/jp/news/260418.html)
<閲覧日:2026 年 5 月 19 日>
(※情報提供、記事執筆:日本総合研究所 調査部 主任研究員 井上肇)