装備移転・共同開発を技術・産業基盤の強化につなげる
国内の技術・産業基盤の強化には、防衛装備移転の拡大も有力な手段の一つである。装備移転の意味は、単に完成品を海外に売ることではない。開発・生産から整備・補給、技術協力に至る一連の関係を通じて、日本の防衛産業を同志国とのネットワークの中に位置付け直すことにある。
日本の防衛産業は、長く国内需要を中心にしてきた。自衛隊向けの少量多種生産では、生産規模が小さくなりやすく、企業は設備投資や人材育成に踏み切りにくい。多くの防衛関連企業は防衛専業ではなく、民生事業とともに営まれている。収益性が低く、販路も限られれば、事業撤退のリスクは高まる。
この構造を変える契機となり得るのが、2026年4月21日の防衛装備移転三原則・運用指針の見直しである(防衛省[2026c])。従来、国産完成品の移転は、原則として救難、輸送、警戒、監視、掃海の「5類型」に限られていた。今回の見直しは、その制約を改め、完成品、部品、技術、修理等の役務を含め、制度上の移転可能性を大きく広げるものとなった。ただし、移転拡大は無制限の武器輸出ではない。移転先や用途、第三国移転、移転後の管理を適切に確認する仕組みが不可欠である(防衛省[2026c])。輸出額の拡大を目的化すれば、装備移転は国民の支持を失いかねない。あくまで、望ましい安全保障環境と国内産業基盤の形成を両立させるための手段でなければならない。
その意味で、豪州向けの護衛艦をめぐる案件は重要である。三菱重工業は豪州政府と、次期汎用フリゲート計画における「もがみ」型護衛艦の能力向上型 3 隻の建造契約を締結した(三菱重工業[2026])。
長崎造船所で建造を始め、2029年12月の1番艦納入を目指すとしている。艦艇を移転するだけでなく、建造後の維持整備や将来改修まで協力を広げられれば、国内企業に安定した需要が生まれる。同志国との相互運用性、維持整備基盤、サプライチェーン協力の強化にもつながる。
この発想は、共同開発・生産にも通じる。日本がすべてを国内で抱え込む必要はない。同志国との共同開発・生産や相互整備を組み合わせ、強みのある分野を持ち寄ることが現実的である。英国・イタリアとの次期戦闘機共同開発(GCAP)も、費用とリスクを分担し、各国の技術を組み合わせる国際分業の試みと位置付けられる。重要なのは、その国際分業の中で、システム全体をまとめる力や重要部品・維持整備の中核を日本が担い続けることである。そうして初めて、装備移転や共同開発は、防衛産業を単発の国内需要に依存する構造から、継続的な国際需要と技術協力に結び付ける政策となる。
デュアルユースは防衛と成長を結び付ける回路になる
国内の技術・産業基盤の強化のもう一つの鍵が、デュアルユース、すなわち軍民両用技術の活用である。現代の安全保障では、AI やドローン、宇宙・サイバー、量子・通信関連技術などをめぐり、民生技術と防衛技術の境界が急速に曖昧になっている。防衛産業を大手重工メーカーだけの閉じた領域として捉える発想では、技術革新の速度に追いつけない。
鍵になるのは、民間で生まれた技術を防衛分野へ迅速に取り込み、実証し、改良し、装備や運用に反映する仕組みである。防衛分野が実証と調達の場になれば、防衛需要は民間の研究開発投資や人材育成を後押しする。逆に、調達制度が硬直的なままでは、優れた民生技術があっても防衛分野に入ってこない。とくに、秘密保全、知財・輸出管理、要求仕様の変更への対応、少量調達による収益予見性の低さは、民生技術が実証から本格調達へ進む際の壁になりやすい。
政府内でも、防衛力強化、経済安全保障、成長戦略を接続して捉える議論が強まっている。令和8年第2回経済財政諮問会議では、イノベーション促進に向けて、デュアルユース技術を含む先端技術研究開発への政府の中長期的コミットや、公共調達におけるスタートアップ比率3%目標の早期達成などが示された(首相官邸[2026])。こうした議論は、民間技術を防衛分野に取り込み、実証から本格調達へ進みやすくする環境整備の重要性を示している。
防衛支出を技術・産業基盤の強化につなげるには、既存の防衛企業の外にある技術の担い手が防衛分野に入りやすいよう、調達・実証の場を広げる必要がある。防衛と民生を切り離さず、人材や知見が双方向に行き来する仕組みをつくることが、防衛力と経済力を同時に高める回路になる。