韓国のメモリー半導体大手SKハイニックスは、米国市場で外国企業として過去最大の新規株式公開(IPO)を成功させた。上場初日の米国預託証券(ADR)は13%上昇した。

この歴史的な上場の背景には、長年にわたりメモリー半導体業界を特徴づけてきた好況と不況のサイクルをAIブームが根本から変えるとの見方がある。SKハイニックスはADR発行を通じて265億ドル(約4兆3000億円)を調達した。

その資金の多くは半導体製造能力の拡大に充てられる。過去の供給過剰で大きな打撃を受けた経験から、業界全体が長年慎重姿勢を続けてきた投資にまさに踏み切る形だ。

SKハイニックスの郭魯正最高経営責任者(CEO)はブルームバーグとのインタビューで、「われわれはシクリカル業界であり、浮き沈みを経験してきた」と述べる一方、「状況は明らかに変わった」と語った。

米OpenAIの生成AI「ChatGPT」が象徴する時代の到来により、メモリー不足は長期化し、サプライチェーン全体に影響が広がるとともに、アップルのタブレット「iPad」からマイクロソフトのゲーム機「Xbox」まで幅広い製品の価格を押し上げているという。米メディアとのインタビューは今回が初めて。

郭CEOによると、現在は顧客側から長期供給契約を求める動きが広がっている。「顧客は供給不足の状況がさらに長く続くと考えている」とし、供給不足は2030年以降まで続く可能性があるとの見通しを示した。

こうした見通しを前提に、データセンターへの数兆ドル規模の投資計画が進められている。資金はプライベートクレジットから社債市場まで、金融市場の幅広い分野から調達されている。アルファベット、アマゾン・ドット・コム、メタ・プラットフォームズ、マイクロソフト、オラクルの5社だけでも、AI戦略を支えるハードウエアの整備に向け、過去5年間で合計約3500億ドルの負債を積み増した。

一方で、こうした熱狂に懐疑的な見方も少なくない。映画「The Big Short(邦題:マネー・ショート 華麗なる大逆転)」で知られるマイケル・バーリ氏や、ブリッジウォーター・アソシエーツ創業者レイ・ダリオ氏らウォール街の著名投資家は、AIバブルはいずれ崩壊すると警告している。AI開発を主導する最大手企業でさえ、自社のAIモデルやツールが利益を生み出せることをまだ証明できていない。

もっとも現時点では、SKハイニックスと、同業のサムスン電子、マイクロン・テクノロジーは、AI投資拡大の恩恵を受ける主な企業として好調を維持している。AI向けシステムで使用される高帯域幅メモリー(HBM)をはじめ、従来型メモリーに対する需要も大きく押し上げられている。

ニューヨークでインタビューに応えたSKハイニックスの郭魯正CEO(7月10日)

SKハイニックスを傘下に持つSKグループの崔泰源会長はブルームバーグテレビジョンとのインタビューで、「需要が拡大する一方で、われわれの供給能力が追いつくことはないとの確信をある程度持っている」と述べた。

崔会長はメモリー半導体の需給について、世界が汎用(はんよう)人工知能(AGI)を実現するまで正常化しない可能性があるとの見方を示した。AGIは一般に、AIシステムが人間を総合的に上回る知能を備えた段階を指す。「それまでは、多くのメモリーが必要になる」と語った。

郭CEOによれば、AIインフラの整備がインターネットの普及と同じような道筋をたどるのであれば、その拡大は数十年に及ぶ可能性がある。「インターネットのインフラ整備が完了するまでには約30年かかった」と指摘した上で、「AI産業の規模はインターネットよりはるかに大きいと考えている」と語った。

今週実施された米国でのIPOは、SKハイニックスにとって目覚ましい復活劇の集大成となった。同社はLG半導体と現代電子の2社を母体とし、韓国で債権団主導の救済を経て誕生した。その後も長年にわたり、半導体業界特有の激しい好不況のサイクルに苦しんできた。

崔会長は、SKハイニックスが現在、顧客との複数年契約を確保しており、一段と安定した需要の確保につながっていると説明。「もはや周期的なビジネスではない」と述べた。後退の局面でも、長期契約によって販売数量とメモリー価格の維持を支え、「それが当社に異なる局面をもたらしている」と語った。

また崔会長は、SKハイニックスが技術提供の新たな形態も検討していると明らかにした。その一例として、「メモリー・アズ・ア・サービス」の構想を挙げた。具体的な計画には触れなかったものの、顧客が半導体そのものを購入するのではなく、利用量に応じてサービスとして利用する仕組みが考えられるとの見方を示した。

動画:SKグループの崔泰源会長は、SKハイニックスの米国上場を長年待ち望んでいたとした上で、「夢がかなった」と語った

郭CEOは、今回の米国でのADR上場の狙いの一つは、AI関連の顧客との連携を一段と深めることにあると話す。顧客はそれぞれ異なる種類の製品や設計を求めており、それが同社製半導体に対する需要をさらに押し上げる要因になるとの認識を示した。

SKハイニックスがメモリー半導体の生産を米国へ移す可能性についての質問には、その可能性を否定しなかった。ただ、立地については電力、水、人材といった同社の基準を満たす必要があると述べた。

崔会長は10日、SKグループ全体として既に350億ドル超を米国に投資していると明らかにした。その上で、「私の計画は350億ドルを大きく上回る。はるかに大きな規模だ」と語った。

また、SKハイニックスのADR追加発行を米国で実施する可能性にも前向きな姿勢を表明。その前に新たな投資家に十分なリターンをもたらす必要があるとの認識を示した。

「リターンが改善すれば、需要はさらに高まる」とし、「まず取り組むべきことは株価を安定させることだ。そして長期的には、さらなる株価上昇の可能性を実現したい」と語った。

原題:SK Hynix Debut Is a Bet That AI Breaks Boom-and-Bust Chip Cycle(抜粋)

--取材協力:Subrat Patnaik、Sarah Frier.

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