防衛費増額の効果は「使い方」で決まる

日本を取り巻く安全保障環境は厳しさを増している。米中対立の長期化、台湾海峡をめぐる緊張、ロシアによるウクライナ侵略、北朝鮮の核・ミサイル開発などを背景に、防衛力をどう強化するかは、日本にとって避けて通れない課題になった。こうした環境の下、防衛費には一段の拡大圧力がかかっている。

防衛費をめぐる争点は、いくら増やすかだけではない。問われるべきは、増額された支出がどれだけ国内需要を生み、それを装備の維持整備や継続的な改良を支える技術・人材・設備の蓄積へと結びつけられるかである。装備そのものは取得できても、それを維持整備し、運用を支え、継続的に改良する能力は短期間では形成できない。輸入装備品に過度に偏れば、防衛上の能力を速やかに補うことはできても、国内の生産・雇用・投資を生み出す能力は小さくなり、中長期的に技術・生産基盤を厚くする効果も限られる。

防衛費は本来、安全保障のための支出であり、景気対策ではない。主な目的は戦闘の抑止と国民の安全確保であって、産業振興ではない。ただし、防衛力を持続的に支えるには、取得した装備を維持整備し、改良し続ける国内基盤が必要である。厳しい財政状況の下でも防衛費の増額が避けがたい今、その支出が防衛力の向上だけでなく、国内の技術・産業基盤の強化にもつながる設計になっているかが問われている。

この点で参考になるのが、IMFの2026年4月の世界経済見通しである(IMF[2026])。それによれば、防衛支出は短期的には需要を押し上げ得るが、その効果は支出の配分、財源、持続性、輸入装備品への依存度によって大きく異なる。平均的な防衛支出乗数は1程度にとどまり、輸入依存が高い場合には需要が国外に漏れ、国内生産や雇用への波及は小さくなる。一方で、研究開発、設備投資、国内生産能力の強化に結び付く支出は、中長期の生産性や技術基盤を支える可能性がある。

したがって、ここで得られる教訓は、防衛費の効果は総額ではなく、支出の配分と調達構造によって決まるということである。海外装備の導入は、足元の防衛力を速やかに補うために必要である。しかし、それだけに偏れば、国内への需要効果は限られ、維持整備や部品供給、改良を担う基盤も厚くならない。研究開発や国内生産に加え、取得後の維持整備や改良まで見据えた支出を組み合わせてこそ、防衛力強化を国内の技術・産業基盤の強化にもつなげることができる。

日本では、この論点は、防衛費拡大の局面で、能力増強のスピードと国内基盤の強化をどう両立させるかという問題として現れている。防衛関係費は、長らく対GDP比でおおむね1%前後にとどまってきたが、2020 年代に入り、金額・対GDP 比の双方で上昇している。

2026 年度の防衛関係予算は、SACO・米軍再編関係経費を含め9兆353億円となった(防衛省[2026a])。また、2026 年度予算における防衛力の抜本的強化とそれを補完する取組は10.6兆円であり、現行の国家安全保障戦略の策定時である2022年度GDPと比較すると1.9%、2026年度の GDP見通しを用いて機械的に計算すると1.5%となる(防衛省[2026b])。これだけ大きな規模となる以上、装備をどれだけ調達するかだけではなく、その結果として、どの開発・生産・維持整備機能が国内に形成・維持され、どの技術・生産基盤を将来にわたり確保できるのかが問われる。