こどもたちの将来的なファイナンシャル・ウェルビーイングのために
以上、日本の幼児教育における金融経済教育の現状と課題の整理を行ってきた。最後に、幼児期の金融経済教育の意義を、こどもたちの将来的なファイナンシャル・ウェルビーイングという観点から位置づけておきたい。
「幼児期からの金融経済教育」と聞くと、一部の人にとっては、そのような幼い時期から「お金」の議論を持ち込むことに不安や抵抗を感じる側面があるかもしれない。
しかしながら、こどもたちが将来にわたって幸せに生きていくために、お金と適切に関わる能力や方法を身に付ける機会を早期から継続して提供することは重要な取り組みだと考えられる。
Gallup(ギャラップ)社が行ったグローバル調査の結果からは、充実した人生と苦悩に満ちた人生とを区別する、幸福―ウェルビーイング―の基盤となる普遍的な要素が5つあることがわかっている(Rath and Harter 2010; 村上・髙宮 2025)。
その5つとは、
「キャリア・ウェルビーイング」
「ソーシャル・ウェルビーイング」
「ファイナンシャル・ウェルビーイング」
「フィジカル・ウェルビーイング」
「コミュニティ・ウェルビーイング」である。
「キャリア・ウェルビーイング」とは仕事や学業なども含め私たちが日々時間を費やしていること(キャリア)に関する充実感などを指し、
「ソーシャル・ウェルビーイング」とは信頼や愛情を感じられるつながりがあるかどうか、
「ファイナンシャル・ウェルビーイング」とは、経済的生活を効果的に管理し家計に対して経済的な安心感を持てているかどうか、
「フィジカル・ウェルビーイング」とは日々物事を成し遂げるだけの十分なエネルギーが心身にあり健康であるかどうか、
「コミュニティ・ウェルビーイング」とは家庭や職場、地域などに自分の居場所があるという安心感があるかどうかを意味する(Rath and Harter 2010; 村上・髙宮 2025)。
村上隆晃・髙宮咲妃によれば、大切なのは、この5つの要素をバランスよく高めていくことだという(「第1章 ウェルビーイング(WB)とは」ウェルビーイング学会ファイナンシャル・ウェルビーイング分科会編『よくわかるウェルビーイング&ファイナンシャル・ウェルビーイングQ&A』2025年)。
このうち金融経済教育は、こどもの将来的な「ファイナンシャル・ウェルビーイング」を支えるための支援として位置づけられる。
こどもたちが金融経済教育を通して金融リテラシーを身に付けることは、将来的にこどもたちのお金の面での安心を支え、彼らが自分らしい人生を選択する機会を保障し、そして人生全般のウェルビーイングを向上させるための一助になる。
特に、日本では明示的にお金の話をすることに対して「はしたない」という風潮もあり、家庭によってお金に関する会話や体験の機会には差がある。
幼児教育の場で基礎的な金融経済教育を行うことは、家庭環境による金融リテラシー格差を緩和し、すべてのこどもたちに将来のファイナンシャル・ウェルビーイングを実現するための機会を平等に提供することにつながる。
政府全体のこども施策の基本的な方針等を定める「こども大綱」にも、こども大綱が目指す「こどもまんなか社会」の具体例として、「全てのこどもや若者が、保護者や社会に支えられ、生活に必要な知恵を身に付けながら」、「夢や希望を叶えるために、希望と意欲に応じて、のびのびとチャレンジでき、将来を切り開くことができる」社会が掲げられている。
こども政策の観点からも、すべてのこどもたちが、経済的な不安や困難のなかで自分らしい人生を選択する機会を失ってしまうことのないよう、金融リテラシーの形成を幼少期から社会全体で支える仕組みを構築していくことが、重要である。
(※情報提供、記事執筆:第一ライフ資産運用経済研究所 政策調査部 研究員 小林 菜)