(ブルームバーグ):サム・アルトマン氏率いるOpenAIが公益に資するという使命を裏切り、営利企業へと変質したとイーロン・マスク氏が訴えた裁判で、陪審団は18日、マスク氏の主張を退けた。マスク氏がOpenAIを提訴するまでに時間をかけ過ぎたと判断した。
2015年に共同でOpenAIを立ち上げた起業家同士の確執を巡る係争で、カリフォルニア州オークランドの連邦地裁の陪審団が評決を下した。OpenAIはその後、世界で最も価値が高く、影響力のある人工知能(AI)企業の1社に発展した。
同地裁のゴンザレスロジャース判事は、約2時間の評議を経て9人の陪審団が全会一致で下した結論を受け入れ、「陪審団の判断を裏付ける相当量の証拠があると考えている」と述べた。
マスク氏が訴訟を提起して以降、シリコンバレーの注目を集めてきた訴訟の審理は、OpenAI共同創業者間で長年続いてきた対立の集大成となった。
今回の判断は、将来的な新規株式公開(IPO)を考慮するOpenAIにとって大きな安心材料となる。OpenAIは昨年、営利企業化のための組織再編を実施。マスク氏は、この動きを差し戻す裁判所命令など、抜本的な変更を求めていた。
OpenAIの弁護士、ウィリアム・サビット氏は記者団に対し、「今回の陪審団の判断は、この訴訟が競合相手を妨害しようとする偽善者による偽善的な試みだったことを確認するものだ」と語った。
マスク氏と弁護団は控訴する方針を示したものの、どのような主張を展開するかの詳細は明らかにしなかった。
陪審団は、マスク氏が自身の主張の根拠となる事実を数年前の時点で十分に把握しており、24年より前に提訴すべきだったと結論付けた。OpenAIが商業利益の最大化へと方針転換することで、人類の利益のためにAIを開発するという責務を放棄したとのマスク氏の中核的な主張については、陪審団は判断を示さなかった。

陪審団は約3週間にわたり、マスク氏、アルトマン氏、OpenAIのグレッグ・ブロックマン社長ら、約10年前からの双方の対立を間近で見てきた主要関係者の証言を聴取した。
陪審団はまた、数百件に及ぶ非公開メッセージのやり取りや日誌、企業文書にも目を通した。これらは対話型AI「ChatGPT」を開発したOpenAIが、過去11年間で小規模スタートアップから企業価値1兆ドル(約159兆円)近くの企業へと変貌していく過程の内部事情を詳細に示す内容だった。
異なる見解
マスク氏側とOpenAI側は、この変貌について裁判を通じて大幅に異なる見解を示した。
マスク氏側は、アルトマン氏とブロックマン氏がOpenAIを営利企業へ再編する決定を下し、「慈善団体を盗んだ」と主張した。さらにマスク氏は、マイクロソフトが19-23年にOpenAIに130億ドルを投資したことで、この裏切りを支援したと非難した。
マイクロソフトは陪審団の評決を歓迎。同社の広報担当者は、「この件に関する事実関係と時系列は以前から明白で、提訴期限を過ぎたものとして陪審団がこれらの主張を退けた判断を歓迎する」とした。その上で、「当社は引き続きOpenAIとの取り組みを通じ、世界中の人々や組織に向けてAIの発展と普及拡大を進める」と説明した。
マスク氏側はアルトマン氏について、人を欺く企業経営者として描写。アルトマン氏が23年に最高経営責任者(CEO)を一時解任された経緯についても長時間にわたり取り上げ、OpenAIの取締役会でさえ同氏を信用していなかったと主張した。
マスク氏側はまた、OpenAIの成功によって創業者や初期の投資家に莫大(ばくだい)な富がもたらされた点を強調した。
ブロックマン氏は自身の持ち分の価値が300億ドル近いと証言し、元チーフサイエンティストのイリヤ・サツキバー氏も、自身保有の株式価値がおよそ70億ドルに達すると認めた。マイクロソフトのサティア・ナデラCEOは、同社が投資に対して920億ドルのリターンを見込んでいたと証言した。マイクロソフトの保有株式価値は昨年10月時点で、1350億ドルと評価されていた。
アルトマン氏は直接的な株式持ち分を保有していないものの、OpenAIと取引関係を持つ他企業に権益を有していると明らかにした。その中には、核融合発電企業ヘリオン・エナジーの持ち分17億ドル相当、決済処理会社ストライプの持ち分6億3300万ドル相当、現在約2500万ドル相当となっている半導体企業セレブラス・システムズの株式が含まれる。
OpenAI側の弁護士はマスク氏について、事業の将来に対する全面的な支配権を他の共同創業者が同氏に認めなかったことでOpenAIを去り、その後23年に競合企業xAIを立ち上げた嫉妬深い競争相手だと表現した。
OpenAIは非営利団体からの転換を巡り、人類に利益をもたらす汎用(はんよう)人工知能(AGI)の実現という使命を果たすために必要な巨額資金を確保する上で不可欠だったと主張している。
アルトマン氏とブロックマン氏はともに、マスク氏の妥協を許さない指導者観に懸念を抱いていたと説明。また、同氏について、自身の思い通りにならないと感情的になりやすく、怒りを爆発させやすい人物だったと証言した。
ブロックマン氏はさらに、電気自動車(EV)大手テスラなどを率いるマスク氏のAI技術に関する技術的理解を批判した。ブロックマン氏は「確かに彼はロケットやEVについては理解している。しかし、AIについては理解しておらず、今も理解していないと私は考えている」と述べた。
OpenAI側の証人として証言した他の関係者は、同社の規模と影響力が拡大した現在も、創業時の使命は維持されていると主張した。また、昨年設立された公益企業を引き続きOpenAI財団が統治している点も強調した。
マスク氏とOpenAIとの闘いは続きそうだ。
マスク氏は、OpenAIとマイクロソフトが提携を通じて独占状態を築いたと非難している。また、OpenAIの非営利部門が投資家に対し、ライバルAIスタートアップへの出資を控えるよう促していたと主張。これにより、自身のxAIを含む競合企業が不利益を被ったとしている。これらの主張も同じ訴訟に含まれているが、ゴンザレスロジャース判事は審理を複数段階に分ける判断を下した。
マスク氏のxAIはこのほか、営業秘密の窃取や反トラスト法(独占禁止法)違反を巡る別個の訴訟もOpenAIに対して進めている。
原題:Elon Musk Loses Case Against Sam Altman Over OpenAI’s Overhaul(抜粋)
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