(ブルームバーグ):トランプ米大統領は、台湾について何も語らないという賢明な選択をすることもできた。だが実際には、それ以外のことを全てやってしまった。結果として、米国やインド太平洋地域の同盟国、そして何より台湾に深刻な混乱をもたらしている。
問題となったのは、トランプ大統領が先週、中国の習近平国家主席との首脳会談のため、北京を訪問している際に収録されたインタビューだ。その中でトランプ氏は、先送りされている140億ドル(約2兆2200億円)相当の台湾向け武器売却を「交渉カード」と表現した。
「これは保留しており、中国次第だ」と語り、「率直に言って、われわれにとって非常に有力な交渉カードだ」と述べた。
これは、首脳会談前に筆者がまさに警告していた危険性だった。トランプ氏が台湾を貿易交渉の材料として扱うという懸念だ。こうした軽率さは中国への贈り物となり、台湾海峡の危うい平和を維持してきた数十年にわたる米国の慎重な政策を台無しにしかねない。
また、インド太平洋地域における米国の影響力を損ねることにもなる。台湾やワシントンにいる支持者、日本やフィリピンといった地域の同盟国は、トランプ氏がもたらしたダメージを抑えるため、迅速に動く必要がある。
何を得たのか
自らを優れたディールメーカーだと誇る人物にしては、中国にこれほど大きく譲歩する見返りとして何を得たのかは見えにくい。中国はボーイング機の追加購入に同意したが、その規模は予想より小さかった。
また、ホワイトハウスは、中国が2028年まで毎年少なくとも170億ドル相当の農産物を米国から購入すると説明。ただ、中国商務省の発表内容はそれほど具体的ではなかった。
これらは、実質的な成果というより宣伝的な意味合いが強く、台湾を危険にさらさずとも実現できたはずだ。
ブルッキングズ研究所ジョン・L・ソーントン中国センターのライアン・ハス所長は、台湾を巡る米国の立場を交渉対象とする姿勢は、「闘牛士が牛の前で赤い布を振るような外交行為だ」と指摘する。中国はトランプ氏の発言を新たな出発点と見なし、最終目標である台湾統一に向けてさらに圧力を強めるだろう。
台湾の警戒は当然
台湾側が警戒するのは当然だ。インタビュー後、台湾外交部(外務省)は声明で、台湾は主権を持ち、独立していると主張。頼清徳総統の報道官も、米国の武器供与は「台湾関係法に基づく米国の安全保障上の関与を示すだけでなく、地域の脅威に対する相互抑止にもなる」と訴えた。
表向きの自信の裏には、強い不安がある。台湾海峡の平和は長年、「戦略的曖昧さ」という政策によって維持されてきた。これは、中国による台湾への一方的な攻撃を米国は容認しないと強く示唆しながらも、実際に介入するかどうかは明言しない曖昧な方針だ。
歴代米大統領は長年、台湾独立を「支持しない」と述べてきた。この表現は「反対する」に比べて意図的に弱められている。両者の間の微妙な違いこそが米政府の柔軟性を支えてきた。つまり、台湾の主張を全面的に支持することなく、中国にも警告を発する余地を残していたのだ。
トランプ氏の不用意な発言は、この微妙な均衡を崩した。台湾を交渉カードとして扱うことによる影響は、安全保障面にとどまらない。台湾は世界最先端半導体の約90%を生産しており、それは米中の経済・軍事競争の次の主戦場である人工知能(AI)システムを支えている。台湾海峡で危機が発生すれば、世界有数の海上輸送路も脅かされる。
これまで以上に危険
では、今後何が必要なのか。まず140億ドル規模の武器売却は実行されなければならない。信頼できる抑止力こそが地域の安定を維持してきた唯一の要因だからだ。
トランプ政権内の他の発言は多少の安心材料となっている。グリア米通商代表部(USTR)代表は17日、台湾政策に変更はないと述べ、大統領発言を事実上打ち消した。
より明確な説明も必要だ。台湾関係法は米国に台湾への防衛装備品供与を認めている。超党派の上院議員グループも訪中前、台湾支援は交渉対象ではないとトランプ氏に伝えていた。だが、同氏はそれを無視した。議会は武器売却の無期限延期を認めない姿勢を明確にすべきだ。
ワシントンの台湾支持派も、台湾の地位を交渉可能なものとして扱うことに断固反対する必要がある。インド太平洋の同盟国は、この問題を巡る米国の対応だけでなく、安全保障上の約束全体の信頼性を見極めている。
頼総統にはさらに難しい課題が待ち受けている。今月20日に就任から2年を迎えるのに際し、不安を抱える住民に向けて演説する可能性が高い。頼氏は先週末、「台湾独立」という表現は、台湾が中国に属さず従属もしないことを意味し、将来を決めるのは台湾住民だけだと述べた。安心感を与えることが不可欠となる。
トランプ大統領は今回、現代で最も繊細な地政学的問題の一つを驚くほど軽率に扱った。その結果、台湾海峡はこれまで以上に危険な場所となった。
(カリシュマ・ヴァスワニ氏はブルームバーグ・オピニオンのコラムニストで、中国を中心にアジア政治を担当しています。以前は英BBC放送のアジア担当リードプレゼンテーターを務め、BBCで20年ほどアジアを取材していました。このコラムの内容は個人の意見で、必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの見解を反映するものではありません)
原題:Trump’s Recklessness on Taiwan Is a Mistake: Karishma Vaswani(抜粋)
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