一般投資家がイーロン・マスク氏のビジョンに投資する手段は長年、電気自動車(EV)メーカーのテスラの株式を買うことしかなかった。その状況が間もなく変わろうとしており、テスラ投資家にとって深刻なリスクになり得る。

宇宙開発会社スペースXの新規株式公開(IPO)が目前に迫る中、市場には「マスコノミー(マスク経済圏)」への新たな投資手段が加わることになる。ウォール街関係者は、投資家の関心と資金がテスラから、マスク氏の新たな目玉事業へ流出するのは避けられないとみている。

インテグリティ・アセット・マネジメントのポートフォリオマネジャー、ジョー・ギルバート氏は、「これはテスラにとってプラスにはなり得ない」と指摘。「マスク氏の関心は主としてスペースXに集中すると思う。マスク氏は過去にも複数の事業を同時並行で運営できることを示してきたが、今やスペースXが新たな『本命』となり、そのしわ寄せをテスラが受けているように感じられる」と述べた。

実際、テスラとスペースXの間にある本質的な競合関係こそが、マスク氏が両社の統合を検討していると伝えられる主な理由となっている。

見方によっては、テスラは停滞、あるいは緩やかな後退の局面にあるようにも映る。販売の伸びは鈍化し、事業のファンダメンタルズも悪化している。ただ、同社株の原動力は必ずしも財務実績ではなく、あくまでマスク氏の野心への賭けとみなされてきた。株価は2023年初めから25年末までに265%急騰した後、今年はこれまでに8.8%下落しているが、それでも今後12カ月の予想利益ベースの株価収益率(PER)は約196倍と、S&P500種株価指数構成銘柄で2番目の高さとなっている。

こうした極めて高いPERは、投資家がテスラを「EVメーカーでもある自動運転車・ロボット企業」へ転換しようとするマスク氏の構想を信じていることに基づく。ただ、その市場は競争が激しい。EV事業は海外では中国メーカー、米国では従来型のガソリン車メーカーとの競争に直面している。ロボタクシー分野では、既に事業展開しているアルファベット傘下のウェイモと競合している。さらに、多くのテクノロジー企業が人型ロボットの開発に取り組んでいる。

しかし、スペースXはさまざまな点で異なる。同社事業はテスラとは別物であり、業界で圧倒的な地位を築いている。しかも、現時点では成長余地に限界が見当たらない。

ギルバート氏は、「スペースXは文字通り天文学的な評価額で上場すると予想している」と述べ、「真の競合相手が存在しない」と指摘した。同氏の運用会社は、バリュー投資の基準に合わないとしてテスラ株を保有していない。

スペースXの時価総額は最終的にテスラを上回る可能性すらあるとギルバート氏は述べ、「マスク氏の企業はどこもビジョンへの期待というコールオプションを常に株価に織り込む」と付け加えた。

マスク氏は長年、個人投資家の強い関心を集めてきたが、熱狂にも陰りが見え始めている。ヴァンダ・リサーチが集計した5月18日までのデータによると、スペースXが26年のIPO計画を確認した昨年12月以降、テスラ株への個人投資家の純流入額は約100万ドルにとどまっている。

BNPパリバのアナリスト、ジェームズ・ピカリエロ氏の推計によると、個人投資家はテスラ株の約40%を保有している。ピカリエロ氏は先月の顧客向けメモで、テスラ株を「アンダーパフォーム」と評価した上で、スペースXのIPOはマスク氏支持の個人株主層を「分断」することで、テスラ株の重荷になると指摘した。

データトレック・リサーチの共同創業者ニコラス・コラス氏によると、機関投資家の資金移動には時間がかかり、IPO直後の取引も不安定になりやすいため、スペースXの影響がテスラ株に表れるまでには約3カ月かかる可能性が高い。また、テスラはS&P500種構成銘柄であることから、指数連動型のパッシブ運用資金の恩恵を少なくとも当初は受ける可能性もあるという。

スペースXの施設に展示されたロケット「ファルコン9」の前を通り過ぎるテスラのサイバートラック

コラス氏によると、通常の企業では株価に現在価値と将来価値が50対50の割合で織り込まれているが、テスラは異なり、 「価値の9割が将来の期待、1割が現在価値だ」と指摘。同社株は実際の財務実績よりもマスク氏の夢に大きく左右されて取引されているという。

コラス氏は、将来への期待がマスク氏に依存している以上、同じ魅力を持つ企業が市場に2社存在することに合理性は乏しいと指摘し、両社統合が最も理にかなっているとの見方を示した。

原題:SpaceX IPO Will Add Another Musk Stock. It’s a Problem for Tesla(抜粋)

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