供給ショックが「一時的なもの」でなくなってきた背景を再考すべき局面
この日、コリンズ総裁は「インフレが5年以上も目標を上回る水準で推移しているため、新たな供給ショックを『一時的なもの』として受け止める余裕は低下している」(ロイター)と述べたが、これは重い発言である。コロナ後、サプライチェーンのひっ迫やロシアによるウクライナ侵攻、足元のイラン情勢の悪化など様々なインフレ要因があったが、いずれも供給制約である。それぞれに対する分析は「一時的なもの」となるわけだが、「一時的なもの」が連続すれば、それは「一時的ではないもの」に変わる。それぞれの事象は「一時的なもの」であり、構造変化を起こすものではないとしても、「一時的なものが一時的と言えないほど頻繁に生じる世の中になったという構造変化」が生じているのであれば、それに金融政策も対応せざるを得ないかもしれない。
このように考えると、米中の覇権争いや、トランプ大統領など強権的な指導者の出現といった歴史的な動きに焦点が当てられそうだが、筆者は「高インフレや高金利でも景気が悪化しない経済」の存在が重要だとみている。IMFのゲオルギエワ専務理事はこの日、「27年まで原油価格が1バレル=120-130ドルの水準で推移すれば、世界的な経済成長率は約2%に鈍化する可能性があり、これはテクニカルなリセッションに相当する」(ロイター)と述べた。過去のデータから分析すると、そういう結果になるのだろう。しかし、コロナ後のインフレ局面では、筆者も含む多くのエコノミストが(程度の差はあれ)景気悪化を予想したが、そうはならなかった。むろん、コロナ後は各国政府の財政出動やペントアップ需要など、需要側が強かったことから今回は景気悪化のリスクが高い可能性はある。とはいえ、力強い株価をみていると、今回もインフレが実体経済を悪化させる効果は限定的になりそうだと言わざるを得ない。
本来であれば、原油高や高インフレという逆風が生じれば、景気悪化懸念が強まることで金融市場でもリスク回避的な動きが生じ、需要の落ち込みがディスインフレ圧力になったり、そもそも政治的に高インフレを回避する方向に調整が入ったりするはずである。このような、従来であれば当たり前といえる調整圧力が生じないことこそが、「構造変化」なのだろう。筆者は、各国の指導者の問題ではなく、指導者にプレッシャーをかけない金融市場になったことが最大の「構造変化」だという立場をとっている。日本では企業の価格設定行動が変わったという見方や、ノルムの変化といった概念が注目されているが、これらは枝葉の議論だろう。この日、米連邦議会上院がFRB次期議長にウォーシュ元理事を充てる人事を承認した。巨額のバランスシートを中心としたFRBの権力肥大化を問題視するウォーシュ氏が議長になったことで、上記の流れを変えることになるのか、長期的な目線を持って見守るべきだろう。
(※情報提供、記事執筆:大和証券 チーフエコノミスト 末廣徹)