(ブルームバーグ):国際通貨基金(IMF)と世界銀行は、自由貿易や資本主義、金融市場の知見の象徴的存在とされてきた。しかし春季会合で浮上しているテーマは、市場の見方とは異なる論調で、投資家がイラン戦争による経済的打撃を過小評価しているというものだ。
ワシントンで今週開かれている会合の公式パネルや非公式の夕食会、その他の会合などを通じて次第に広がりつつある共通認識は、たとえ近く恒久的な和平が交渉で成立したとしても、紛争が世界経済に与える影響は、好転する前にさらに著しく悪化するというものだ。
春季会合開幕後数日に話した各国当局者や参加者によると、世界は単なる一時的衝撃以上の事態を目の当たりにしている。警戒されているのは、コスト増加や輸送ルートの長期化、地政学的不確実性の一段の高まりといった構造的変化が定着し、世界の潜在成長率を押し下げる可能性だ。
カタールのクワリ財務相は15日、IMFで「われわれが目にしているのは氷山の一角にすぎない」と述べた。同日の米株式相場が過去最高値を更新し、原油価格は1バレル=100ドルを下回る水準で推移した。

カタールは液化天然ガス(LNG)輸出が大きな打撃を受けている。クワリ財務相は、現在のエネルギー価格ショックが1-2カ月以内に供給不足を招き、「自国を照らすための十分なエネルギーを確保できない」国も出てくる事態になるシナリオを示した。
さらに、肥料不足に起因する食料危機が近く発生する可能性にも言及した。カタールは半導体製造に不可欠なヘリウムの世界供給の約3分の1を担っているとも述べ、「この戦争の結果として甚大な経済的影響が生じるだろう。それは遠い先の話ではない」と語った。
トランプ米政権当局者は、特にインフレ抑制のための利上げの必要性を巡り様子見姿勢を取る中央銀行に対し、冷静さと自制を求めている。米国は、短期的な痛みはイランの核の脅威を終わらせる長期的利益に見合うとの立場を示している。
ベッセント米財務長官は、紛争とそれに伴う価格上昇を一時的なものと位置付け、戦闘が終結すれば高騰したエネルギー価格は速やかに低下するとの見方を示した。同長官は15日、CNBCのフォーラムで「この戦争はいずれ終わる。3日後か、3週間後か、3カ月後かは分からないが、必ず終わる」と述べ、「市場は将来を織り込む」と指摘した。
ただ、ホワイトハウスから数ブロック先で開かれているIMF・世銀会合の参加者の多くにとって、こうした楽観論は受け入れがたい。
IMFは14日、世界経済見通しを下方修正し、パンデミック以降で最も低い成長率になるとの見方を示した。IMFのチーフエコノミスト、ピエール・オリビエ・グランシャ氏は、さらなる下方修正の可能性を示唆した。
同氏は記者団に対し、米国によるホルムズ海峡の新たな封鎖やその他の動向により、世界成長率が戦前に予測されていた3.3%から2.5%に低下すると想定する「悪化シナリオ」が現実味を増していると述べた。欧州中央銀行(ECB)のラガルド総裁からも、欧州の成長見通しに関して同様の警告が示された。

こうした懸念の背景には、6週間続いている戦争が、米国とイランが近く終結で合意したとしても、世界経済により長期的な影を落とすとの認識がある。
世銀のバンガ総裁は14日、「これを単にあと1カ月の苦痛と考えてはならない。戦闘が終わり、エネルギー施設への構造的な被害がこれ以上生じないとしても、供給システムが落ち着くまでには時間がかかるため、痛みはそれ以上に長引くと考えるべきだ」と述べた。
原油価格は急騰しているものの、国際エネルギー機関(IEA)が「世界がこれまで経験した中で最大のエネルギーショック」と呼ぶ今回の影響は、なお十分には顕在化していない。
ホルムズ海峡は事実上6週間にわたり封鎖されているが、戦争前にペルシャ湾を出発した最後の貨物が、ようやく現在になって目的地に到着しつつある段階だ。
IEAのビロル事務局長は春季会合に際し記者団に対し、「3月はエネルギー面でも経済面でも世界にとって非常に厳しい月だったが、4月は3月以上に悪化する可能性が高い」と述べた。
株価上昇
こうした悲観的な見方が広がる中、会合参加者の多くを悩ませているのは、特に米株式市場が戦争初期の下げからなぜこれほど急速に回復したのかという点だ。
会合参加者の中には、答えは単純だと考える人もいる。米コンサルティング会社PwCのチーフエコノミストで、企業顧客に助言するアレクシス・クロウ氏は「市場は状況の深刻さを過小評価している」と指摘した。クロウ氏らはその理由として、市場が戦争によるサプライチェーンの混乱を十分に織り込んでいない点を挙げた。
また、多くの市場参加者は、いわゆる「TACO(Trump Always Chickens Out=トランプ氏はいつも尻込みする)」で不利な側に回るのを避けたいと考えている。TACOは、市場が否定的な反応を示すとトランプ氏は常に強硬策を撤回するというパターンを指す。
今週の投資家の間では、もう1つの略語である「FOMO(乗り遅れ恐怖症)」も意識されている。中東情勢の緊張緩和の兆しに加え、人工知能(AI)や米企業業績への楽観が重なり、慎重姿勢を取っていた投資家を市場参加へと駆り立てている。

IMFのゲオルギエワ専務理事は、市場の楽観の別の理由として、米経済の相対的な強さと、原油輸出国としてエネルギーショックの影響を受けにくい点を挙げた。「だが世界の他の地域では事情が異なる。すでに多くの国で痛みが生じている」とゲオルギエワ氏は述べ、市場はもっと警戒すべきかとの問いには「そうだ。サプライチェーンの混乱はすでにかなり深刻だ」と答えた。
原題:Markets Are Too Blasé on War’s Economic Toll, Policymakers Warn(抜粋)
--取材協力:Beril Akman、Jorge Valero、Geoffrey Morgan、Daniel Flatley、Francine Lacqua.もっと読むにはこちら bloomberg.com/jp
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