(ブルームバーグ):台湾を巡り中国共産党の習近平総書記(国家主席)が、米国の関与すべき問題ではないとのメッセージをトランプ米大統領に改めて発している。
そうしたスタンスを鮮明にするため、習氏は台湾の最大野党、国民党の鄭麗文主席を中国本土に招いた。鄭氏は7日からの訪中で江蘇省と上海市、北京市を訪れる予定で、国民党トップの訪中は2016年以来だ。
特筆すべきは、この訪問がトランプ氏が5月半ばに予定している北京訪問のわずか約1カ月前というタイミングで行われることだ。偶然ではない。台湾問題は平和的に管理可能だが、それは中国が言う条件の下での話であり、米政府は干渉すべきでないという習氏の言い分を補強するための招聘(しょうへい)だ。
これは米国が看過できる問題ではない。仮に中国が台湾を掌握すれば、インド太平洋地域のパワーバランスを大きく変えるだけでなく、重要な半導体サプライチェーンに対する影響力も中国に与えることになる。半導体製造の世界的な中心地となっている台湾は、最先端半導体の9割余りを生産している。
国民党への接近により、習氏は台湾との対話が可能であるだけでなく、すでに進行中だと主張できる。台湾で2016年に民主進歩党(民進党)の蔡英文政権が発足すると、中国はすぐに中台対話ルートの一部を停止した。
利用価値
蔡政権は、国民党と中国共産党の間で結ばれた合意「1992年コンセンサス」を認めなかった。この合意の曖昧さは意図的で、中台が共に「一つの中国」に属するとの認識を共有しつつ、その解釈の相違を容認した。
一方、中国大陸で結党し、国共内戦に敗れ、台湾に渡ってきた国民党は歴史的に中国との対話を重視し、民進党よりも融和的な対中姿勢を打ち出してきた。この点で鄭氏は習氏にとって政治的に利用価値が高い。
鄭氏は対中関係の強化が台湾に利益をもたらすと主張し、台湾の人々が誇りと自信を持って自らが中国人であると認識することを望むと述べている。
民主化を求める学生運動家だった鄭氏は、民進党に所属していたこともある。習氏にとって重要なのは、こうした経歴を持つ鄭氏が台湾独立に反対し、1992年コンセンサスを支持していることだ。
中国寄りへ大きくかじを切ってきた鄭氏は、台湾では賛否が分かれる政治家でありながら、中国の対話相手としての価値は高まっている。
特にトランプ、習両氏の会談を控え、今回の鄭氏の訪中により、台湾政府は難しい立場に置かれる。
国民党は他の野党と共に、頼清徳総統が提案した8年間で防衛支出を400億ドル(約6兆3600億円)増額する案を阻止してきた。防衛力整備の遅れは、中国による軍事的圧力が強まる中で、台湾の抑止力を弱める。
台湾政府はリスクを強く認識している。習氏が鄭氏を招いた目的がトランプ氏に対し、予定されている武器売却の打ち切りを促すことにあると警告している。
米国は昨年12月、台湾への110億ドル相当の武器売却を承認した。これはここ数年で最大級で、ミサイルやドローン(無人機)、砲兵システムが盛り込まれ、さらなる供与の基盤となり得る。
今年2月には習氏がトランプ氏との電話会談で、台湾への武器売却を最大限慎重に扱うよう求めた。こうした圧力は効果を上げており、トランプ政権は米中首脳会談を前に、別の武器供与約130億ドル相当を遅らせていると報じられている。
習氏が2013年に国家主席に就いて以後、中国の国防支出はほぼ倍増した。S・ラジャラトナム国際研究院(RSIS、シンガポール)のドリュー・トンプソン上級研究員は、中台の格差は非常に大きく、中国の国防費の年間増加額が台湾の国防予算総額を上回ることも多いと指摘する。
主戦場
頼政権は少数与党だ。頼氏は前総統の蔡氏と比べ、対中関係のコントロールや防衛を巡る立法院(国会)対応において苦慮している。容易な選択肢はほとんどない。
打開策の一つは、内外の支持をより積極的に取り込むことだ。台湾の人々に対しては防衛支出の必要性をさらに明確に訴え、同時に日本などのパートナーとの連携を強化する必要がある。日本は、台湾の安全保障が自国に直結しているとのスタンスを明確にしている。
台湾政府はすでにこうした取り組みを進めているが、重要なエネルギーや軍事インフラの防護を一段と強化する余地がある。緊急時にどのように行動すべきかについて住民の認識を高め、政府と企業、そして市民が単一の「レジリエンス計画」の下で連携することが有効だろう。
台湾のリーダーらは微妙なバランスを保つ必要がある。中国との衝突の可能性について住民を過度に不安にさせず、それでもなおその現実的な可能性を認識させることが求められる。
依然として世論が主戦場だ。最近の世論調査では、多くの台湾人が国民党を、台湾よりも中国本土を重視する親中政党と見なしていることが示唆されている。鄭氏の訪中を台湾の利益への裏切りと位置付けることは、有益な戦略となり得る。
トランプ氏は来月の訪中時、イラン戦争に関心を奪われている可能性がある。台湾が二次的な問題に後退するリスクは現実的だ。それは習氏の思惑に合致し、台湾を再び危険にさらすことになる。
(カリシュマ・ヴァスワニ氏はブルームバーグ・オピニオンのコラムニストで、中国を中心にアジア政治を担当しています。以前は英BBC放送のアジア担当リードプレゼンテーターを務め、BBCで20年ほどアジアを取材していました。このコラムの内容は個人の意見で、必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)
原題:Xi’s Taiwan Outreach Is a Warning to the US: Karishma Vaswani(抜粋)
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