(ブルームバーグ):欧米の自動車メーカーは、温室効果ガス排出規制の緩和や需要減少を受け、電気自動車(EV)の目標を下方修正してきた。購入者は次に買う車が果たしてEVになるのかどうか、確信を持てずにいた。だが、こうした前提は予期せぬ変化によって揺らいでいる。イラン戦争をきっかけとしたガソリン価格の高騰だ。
過去のエネルギーショックも自動車業界に深い爪痕を残してきた。販売台数や車種の構成だけでなく、消費者の支払い能力にも影響を及ぼしてきた。
需要の変化に機敏に対応しつつ、優れた省エネ車を手頃な価格で提供できるメーカーが、巧みにこの局面を乗り切るだろう。米国では、トヨタ自動車や現代自動車といったハイブリッド車(HV)の覇者が優位に立ち、欧州では市場シェアの拡大を狙う中国のEV大手、比亜迪(BYD)が有望だ。また、安く抑えたいなら、中古EVも選択肢に入るだろう。中古ならポルシェのEVでさえ、手に入りやすくなっている。

自動車業界はすでに数多くの課題を抱えているが、イラン戦争で不透明感がさらに強まっている。物価高や株安によって購入者の懐具合が寂しくなれば、メーカーの販売台数は期待を下回る可能性がある。
住宅を除けば、車は人生で最も高価な買い物の一つだ。しかし、関税や原材料高、金利の高止まりに加え、メーカーが低採算のセダンを廃止する傾向もあり、購入コストはすでに跳ね上がっている。
米消費者は新車1台当たり平均4万9000ドル(約780万円)超を投じる一方、英国では平均推奨小売価格が5万7000ポンド(約1200万円)という驚くべき水準になっている。購入者がより手頃な選択肢を探しているのは疑いようがないが、米国でそれを見つけるのは至難の業だろう。
原油価格が高止まりしたままなら、消費者にとって燃費性能は喫緊の優先課題となる。
1970年代のオイルショックでは、米自動車メーカーの燃費の悪い大型車が敬遠され、日本車が台頭するきっかけとなった。2008年に原油価格が高騰した際も、購入者は中・小型車へと流れ、「ガス・ガズラー(ガソリンを大量に消費する車)」は店頭で売れ残った。

こうした背景を考えれば、米国がEV購入の税額控除を廃止し、燃費規制や温室効果ガス排出基準を骨抜きにしたことは、控えめに言っても逆効果だ。トランプ氏の狙いが、環境負荷の高いスポーツタイプ多目的車(SUV)やトラックをより多く売らせることだったのなら、戦争を始めてオイルショックを引き起こすことはそもそも本末転倒のように見える。
一方、欧州の環境規制ははるかに厳格であり、バッテリー駆動モデルの普及率も米国よりはるかに高い。それでも、欧州各国は排出規制に関してメーカー側に猶予を与えてきた。
これに対し、自動車業界はEV計画にブレーキをかけることで応じた。米フォード・モーターは電動ピックアップトラック「F150ライトニング」の生産を停止し、欧州のステランティスはプラグインハイブリッド車を幅広く廃止した。メーカー全体では、EV関連の減損損失が数百億ドル規模に上っている。
また、極めて燃費の悪い車種を優先する動きも出ている。ステランティスは、カルロス・タバレス前最高経営責任者(CEO)の下で取りやめたHemi8気筒エンジンをピックアップトラック「ラム1500」向けに再び投入。バーンスタインのアナリストは顧客に対し、燃料価格の上昇で「8気筒という選択肢が今も合理的なのか疑問を抱くラムの顧客が出てくる可能性がある」と指摘した。

オックスキャップ・アナリティクスのスチュアート・ピアソン氏は、欧米の自動車販売が年率8-15%も落ち込んだ1990年の湾岸戦争時と比較し、現在は可処分所得に占める燃料費の割合は大幅に低下していると指摘する。
EVを選ぶ際の金銭的な考慮事項はガソリン価格だけではない。EVの購入価格は高めで、価値の下落も大きく、保険料は必ずしも安くない。
それでも、より効率的な車両を販売するメーカーが有利になることに変わりはない。米国では7500ドルのEV税額控除が利用できなくなり、消費者はガソリンエンジンと電気モーターを組み合わせつつ、充電の必要がないHVを好む傾向が続くかもしれない。HVは25年10-12月に米自動車販売の約5分の1を占めた。純粋なEVモデルのシェアの3倍に上っている。
フォードも複数のHVを展開しているが、急成長する市場をけん引しているのはアジア勢だ。関税とソフトウエア規制によって中国メーカーの対米進出が事実上阻止され、消費者の選択肢が制限されていることは、米自動車大手にとっては幸運と言える。

欧州ではこうした輸入に対する障壁が低く、中国車の流入がさらに加速する可能性がある。燃料価格が高騰する中で、BYDはすでにHVやEVの購入がどれほど節約につながるかを強調する広告を展開している。一方、欧州メーカーも価格競争力を持つEVを開発しており、耐性がある。ルノーの小型EV「トゥインゴ」の価格は2万ユーロ(約370万円)を切っている。
だが、米欧の消費者は中古車市場に高い価値を見いだすかもしれない。中古EVの価格は、技術的な陳腐化への懸念から強い下落圧力にさらされてきた。米国では、中古EV購入に対する最大4000ドルの税額控除も廃止されている。コックス・オートモーティブによれば、中古EVの平均価格は今やガソリン車よりわずかに高い程度だ。
ガソリン高は、中古EVにとって強力なセールスポイントになる。販売店が診断データを提供し、バッテリーの劣化に対する顧客の根強い懸念を和らげることができればなおさらだ。中古の「ポールスター2」や起亜の「EV6」なら、2万ドル以下で手に入る。もう少し予算があれば、新車価格の半額以下となる4万5000ドル前後で、まずまずのスペックのポルシェ・タイカンを見つけることも可能だ。
燃料補給のコストが上がり続けるなら、中古EVは家計が苦しいドライバーの走りを支える存在になり得る。
(クリス・ブライアント氏はブルームバーグ・オピニオンのコラムニストで、欧州の工業関連企業を担当しています。このコラムの内容は個人の意見で、必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)
原題:A $45,000 Porsche Taycan Is a Decent Oil Hedge: Chris Bryant(抜粋)
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