(ブルームバーグ):トランプ米大統領はガソリン価格を安定化させようとしている。こうした動きは原油とガソリンが米経済や、経済状況を巡る有権者の認識に果たす特別な役割を浮き彫りにしている。
米国とイスラエルによる対イラン攻撃を受けてガソリン小売価格は急上昇し、トランプ政権1期目と2期目を通じてこれまでで最も高い水準に達した。ガソリン高騰は工場や農場など経済全体に波及し、有権者の投票行動にも影響を及ぼす可能性がある。
トランプ氏は9日、イランでの戦争を早期に終結させる意向を示した。市場の安心感を取り戻そうとしたものと見受けられる。政権当局者が、紛争は始まったばかりだとの見方を示唆していたことを踏まえると、姿勢の転換とも受け止められる。
「エネルギーと石油を世界に供給し続ける」とトランプ氏は強調し、石油関連制裁の一部解除や、ホルムズ海峡を通過するタンカーの護衛に向けた米海軍の派遣に言及。原油の流れが妨げられた場合にはイランに「一層強力な」爆撃を行うと表明した。

トランプ氏はかねて、ガソリン価格の低下を繰り返し称賛してきた。だが、対イラン攻撃を受けた値上がりの結果、この成果は帳消しになった。米自動車協会(AAA)の最新データによれば、全米のガソリン小売価格は平均で1ガロン当たり3.54ドルと、攻撃開始前の2.98ドルから値上がりした。世界の原油相場も20%強上昇している。
11月の中間選挙を前に、こうした価格上昇はアフォーダビリティー(暮らし向き)を巡る有権者の不安をさらに強めるリスクがある。選挙では共和党が上下両院で多数派を維持することができるかどうかが問われる。
輸送費や航空運賃、肥料価格を押し上げる価格急騰が長引けば、有権者の怒りをあおるだけでなく、昨年成立した税制改革法による還付金拡大や企業向け減税など、トランプ氏が政権2期目の看板施策に期待していた景気押し上げ効果も打ち消しかねない。
短期的には、この法律で増額された税還付がガソリン高の影響を相殺する可能性はある。しかし、ブルームバーグ・エコノミクス(BE)は、原油相場が今年の大半にわたり1バレル=83ドルで推移すれば、平均的な米家計が税還付で得る分は相殺されると推計している。北海ブレント原油先物は9日、バレル当たり89ドル前後で推移した。
「小さな代償」
トランプ氏と政権幹部は、価格上昇は一時的で、戦争が収束すれば沈静化するとの立場を維持している。一方で、コスト上昇を抑える短期的な対策を模索するとともに、一部の国に対する石油関連制裁を解除する方針も示している。
トランプ氏は9日、「長期的には石油供給は大幅に安定する」と発言。イランが世界の原油供給を止めようとすれば、発電施設やその他の重要目標に対して「一層強力な」攻撃を行うと警告した。この発言の後、1バレル=119ドル超まで急上昇していた原油先物相場は90ドルを下回る水準まで下落した。
トランプ氏は全体として価格上昇は想定より小幅だと9日に指摘。他方で8日のSNS投稿では、「原油相場の短期的な動きは米国と世界の安全と平和のために支払う代償としてはごく小さいものだ」と、国民に忍耐を呼び掛けた。
ただ、ガソリン価格は多くのドライバーが日常的に目にし、消費者心理やインフレ期待に多大な影響を与える点を踏まえると、こうした主張は危うい賭けだとも考えられる。
共和党内からも警戒の声が上がっている。ポール上院議員は10日、FOXビジネスとのインタビューで中間選挙を念頭に、「原油高は問題になる」と述べ、戦争の影響で高止まりすれば「悲惨な選挙結果になるだろう」との見方を示した。
ウェルズ・ファーゴのエコノミストはリポートで、家計に占めるガソリンなどエネルギー関連支出の割合は3%未満と比較的小さいものの、価格上昇時にこれらの支出を削減するのは難しいと指摘した。
カンザス州立大学のランス・バックマイヤー経済学教授は、1970年代のエネルギー危機を経験した高齢層には価格急騰が一段と強く響くと話す。所得に占めるガソリン支出の割合が大きい低・中所得層にも影響が偏って及ぶ可能性があると指摘した。
ホワイトハウスのレビット大統領報道官は10日、原油がペルシャ湾を経由して引き続き供給されるよう、トランプ氏のチームが措置を講じていると述べた。
レビット氏は「最近の原油・ガス価格の上昇は一時的なもので、今回の作戦は長期的にはガソリン価格の低下につながる」と発言。「作戦開始前よりもさらに低い水準になる可能性もある」との見通しを示した。
長く記憶
ガソリンスタンドでの短期的な痛みは、米国民の記憶に長く残ることが過去の事例で示されている。バイデン前大統領は2022年、ロシアによるウクライナ侵攻に伴う価格急上昇の際にそれを身をもって経験した。
バイデン氏は過去最大規模の石油備蓄放出で対応し、その後価格は下落した。だが、「その功績はあまり評価されなかった」とワシントンに拠点を置くクリアビュー・エナジー・パートナーズのマネジングディレクター、ケビン・ブック氏は振り返った。
エネルギー価格の上昇は、製造業や農業など経済の幅広いセクターに打撃を与える。原油供給の混乱が長引けば、作付けシーズンの始まりに当たって肥料価格の上昇につながり、値上がりの傾向にある食料品価格をさらに押し上げる可能性がある。

激戦州アイオワ州選出の共和党重鎮、グラスリー上院議員は、農家が既にディーゼル価格の上昇に直面していると指摘した。対応策を問われると、「イランでの戦争を終わらせることだ」と率直に答えた。
アナリストは、原油・燃料価格の急騰が大統領もコントロールできない理由によると見なされる場合、一定の理解が得られる可能性があるとする。ただし今回は、トランプ氏自身がイスラエルとともに攻撃を開始する決定を下したことに起因しているため、そうした理解は限られるかもしれないとみている。
テキサス大学オースティン校のキャロラ・ビンダー経済学准教授は、「ガソリン価格が上昇しても、その要因が何かよく分からない場合もあるが、今回は何が原因か分かっている」と述べた。
どれだけ続くかが鍵
もっとも、影響の大きさは原油急騰の深刻度とそれがどれだけ続くかに大きく左右される。価格上昇は世界の原油輸送量の約20%が通過するホルムズ海峡でタンカー航行がほぼ停止していることに起因しており、経済的・政治的な帰結はいずれも同海峡がいつ再開されるかにかかっていると、コンサルティング会社ラピダン・エナジー・グループのボブ・マクナリー社長は指摘した。
最悪のシナリオでは、「長期にわたる閉鎖で原油価格が150ドルに達し、リセッション(景気後退)を引き起こす」とし、「その場合、たとえ戦争で勝利したとしても、大統領が政治的に立ち直るのは難しいかもしれない」とマクナリー氏は語った。
一方、調査会社キャピタル・アルファ・パートナーズのマネジングディレクター、ジェームズ・ルシエ氏は、短期的な混乱が政治姿勢を大きく変える可能性は低いとみる。とりわけイランに対するトランプ氏の対応を支持する有権者の間では影響は限定的だという。
ルシエ氏は「一定の弱点は抱えているが、国民が数日でトランプ氏に背を向けるとは思わない」と語り、「トランプ支持者が離れるには2週間より長くかかるだろう」と述べた。
原題:Spiking Pump Prices Dent Trump’s Willingness to Extend War (1)(抜粋)
--取材協力:Steven T. Dennis、Ari Natter.もっと読むにはこちら bloomberg.com/jp
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