湾岸地域でイランと米国、イスラエルの戦争が続く中、アジアの富裕層の間でドバイへの投資や移住計画を見直す動きが出始めている。近年、新興の金融・資産運用ハブとして、世界各地から多額の資金が流入してきたドバイの地位が揺らいでいる。

複数のコンサルタントによると、ドバイへの移住計画の延期を検討する顧客からの問い合わせが相次いでいるほか、かつては安全で安定しているとしていた同地域への投資を縮小する方法を模索する動きがある。すでにドバイに拠点を置いている人々も、混乱が拡大した場合に備えた対応策を準備しているという。

香港を拠点とするマルチファミリーオフィス、アナム・キャピタルの、ニック・シャオ最高経営責任者(CEO)は「投資機会や税制上の利点を求めて中東に向かったアジアの投資家は、判断を見直し、資金を香港やシンガポールに戻す可能性がある」と語る。

原動力

サウジアラビアやバーレーンが再び攻撃を受けるなど、戦闘は2週目に入り激化している。先週はドバイの米国総領事館近くでドローン攻撃による火災が発生し、ドバイ発着の飛行機数千便が欠航となった。航空各社は再開を試みている。

ドバイの目覚ましい成長は、世界の富裕層に加え、銀行やウォール街の資産運用会社を引き寄せてきた。ボストン・コンサルティング・グループによると、アブダビを含むアラブ首長国連邦(UAE)は、2024年に金融資産のブッキングセンターとして、世界で最も速く成長した。同社は、海外投資家から約7000億ドル(約110兆9500億円)がUAEで計上されたと推計している。ドバイだけでも、計1兆2000億ドル超を運用するファミリーオフィスが拠点を置いている。

アジアの資産は、金融センターとしてドバイが拡大する重要な原動力となっている。ドバイ拠点の資産アドバイザリー会社M/HQのマネージングパートナー、ヤン・ムラゼク氏によると、UAEで設立された2270超の財団の約4分の1はアジア系だ。ドバイ国際商工会議所の声明によると、2025年に同機関が誘致した多国籍企業の47%をアジア企業が占めた。

野村ホールディングスや、シンガポールの二大銀行DBSグループ、オーバーシー・チャイニーズ銀行(OCBC)も、富裕層からの需要拡大に対応するため、ドバイでの事業を拡大してきた。

政府が富裕層への課税強化を進める英国の富裕層にとっても、UAEは人気の移住先だ。ブルームバーグが500万件の企業登記を分析したところ、英国を離れる企業経営者が急増しており、UAEはスイスなどの資産ハブと並び、主要な移転先となっている。

その中には、プレミアリーグのアストン・ヴィラ共同オーナーのナセフ・サウィリス氏や、インドの通信大手バルティ・エアテルを持つ有数の財閥の後継者シュラヴィン・ミッタル氏が含まれる。

サウィリス、ミッタル両氏とも、アブダビに資産管理会社を設立している。UAEには多額のインド系資産が存在し、複数の国際的な資産運用会社が、管理するため非居住インド人専門部署を設けている。

 

長期化のリスク

だが、多くのアジア系富裕層は今、戦争によって再考を迫られている。

香港拠点のマルチファミリーオフィスJMSグループのフェリックス・ライ代表は「間違いなくウェイクアップコールだ。判断を下すにはまだ早いが、家族や資産を伴って中東に移るという決断を考え直す必要があるかもしれない」と語った。

ブルームバーグ・ニュースの取材に応じた多くの人は、中東へ移る前に一定の混乱は想定していたと語る。だが実際に爆発音を耳にし、ドローンやロケット弾が空中で迎撃されるのを目にしたことで、判断の再考に至ったという。

自身のファミリーオフィスを運営し、2023年に香港で中東との連携促進を目的としたアンバサダーズ・クラブを設立したパトリック・ツァン氏は、戦争が長期化すればドバイの評判に打撃になりかねないと語る。ツァン氏は、数年前の香港の民主化デモ後、多くの人々が離れたのと同様に、一部の在住者がドバイから流出する可能性があるとみている。

OCBCのプライベートバンキング部門は、顧客について、市場動向を注意深く見守っているものの、現時点では様子見姿勢だと明かした。DBSの富裕層顧客も同様だという。

富裕層向け融資サービス会社エネス・グローバルの創業者であるアイスレイ・ロビンソン最高経営責任者(CEO)は、一部の投資家が予防的措置として中東地域へのエクスポージャーを縮小しようとする一方、これを買い場とみる向きもあると述べた。

ドバイ株式市場は、2日間の取引停止を経て、再開後は下落している。ドバイ金融市場総合指数は4日に終値4.7%安と、2022年5月以来の大幅下落となり、9日も下げを拡大した。同指数は2020年以降、消費拡大や不動産相場の上昇、金融サービスの拡大を背景に2倍超に上昇していた。

イランの攻撃は、安定した商業ハブとしてのUAEの評判を揺るがしている。だが、ブルームバーグ・ニュースの取材に応じた一部の投資家や居住者は、同国の強固なインフラや統治体制が回復を後押しし、むしろ一段と強くなる可能性もあるとの見方を示した。

中東に拠点を持つ富裕層向け移住サービス会社マルチポリタンのニルバイ・ハンダCEOは「状況が落ち着けば、ドバイの安定は速やかに回復する可能性が高い」と語った。

ドバイからの資金流出が続くかは、戦争がどの程度続くかに左右されそうだ。

原題:Asia’s Rich Having Second Thoughts on Dubai as War Rages (1)(抜粋)

--取材協力:Trista Xinyi Luo、Advait Palepu、Benjamin Stupples、Rthvika Suvarna、Alexander Sazonov.

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