2014年に任天堂へ送った有名な書簡の中で、アクティビスト(物言う株主)のオアシス・マネジメントは、課金の要素を取り入れたモバイルゲームを開発すべきだと提案した。例えば、マリオをもっと高く跳ばせるために99セント払うような仕組みだ。

投資家には魅力的に聞こえるかもしれないが、プレーヤーには歓迎されにくい発想だった。

その考え方が最近、再び注目を集めている。オアシスがアニメやゲームのファンから支持される別の日本企業、カドカワに対する新たなキャンペーンを強化しているためだ。

カドカワ株の14%近くを保有するオアシスは、アニメや漫画、ゲームを手がける同社の筆頭株主となった。そして来週の株主総会では、夏野剛社長の解任を株主に呼びかけている。

夏野氏の業績が不十分だとの主張には、一理ある。日本のソフトパワーが世界に拡大する中、膨大な知的財産(IP)や制作能力を備えるカドカワは、その追い風を最も受けやすい企業の一つだ。傘下には、人気アクションRPGゲーム「Elden Ring(エルデンリング)」の開発元であるフロム・ソフトウェアも抱える。

ただ、事業は低迷しており、前期は辛うじて利益を確保する程度だった。最近では中期計画を撤回し、より控えめな目標へと切り替えた。

カドカワは不祥事にも見舞われている。24年にはサイバー攻撃によって約25万人の顧客情報が流出したほか、最近では公正取引委員会の調査を受けた。業務を委託したフリーランスのライターらに取引条件を明示していなかったと報じられている。

ファンは警戒

議決権行使助言大手のグラスルイスとインスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ(ISS)はいずれも、夏野社長解任案の賛成を推奨している。一方、カドカワは新たな計画を進める上で夏野氏の専門性が必要だと主張し、オアシスが代替候補を示していないことを批判している。

漫画やゲームのファンは警戒している。オアシスによる夏野氏交代案には一定の合理性があるかもしれない。それでも、海外資本の流入が加速する中で、ファンは作品やIPが収益優先で扱われるようになることを懸念している。

人気シリーズが利益を第一の考えで運営され、ファンが後回しにされることや、「エルデンリング」へのマイクロトランザクション(少額課金)導入、「ダークソウル」で太陽を賛美するのに99セント請求されることなどを恐れているのだ。

ゲームファンは、海外勢かどうかを問わず、大資本がオタク文化の数少ない聖域を損ねるのではないかと懸念している。ポップカルチャーではあるが、単なる商品ではなく文化でもある。

投資リターンの最大化と顧客にとっての最善の結果が相反することが多い世界だ。ファンは、愛されてきた作品群がIP量産マシンになると、品質低下につながることを知っている。ウォルト・ディズニーによる「スター・ウォーズ」やマーベル作品の扱いを思い起こせば分かりやすい。

効率の悪さも必要

創造的な奇抜さには、ある程度の資本効率の悪さが必要だ。その好例がフロム・ソフトウェアだろう。極めて難易度の高い同社のゲームは長らく主流市場では注目されなかったが、口コミによってその難度自体が売りとなった。効率性だけを重視する企業なら、とっくに見切りを付けていたかもしれない。

近年、日本のソフトパワーが拡大した理由の一つとして、投資家よりもファンを重視してきた点が挙げられる。だが、かつて見向きもされなかったこの分野にも資本が流れ込んでいる。

米ブラックストーンによる17億ドル(約2700億円)でのデジタル漫画プラットフォーム買収や、サウジアラビアによる複数のゲーム会社への出資がその例だ。こうした資産を大切に思うゲーマーたちは警戒を強めている。

投資家は割安企業を見つけるのは得意だ。実際、任天堂株はオアシスが14年に書簡を送った当時の5倍超の価値になっている。しかし、解決策を見つけることが得意とは限らない。

オアシス提案に評価できる点も

サード・ポイントはかつて、当時著しく過小評価されていたソニーグループに対し、エンターテインメント事業の完全分離を求めた。オアシスは任天堂に、家庭用ゲーム機への依存を減らし、モバイル事業を強化するよう促した。その際に引き合いに出したのが「キャンディークラッシュ」だった。収益性は高いが依存性も高く、ユーザーに追加支出を促すよう設計されたモバイルゲームだ。

任天堂はその後、幾つかのスマートフォン向けタイトルを投入したものの、モバイル市場への本格展開はほぼ見送った。しかし、その後投入したゲーム機は同社史上最大の成功を収め、1000億ドル超の売上高を生み出した。ゲーム専用機市場は、オアシスが考えたほど死んではいなかったのだ。

もっとも、オアシスもこの経験から学んだのかもしれない。カドカワへの提案には評価できる点も多い。カドカワはゲームの販売を外部企業に頼らず、自社で手がけるべきだろうし、日本のコンテンツへの需要がかつてなく高まる中、自社IPを世界展開するためのより野心的な戦略も必要だろう。

本当に賢い投資とは

また、投資家とゲームファンが必ずしも対立関係にあるとは限らない。それはカプコンを見れば分かる。同社は14期連続の増益を見込んでおり、利益は21年以降で倍増した。一方で、作品は高い評価を受け、販売本数も過去最高水準を更新している。インターネット上では、質の高い作品を継続的に送り出していることに対し、ゲーマーから称賛の声が上がっている。

だが、カプコンも常に順調だったわけではない。2000年代の苦境は、アクティビスト投資が本格化する前のことだった。もし現在であれば、将来の成長に向けた再編に必要な猶予を得られただろうか。

ファンは、カプコンが人気シリーズを責任ある形で育ててきたことを高く評価している。それは、短期的な利益拡大のために一部で提唱されるマイクロトランザクション重視のモデルとは正反対の考え方だ。

日本のエンターテインメント業界には今後もさらに資本が流入するだろう。「日経エンタメ・コンテンツ株指数」の算出・公表も始まったばかりだ。

マリオをもっと高くジャンプさせることで短期的な利益を得ることはできるかもしれない。しかし、本当に賢い投資とは、どこまで収益化し、どこから収益化しないかを見極めることなのだ。

(リーディー・ガロウド氏はブルームバーグ・オピニオンのコラムニストで、日本と韓国、北朝鮮を担当しています。以前は北アジアのブレーキングニュースチームを率い、東京支局の副支局長でした。このコラムの内容は個人の意見で、必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの見解を反映するものではありません)

原題:Don’t Let Wall Street Crush Japan’s Soft Power: Gearoid Reidy(抜粋)

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