極右勢力が勝利する可能性のある来年4月のフランス大統領選を前に、欧州首脳は域内で最も影響力のあるポストの一つである欧州中央銀行(ECB)総裁人事について、判断を下す機会を得る可能性がある。大きな好機である一方、政治的リスクも伴う。

ECBはラガルド総裁が自身の去就を検討していると示唆した。英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)は、ラガルド氏が2027年10月までの任期満了前に退任して、フランスのマクロン大統領とドイツのメルツ首相が後任を選ぶ時間を確保できるよう、既に決断したと報じた。

Photographer: Simon Wohlfahrt/Bloomberg

この動きは、来年の仏大統領選で極右が勝利した場合に、ラガルド氏の後任人事に影響を及ぼすのを防ぐ狙いがあると見受けられる。

ただ、マリーヌ・ルペン氏が実質的に率いる国民連合(NR)がECBの運営の在り方を覆す方針を明確にしているとはいえ、重要ポストをコントロールし選挙結果の影響を回避するためのあからさまな工作は、中銀にとって危険な前例となりかねない。

キャピタル・エコノミクスの欧州担当チーフエコノミスト、アンドリュー・ケニンガム氏は「欧州の政治家は他地域と同様、自らが望む候補者を中銀トップに据えるためにルールを曲げたくなる誘惑に駆られている」と指摘。「それはECBが世界で最も独立性の高い中銀の一つであるというイメージを損なう」と論じた。

FRBの受難を意識

欧州の主要ポストの中でも、ECB総裁はとりわけ強い権限を持つ。ECBは21カ国、約3億5000万人を対象に政策金利を決定し、金融リスクを監視するとともに、世界第2位の準備通貨であるユーロの安定確保を目指している。

中銀の運営への干渉を巡る懸念は、この1年で強まっている。米国ではトランプ大統領がパウエル連邦準備制度理事会(FRB)議長を繰り返し批判し、大幅な利下げを求めている。

もっとも、欧州の政治家が予防策を講じようとする動きは裏目に出る恐れもある。

ブルームバーグ・エコノミクス(BE)のエコノミスト、デービッド・パウエル氏はブルームバーグテレビジョンで「ユーロ危機以降、ユーロ圏の多くの政治家が政策に不満を表明してきた」とし、「それらは概して無視され、脇役にとどまってきたが、そうした声が一段と強まる可能性がある」との見方を示した。

ルペン氏とバルデラ党首が率いるRNは世論調査で優勢を示している。バルデラ氏は、同党が政権を握ればフランスの財政問題に対処するため、ECBに量的緩和(QE)の再開を求める考えを示している。だが、それは中銀による政府の直接的なファイナンスを禁じる規則に違反することになる。

このような発言を踏まえれば、ECBを干渉から守ろうとする動きも意外ではない。ECB総裁はユーロ圏加盟国全体の中から選ばれるが、域内第2の経済規模を持つフランスは大きな影響力を持つ。これまでのECB総裁4人のうち、トリシェ、ラガルド両氏はフランス出身だ。

一方で、ベルリンのシンクタンク、ドイツ経済研究所(DIW)のマクロ経済部門トップ、アレクサンダー・クリボルツキー氏は、ラガルド氏の退任前倒しでも「問題ではない」と話す。

その上で、「独立した中銀の利益に反する利害を持つ大統領がフランスで誕生する前に、ECBの独立性を擁護する適任の後継者を選ぶ機会をつくるための先手の判断だ」と語った。

WEF会長職

ラガルド氏の早期退任を巡る臆測は、世界経済フォーラム(WEF)の会長職就任の可能性が取り沙汰された際にも浮上していた。

先月には、フランス銀行のビルロワドガロー総裁が任期途中で退任すると発表。これに伴い、マクロン氏は大統領選前に後任を指名する機会を得る。

仏銀行のビルロワドガロー総裁

ECB報道官はFT紙報道を受けた18日の声明で、ラガルド氏が「任期の終了に関していかなる決定も下していない」と説明した。これはラガルド氏が昨年、自らの任期を「全うする決意だ」と語った際に比べると、やや踏み込みが弱い印象を与える。

財政ファイナンスのリスク

ドイツ連邦銀行のナーゲル総裁は先週、中銀が財政目的を優先する場合の危険性について警鐘を鳴らした。トランプ氏による連邦準備制度への攻撃に言及した上で、それが成功すれば、「他国の政治家にとって青写真」になりかねないと警告した。

実際、中銀の独立性を擁護する声として、ラガルド氏は当局者の中でも最も強い発信を続けてきた1人だ。独立性がなければ制度は機能不全に陥り、その結果として混乱や不安定が生じると警告している。

1月には、パウエルFRB議長が大陪審への召喚状を司法省から受け取ったのを受けて、ラガルド氏は世界各国・地域の他の中銀トップと共に議長に連帯を示す共同声明を発表した経緯がある。

それでも、任期途中で退任することになれば、この共同声明で言及した法の支配や民主的説明責任などの原則を損ない、民主主義を迂回(うかい)する行為と受け止められる恐れもある。

ブルームバーグ・エコノミクスのパウエル氏は、選挙で選ばれていない中銀当局者が、自身の後任を決める政治家を選別しようとしていると、国民に受け止められれば、「政治的な中立性の主張は信じ難くなる恐れがある」と解説した。

原題:ECB Is Putting Independence at Risk With Lagarde Exit Maneuvers(抜粋)

--取材協力:Julius Domoney、Alexander Weber、Alessandra Migliaccio.

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