(ブルームバーグ):エヌビディアが人工知能(AI)半導体界の王者であることに、疑いの余地はない。同社のGPUはAIモデルの学習と実行を支配し、時価総額を一時4兆5000億ドル(約687兆円)に押し上げた。
しかし創業者や投資家の間では、王座転落への関心が高まっている。実験的な取り組みやエヌビディア支配へのヘッジ、さらに極めてタイトな需給環境下でチップを確保する手段として、動き始めた顧客もいる。
トレーディング会社ジャンプのアレックス・デイビーズ最高技術責任者(CTO)は「エヌビディアで学習と推論を行わない会社はほぼない。しかし業界は変わりつつあり、これが常態ではなくなるだろう」と述べた。ジャンプは今月、AI半導体スタートアップ(新興企業)ポジトロンの資金調達を共同主導し、顧客にもなっているという。「一強の時代は終わるだろう」と同氏は述べた。
特に学習後にモデルを動かす推論分野に商機があるとの指摘がある。エヌビディアのジェンスン・フアン最高経営責任者(CEO)自身も、その可能性を認めている。同社はAIハードウエアスタートアップのグロックの技術ライセンス取得と幹部採用に、約200億ドルを支払うことで合意した。
このほかにもセレブラスがOpenAIと結んだ100億ドル規模の契約や、アンソロピックが相次いでエヌビディア製ではないチップを採用しているのも好機の例に挙げられる。ブルームバーグが確認した社内メールによれば、サンバノバのロドリゴ・リアンCEOは「われわれを巡る会話は変わった」と述べた。
エヌビディアは高帯域幅メモリーで大規模計算を支える一方、一部のスタートアップは推論時の応答を速める別種のメモリーを模索している。
D-マトリックスのシド・シースCEOは、中国のDeepSeekが登場して以降、高速推論への関心が高まったと指摘する。マイクロソフトの出資を受けているD-マトリックスは、昨年11月に2億7500万ドルを調達。シース氏は「モデルは回答前に異なる可能性を検討する。そのプロセスのスピード化が求められている」と述べ、「思考と応答が速いほど、対話性能が高まる」と語った。
OpenAIは先日、セレブラスで稼働する初のモデルを公開した。アンソロピックはアマゾンの「トレイニウム」とグーグルの特定用途向け集積回路(TPU)採用を決定。マイクロソフトはAIチップ「マイア」の第2バージョンを発表した。
それでもエヌビディアが他を寄せ付けないリーダーであることに変わりはなく、今後もその優位性は続きそうだ。同社は多様な製品ラインアップを年一回全面刷新する方針だ。フアン氏はグロックとの契約が新たな推論チップにつながるかと問われ「他社にはないような何かを作る可能性はある」と応えた。D-マトリックスのシース氏は、エヌビディアが3月の会議で何かを発表すると予想している。
これまでに何度か、スタートアップや既存大手がエヌビディアに対する競争力があると主張することはあった。しかし少なくとも大規模な商業的成功例は見られない。アマゾンやグーグル、マイクロソフト、OpenAIなどの大手でさえ、自社製チップに取り組みながらも、依然として大量のエヌビディア製GPUを使用している。
それでも亀裂は見え始めている。その亀裂を十分に広げ、自社チップの大規模市場を築ける企業が現れるかどうかは、なお不透明だ。
ジャンプのデイビーズ氏は「業界の成長率を見れば、専用ハードウエアの登場は不可避だろう」と話す。「それは工学の歴史を通じて常に言えることだ。最初は汎用(はんよう)的なものから始まり、異例のペースで成長し、やがて1つでは足りないことに誰かが気づく」と語った。
原題:AI Chip Startups Dream of Taking On Nvidia: Tech In Depth(抜粋)
--取材協力:Ian King.
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