トランプ米大統領が金利について何を望んでいるかは明白だ。早期の大幅な利下げを求めている。次の連邦準備制度理事会(FRB)議長はその意向に応じる人物が就く公算が大きい。

一方で、トランプ氏や政権幹部がドル相場について何を期待しているかは明確ではなく、近く問題となるかもしれない。

トランプ氏は1月下旬、この1年のドル安についてどう考えるかと問われ、「素晴らしいことだと思う」と答えた。2期目のトランプ政権発足以後、ドルは貿易加重ベースで約10%下げ、2022年以来の安値を付けた。「ドルの価値については、われわれがどれだけの仕事をしているかを見れば分かる。ドルは非常に好調だ」と語った。

ベッセント財務長官は翌日、米国が円を支えるドル売り介入を実施しているとのうわさを否定せざるを得なかった。米国は「強いドル政策」を堅持していると強調しながら、トランプ氏の発言との整合性を図ろうとした。

米経済を世界で最も投資に適した場所にし続ければ、資本は流入し、ドルへの需要は高まるという。特定の為替レートを目標にすることは「誤った選択」で、重要なのは良好なファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)であり、とりわけ減税やより賢明な規制で、それを正しく実行すれば、ドルはおのずと安定するとの考えを示した。

パウエルFRB議長の後任に指名されているウォーシュ元FRB理事も、同じ認識のようだ。

同氏は10年、FRB理事として「米国はギリシャではない。われわれは世界最大かつ最も強靱(きょうじん)な経済を持つ。世界で最も厚みと流動性のある金融市場を有している。そしてドルは世界の準備通貨であり、われわれに重要な優位性をもたらしている。しかし、これらは生まれながらに与えられた権利ではない。勝ち取り、そして再び勝ち取らなければならない」と述べていた。

要するに、ドルの価値水準そのものについて明確な立場を取らず、ドルの地位に注意を向けるということだ。

マイラン氏の論文

ホワイトハウスの大統領経済諮問委員会(CEA)委員長を退いたマイランFRB理事のよく知られた論文は、競争力のあるドルと、別の意味での「強い」ドルとの違いを正面から論じた。

米国はドル安を誘導し貿易赤字を縮小させることができるとマイラン氏は指摘し、同時にドルの地位や、それに伴う「金融上の域外適用力」を守ることも可能だとした。

ドル安は輸出を押し上げ、輸入を抑制する。一方で、世界の金融インフラにおける中核的地位を守れば、ウォーシュ氏が言及した重要な利点、すなわち力を投射する能力を含む優位性は維持される。

どう両立させるのか。マイラン氏の答えは、米政府が利用可能なあらゆる手段を組み合わせることだ。懲罰的な関税を設定し、国内の生産者を保護するだけでなく、誰が主導権を握っているのかを示し、従わなければどうなるかを教える。「脱ドル」を画策するなら、壊滅的な関税を覚悟せよということだ。

関税は、幾つもある武器の一つに過ぎない。この多重戦略のいずれの側面にも資する他の手段もある。為替介入の活用だ。ベッセント氏が否定したような米国自らによる介入、あるいは米国の指示の下で他国が行う介入も想定される。ドルの地位を脅かす計画を始める国からの投資に課税することも考えられる。

昨年成立した「大きくて美しい」減税・歳出法に盛り込まれたいわゆる「報復税」は米国に不公正と見なされる税制を持つ国を対象としたが、後に棚上げされ、再導入の可能性が残された。

安全保障協力の撤回をちらつかせることも有効かもしれない。また、財務省とFRBの新たな連携により、公的債務の管理を通じてドルをコントロールすることも考えられる。この政策課題の一部はすでに実行に移されており、ベッセント氏とウォーシュ氏は新たな財務省・FRB「アコード」を検討している。

異なる優先課題

その具体像は明らかではない。ウォーシュ氏の発言からは、1951年のアコードを復活させ、金融・財政政策の線引きをより明確にすることでFRBの役割を狭めたい意向がうかがえる。

一方、マイラン氏が念頭に置いているのは、より統合に近い枠組みのように見える。財務省がドル安に誘導するために介入し、その結果として海外投資家が米国債を売却した場合、FRBが米国債を購入して長期金利の上昇を抑え込むという構図だ。

理論上、FRBは短期の政策金利を設定する上で「独立性」を維持することになるが、FRBのバランスシートはドル相場と国債の利回り曲線(イールドカーブ)の双方に責任を持つ財務省の裁量に委ねられる。

こうした説明がなされているにもかかわらず、金融市場はこのような連携について、FRBを物価抑制という本来の使命から逸脱させるものと受け止める恐れがある。これはウォーシュ氏が意図していると述べる方向とは正反対だ。

少なくとも、こうした点について一段の明確化が望まれる。しかし当面は期待できそうにない。ベッセント、ウォーシュ両氏はいずれも詳細に踏み込むことに消極的だ。そのこと自体は理解できる面もある。

2人が発言すれば、ホワイトハウスの声明との整合性を厳しく点検されることになるからだ。ドルや金利、関税、財政赤字など、トランプ氏が次のSNS投稿で何を言い出すか分からない状況に備え、トップクラスの政策担当者は発言内容を可能な限り空疎に保たざるを得ない。

トランプ時代の米国では、お世辞に次いで、曖昧な言い方こそが要人として最も重宝される資質となっている。

ベッセント氏は秩序ある国債発行や極端でない10年債利回り、安定した通貨を心から望んでいるに違いない。またウォーシュ氏は、中央銀行の(狭義の)独立性を重視し、インフレ抑制により重点を置くべきだと考えているだろう。

だが、こうした優先事項が衝突した場合、どうなるのか。実際にぶつかる可能性は十分にあるが、その行方は誰にも分からない。

両者には職業的な背景に多くの共通点があり、これらの問題について率直に議論してきたとみられる。ただ、2人が同じ考えだと当然視すべきではない。ましてや事態が悪化した場合に意見が一致し続けると考えるのは早計だ。

財務長官とFRB議長に対する評価の基準はそれぞれ異なる。ベッセント氏は財政の安定性で、ウォーシュ氏は物価情勢で判断される。圧力が強まれば、優先順位は分かれていく。

一方で、経済が失速した場合、つまり(意図的か否かは別として)ドル安が続き、利回りが上昇し、株式相場が値下がりし、インフレが再加速すれば、ホワイトハウスは少なくとも1人、場合によっては2人のスケープゴートを必要とするのは確実だ。

ドルが切り下げられ、基軸通貨の座を失うような事態になれば、ベッセント氏とウォーシュ氏の本音が明らかになるのかもしれない。

(クライブ・クルック氏はブルームバーグ・オピニオンのコラムニストおよび編集委員会のメンバーで、経済を担当しています。以前は英誌エコノミストの副編集長や英紙フィナンシャル・タイムズのワシントン在勤チーフコメンテーターを務めていました。このコラムの内容は個人の意見で、必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)

原題:Will Bessent or Warsh Be Scapegoat If Dollar Falls? Clive Crook(抜粋)

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