(ブルームバーグ):ラトニック米商務長官は、世界経済フォーラム(WEF)年次総会に出席するためスイス・ダボスに集まったエリートらに対し、トランプ政権はグローバリゼーションを「失敗した政策」と見なしており、それが米国を取り残したと考えていると語った。
その翌日、トランプ大統領は、自身の手柄と公言してやまない米株高について、過去最高水準から倍増すると予測した。この2人の発言の行間には、明確な緊張関係が潜んでいる。
米国株に対し、国外投資家は過去数年にわたり飽くなき需要を示し、トランプ氏が誇示する指標的な株価指数の最高値更新を大きく後押ししてきた。とりわけ欧州勢は旺盛な買い手だった。
トランプ氏は欧州への威嚇的な言動を和らげたものの、同地域を巡る強硬姿勢や軽視の態度が米国株の最大級の買い手の一部を市場から遠ざけかねないとの懸念がウォール街には残る。実際、その兆しは既に顕在化しつつある。
欧州最大の資産運用会社で、運用資産額が2兆3000億ユーロ(約420兆円)に上るアムンディのヴァンサン・モルティエ最高投資責任者(CIO)は、「米国から分散したいと考える顧客が増えている。2025年4月にその流れが始まり、先週はやや加速した」と述べた。
モルティエ氏は、こうした切り離しは最終的に「長期で複雑なプロセス」になるとし、顧客は主要ベンチマークからどのように離脱するのか、米ドルに対してどのようにヘッジするのかを見極める必要があると指摘した。
欧州の投資家は約10兆4000億ドル(約1602兆円)相当の米国株を保有している。このうち半分余りは、トランプ氏がデンマーク自治領グリーンランド問題に絡んで関税賦課を示唆した8カ国の投資家によるもので、こうした動きは20日に米S&P500種株価指数が2.1%下落する一因となった。

こうした数字を大きな文脈で捉えると、欧州の投資家は外国人が保有する米国株全体の49%を占めている。市場にとって脅威となりかねないほど大きな比率だと、スコシアバンクのポートフォリオ・クオンツ戦略担当ストラテジスト、ユーゴー・サントマリー氏はリポートで指摘した。
「分散の動きが加速すれば、時間の経過とともに米国株、債券、そしてドルの重しになると考えられる」とサントマリー氏はコメントした。
もっとも、欧州が足並みをそろえて米国資産を手放すことが可能であったり、そのようにしたいと考えたりする可能性は極めて低い。ウォール街への脅威は、少なくとも各国政府の行動にあるわけではない。
しかし、トランプ氏の脅しや侮辱的な発言が続く状況にあって、ロンドンやベルリン、マドリードなど各地の資産運用会社は米国資産の保有比率を少なくとも圧縮する方法について、顧客からの問い合わせをますます受けるようになっている。
そうした動きは長年にわたり、得策ではなかった。米国株が他の先進国市場を大きく上回るパフォーマンスを示してきたからだ。だが、トランプ氏の2期目就任以降、ドル安が進み、欧州各国政府が財政支出を拡大したことで状況は変わった。
昨年はストックス欧州600指数がドル建てで32%上昇し、東証株価指数(TOPIX)は23%高、韓国総合株価指数(KOSPI)は80%急伸した。一方、S&P500種は16%の上昇にとどまった。カナダのS&Pトロント総合指数は28%上昇し、S&P500を20年ぶりの大差でアウトパフォームした。しかも、これは為替効果を調整する前の数字だ。
ジョーンズトレーディング・インスティテューショナル・サービシズのチーフ市場トラテジスト、マイケル・オルーク氏は「もし自分が欧州の投資家だったら、『米国へのエクスポージャーは既にあり、他の地域にもっと機会がある』と言うだろう」と語った。
売却に踏み切れば、欧州の投資家にとって大きな転換点となる。米連邦準備制度理事会(FRB)が1月9日に公表した昨年9月時点までのデータによれば、欧州の米国資産保有は、購入と価格上昇の双方を背景に、過去3年間で91%増、金額では4兆9000億ドル増加した。直近のデータは、米連邦政府機関の閉鎖の影響で公表が遅れている。
約70億デンマーク・クローネ(約1715億円)を運用するグリーンランドの年金基金SISAペンションは、主に株式を中心に米国へのエクスポージャーはおよそ50%に上る。同基金の取締役会では米国株投資撤退の是非を議論している。これまでのところ、デンマークの職域年金基金アカデミカーペンションを含む年金基金が米国債投資から撤退する計画の一方、株式の売却はほとんどない。
好戦的な姿勢を崩さないトランプ氏は、協調的または大規模な投資引き揚げには「大きな報復」が伴うと警告し、金融面での制裁という脅しを堅持している。欧州の一部では、こうした脅しがもはや限界だと受け止められている。
ティケオー・キャピタルの資本市場戦略責任者ラファエル・チュアン氏は、「米国資産への大規模な資金流入が5年間続いた後、ドル安とドルの武器化が進む中で、分散は今やほとんどの機関投資家にとって最重要課題になっている」と指摘。こうした話題は欧州やアジアの顧客との間で頻繁に持ち上がっているという。
チュアン氏はさらに、「投資家が新たなサイクルに向けてポジションを組み替えるのに当たり、今年は欧州資産への配分が加速すると考えている」と語った。
欧州の買い手が米国株を敬遠することによる脅威は、現時点では限定的だ。それでも、過去の事例に照らして高いバリュエーションで取引されている市場にとって、リスク要因の一つが加わったことは確かだ。
ジュリアス・ベアの株式戦略責任者マチュー・ラシェター氏は「これは米国株や米国資産、特にドルに全てをさらすべきではない環境だ」と述べた。同社の運用資産額は5200億スイス・フラン(約103兆円)に上る。

トランプ氏の脅しに抗議する形で米国資産を売却した前例はある。同氏が昨年、カナダを「経済的な力」を使って51番目の州にすると発言後、同国では年金基金の運用担当者に対し、米国株の保有を減らすよう求める声が上がった。カーニー首相は今年のダボス会議で、かつて米国との金融統合に依存してきた国々は、トランプ氏がその相互依存関係を武器に変えた以上、再考を迫られていると述べた。
資産運用会社ティー・ロウ・プライスの世界マルチアセット責任者、セバスチャン・ページCIOは、経済学者に関税の影響を尋ねれば、輸出国に厳しいものになる、という答えが返ってくるが、「少なくとも金融市場で今起きているのは、ある意味でその逆だ」と指摘。「国内投資と貿易相手国の分散を促している」と話した。
これまでのところ、日次の上場投資信託(ETF)の資金フローデータを見る限り、外国人投資家による米国株式ファンドへの需要に「ほとんど変化はない」と、JPモルガン・チェースのニコラオス・パニグリツグルー氏率いるストラテジストは21日のリポートでコメントした。
ただ、今後数カ月で状況が変わる可能性はある。
エドモン・ドゥ・ロスチャイルド・アセット・マネジメントのベンジャミン・メルマンCIOは、「長期的には、米国の比重が今後見直される可能性を排除できない」と語る。
問題の根底にあるのは、米国がこれまで支持してきたルールに基づく国際秩序を放棄しつつあるように見受けられる点だと、金融アドバイザリー会社ペイスのラース・クリステンセン最高経営責任者(CEO)兼分析責任者は指摘する。この結果、投資家は将来にわたり米ドルや米国投資を信頼できなくなるという。
クリステンセン氏はX(旧ツイッター)への投稿で、「これは欧州が米国に対抗するという問題ではない」とし、「投資に当たって慎重であるかどうか、リスクを減らすかどうかの問題だ」と説明した。
原題:Wall Street Grapples With New Risk: A European Buyers’ Strike(抜粋)
--取材協力:Nick Heubeck、Stephanie Hughes、Matt Turner、Sagarika Jaisinghani.もっと読むにはこちら bloomberg.com/jp
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