全体では人口増も、地域ごとにバラつきが生じるうえ、新たな問題に直面するインド
インドについては、2023年にUNFPA(国連人口基金)が公表したデータにおいて、人口規模が中国を上回って世界1位になったとされた。
さらに、人口に占める若年層比率の高さも追い風に人口増加が続いており、2060年頃にピークを迎えると見込まれている。
なお、1960年代以前のインドにおいては、人口の爆発的な増加が資源や食糧の不足を招くことが懸念されたため、欧米や国際機関などが旗振り役となる形で避妊教育をはじめとする家族計画が積極的に推進された経緯がある。
これにより、1970年代以降のインドの出生率は全体として低下傾向を辿ってきた。
こうした動きに加え、近年の高い経済成長やそれに伴う都市化の進展なども追い風に、都市部を中心に女性の教育水準が向上し、それに伴い晩婚化が進んでいることも都市部における少子化を後押ししている。
さらに、かつてのインドでは、大家族による生活が前提となってきたものの、都市化の進展に伴い核家族化が進んでおり、家族単位における育児負担が高まっている。
また、近年の医療技術の発達を受けて都市部においては乳幼児死亡率が低下しており、多産の必要性が後退していることも、出生率そのものを押し下げる一因になっているとされる。
結果、都市部や南部、西部の州における合計特殊出生率は1.4~1.7程度に低下しているほか、首都デリーについては1.2と全国最低水準となるなど、インドにおいても地域的に少子化が進む動きが顕在化している。
一方、インドの北部や中部、東部など伝統的価値観が相対的に強いとされる地域では、女子に対する教育機会が依然として低く、そのことが就業率の低さを通じて社会進出の機会が乏しい。
そうした事情も影響して、結婚のタイミングが早いうえ、早産が慣行として残るとともに、社会保障の薄さも影響して子供の存在が老後の保障になりやすいとの観点から多産化する傾向が強い。
そのうえ、経済成長から取り残される状況が続くなかで衛生状態は依然悪く、乳幼児死亡率が相対的に高いほか、労働力を確保する観点から男児が好まれる傾向も相対的な多産を招いているとされる。
こうした地域においても、近年は合計特殊出生率が低下しているものの、依然として人口置換水準(2.1)を大きく上回るなど、人口の高い増勢が続く状況にある。
なお、インドでは人口規模に応じて、連邦議会の議席数や連邦政府から地方への交付金の配分が決定されており、連邦政府などの要請に応じる形で人口抑制に成功した南部の州のなかには、こうした取り組みが進まない北部や東部などに対する不満が高まっているとされる。
また、相対的に経済成長が進んでいる南部では労働力不足が問題となっており、北部などからの出稼ぎ労働者への依存が進んでいるが、言語や文化の違いを理由とする摩擦といった新たな問題も生じている。
インドの雇用を巡っては、非正規やインフォーマルセクターの割合が高く、社会保障制度が未整備なため、経済格差が地域間格差を深刻化させ、インド経済の構造的な問題となる可能性もある。
「課題先進国」である日本がアジアと共存することの意味を考える
こうした状況を勘案すれば、多くのアジア新興国が直面している状況は、かつて日本が経験してきたものに類するところが少なくない。
その意味では、各国が採り得る政策に、過去の日本の教訓を活かす余地も大きい。その先には、各国において日本企業がビジネスを展開する機会も生まれることが期待される。
日本においては、すでに労働力不足が経済成長の制約要因となる懸念が高まっており、若年層を中心に人口増加が期待される国々と協働する必要性を訴える声が少なくない。
ただし、前述したように、アジア新興国と一口にいっても、すでに日本を上回るペースで少子化が進んでいる国があるほか、国全体としては人口増加が続いているものの、地域ごとに人口の偏在が進むなど新たな課題に直面する国も存在する。
日本は、他の欧米諸国などと比べて地理的にアジア新興国と近いうえ、伝統的に経済的な結びつきを強めてきた経緯もあり、共存することへの心理的ハードルは相対的に低いと捉えられる。
とはいえ、インドにおいても、言語や文化の違いを理由に、国内の出稼ぎ労働者の間に摩擦が生じていることを勘案すれば、そうした障壁を正しく認識したうえで、あるべき政策を考えることの必要性は高い。
深刻な少子高齢化が着実に進む日本に残されている時間は決して多くはないが、こうした状況ゆえに、冷静に、かつ、検証可能なデータに基づく政策立案を進めることが望まれる。
※情報提供、記事執筆:第一生命経済研究所 経済調査部 主席エコノミスト 西濵 徹