(ブルームバーグ):米国はアジアでリーダーシップを発揮していると印象付けようとしている。しかし、実際に強い決意を示しているのは日本だ。
急速に軍事力を拡大する中国に毅然(きぜん)とした態度で臨むというメッセージこそ、インド太平洋地域が米国に求めているものだ。だが、それを実際に語ったのは、シンガポールのアジア安全保障会議(シャングリラ会合)で5月31日に壇上に立った小泉進次郎防衛相だった。
小泉氏は前日に演説したヘグセス米国防長官よりも率直で野心的なインド太平洋構想を示した。
「この地域は、われわれが共有するルールと原則を尊重する全ての国に開かれたままである必要がある」と、小泉防衛相は述べた。シャングリラ会合の参加者に向けたメッセージは明確だった。日本は地域の成長促進と安全保障強化のため、これまで以上の役割を担う用意があるというものだ。
日本はすでにフィリピンやオーストラリアなどとの防衛協力や情報共有、訓練を拡大している。また、米国とイスラエルによるイランとの戦争で原油価格が高騰する中、東南アジア諸国を支援するため、100億ドル(約1兆6000億円)の金融支援を行うことも明らかにしている。
中国は日本の存在感の高まりにたびたび反発し、戦時中の歴史や自ら経験した占領の記憶を持ち出して、日本の軍事力復活への警戒を呼びかけている。
小泉氏は演説で、中国を念頭に「核兵器と戦略爆撃機を大量に保有している国が、そのような兵器をいずれも持たない日本を『新型軍国主義』と呼ぶのはおかしい」と訴えた。
穏健な対中姿勢
こうした大胆さとは対照的に、ヘグセス長官は中国に対してより穏健な姿勢を示した。米中関係を巡り、「建設的戦略安定」との表現を繰り返した。これは、習近平国家主席がトランプ米大統領との先の首脳会談で打ち出した言葉だ。
さらに、ヘグセス氏は演説で、台湾への直接的な言及を避け、中国共産党系の環球時報がこうした点を称賛した。これは米国の政府高官が目指すべき成果ではない。
台湾を巡る発言は極めて抑制的だったと、カーネギー国際平和財団のアンキット・パンダ上級研究員は会議の合間に筆者に語った。「ヘグセス氏は、米中首脳の新たな友好関係を損ねるようなことはしないという考えで会合に臨んだ。実際、その方針から外れることはなかった」と話す。
筆者は長年にわたりこうした会議に出席してきた。過去の米政権もアジア政策で失策を犯したことはあったが、少なくとも共有された未来像を示そうとする試みはあった。だが、ヘグセス長官はそうではなかった。むしろ現実主義への回帰を訴え、地域諸国が自ら安全保障上の負担をより多く引き受けることを米が期待していると改めて示唆した。
米国のリーダーシップとは
ヘグセス長官が説明しなかったこと、そしてトランプ政権の誰も十分に答えていないことがある。それは、自らの負担増を求められる地域において、米国のリーダーシップとは具体的に何を意味するのかという点だ。アジア諸国が防衛費を増やしているとして、米国の安全保障上の後ろ盾を前提としているのか、それとも米国に頼れない将来に備えたものなのか。
ヘグセス氏の演説を聞いていた元外交官の1人は筆者に対し、「及第点だった」と語り、米国がまだ会議の場にいるだけでアジアは満足すべきだと述べた。だが、これほど地政学的な不確実性が強い局面において、「及第点」であることは決して優れていることを示しているわけではない。
多くの国は、台湾に関して踏み込んで語らなかったことが意味するところに、警戒感をひそかに抱くだろう。それは実利的な対応を超え、屈服に近い形で中国に歩み寄ることを示唆している可能性もあるからだ。
いら立つ中国
注目すべきことに、中国は2年連続で国防相をシャングリラ会合に派遣せず、代わりに格下の代表団を送った。中国の軍事的な振る舞いを公然と問題視し、インド太平洋地域の安全保障を共同の取り組みとして位置付け、中小規模国による連携強化の機運を主導しようとする小泉防衛相の姿勢は、中国からすれば現実的な脅威と映るだろう。
こうした動きは数年前から進められていたものだが、日本がインド太平洋地域の「望ましい安定化役」の地位を高める流れは、高市早苗首相の下で勢いを増している。
しかし、中国を本当にいら立たせているのは台湾を巡る高市首相の立場だ。高市氏は昨年、台湾有事に関して、集団的自衛権行使の対象となる「存立危機事態」になり得ると国会で答弁した。こうした認識はフィリピンをはじめとする地域の国々とも共有されている。
南シナ海での中国との衝突を念頭に置いた「悪質な企み」を抑止するという共通目標の下、フィリピンは台湾、ベトナム、日本との関係強化を模索していると、テオドロ国防相はシャングリラ会合に合わせてブルームバーグ・ニュースに語った。
米中の双方に不安を抱く他の国々も、テオドロ氏が「新たな防衛同盟」と呼ぶ枠組みに加わるようになるかもしれない。また、台湾有事への自国の脆弱(ぜいじゃく)性についても静かに検討を始めるべきだ。フィリピンに加え、タイやインドネシアには台湾で働く国民が多数おり、紛争が発生すれば難民となる可能性がある。
米国がアジアから撤退しつつあるというわけではない。米軍の存在感はなお大きく、同盟関係も強固だ。しかし時には、言いにくいこともあえて口にすることこそがリーダーシップだ。この週末、それを示したのは日本だった。
(カリシュマ・ヴァスワニ氏はブルームバーグ・オピニオンのコラムニストで、中国を中心にアジア政治を担当しています。以前は英BBC放送のアジア担当リードプレゼンテーターを務め、BBCで20年ほどアジアを取材していました。このコラムの内容は個人の意見で、必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの見解を反映するものではありません)
原題:Japan Is Stepping Up as Asia’s New Powerbroker: Karishma Vaswani(抜粋)
もっと読むにはこちら bloomberg.com/jp
©2026 Bloomberg L.P.