計算してみよう。米国の石油生産にカナダの分を足す。さらにベネズエラやメキシコ、アルゼンチンを加え、その周辺に位置する全ての中南米諸国も含める。ブラジル、ガイアナ、コロンビアもだ。

これはつまり、一段と好戦的になっている米政府が米州で影響を及ぼしている勢力圏で、世界の石油産出量のほぼ40%を占める。好むと好まざるとにかかわらず、どの国もトランプ米大統領が唱える「ドンロー主義」の下で生きている。

次に問題になるのは、米政権がその膨大な石油をどう扱うのかを、どのような言葉で表現するかだ。ベネズエラでの状況同様に直接支配を及ぼそうとするかもしれない。

あるいは、生産を監督し、影響力を行使し、その恩恵を享受するだけかもしれない。どんな言い方をするにせよ、トランプ氏は今、自分だけの石油帝国を手にした。

ここで言っているのは、開発に時間と資金を要する地下の埋蔵量ではなく、すでに市場へ流れ込んでいる石油のことだ。こうした資源を手にしたトランプ氏は、1940年代のフランクリン・D・ルーズベルト以来、米国のどの大統領も持ち得なかった経済・地政学上の影響力を手にした。国内および周辺国で、米国は広大な油田から豊富な石油資源を引き出せる。

ベネズエラの石油埋蔵量は世界一だ。そこに無制限にアクセスできる意味を、エネルギー・コモディティー業界に身を置く者であればすぐに理解できる。米国と敵対する勢力であれば、なおさらだ。

米国の制裁対象となっているロシアの新興エリート、オレグ・デリパスカ氏は3日、原油価格を1バレル=50ドル前後に保つ手段を米政府は持つことになると指摘。供給を絞って価格を押し上げようとする相手に対し、将来にわたり有利な立場に立てるというわけだ。

クレムリン(ロシア大統領府)のドミトリエフ経済特使も、ベネズエラで権力を掌握することは世界のエネルギー市場に対する「巨大なレバレッジ」だと論じた。

西半球の石油資源を事実上支配することは、地政学のゲームチェンジャーになる。何十年もの間、米国の軍事的冒険主義は、戦争がエネルギーコストに与える影響によって制約されてきた。

だが現在、ホワイトハウスは産油国の同盟国と敵対国の双方に対して優位に立っている。サウジアラビアであれイランであれ、ナイジェリアであれロシアであれ同じだ。

ここ1年半ほどの間に、こうした新たなエネルギー資産が米国の外交政策にとって何を意味するのかがすでに明らかになっている。トランプ政権は、以前であれば考えられなかった措置を講じてきた。

イラン核施設への爆撃や、ロシアの製油所への攻撃でのウクライナ支援などだ。ベネズエラのマドゥロ大統領拘束・連行は、石油がもはや米国防総省の行動を縛らなくなったときに何が起きるのかを示す、これまでで最も衝撃的な例だった。

米国の影響下

ベネズエラの石油を押さえることは、米国にもう一枚のカードを与える。数カ月にわたり、クレムリンはホワイトハウスに対し、ロシアの石油埋蔵量を誇示し、交渉を有利に運ぼうとしてきた。トランプ氏は今、プーチン大統領に対し、シベリアの油田は必要ないと言える。すでに十分過ぎるほど持っているからだ。

トランプ氏に全ての功績を帰すべきではない。大半でさえ、同氏の功績とは言えない。トランプ氏はたまたま時代に恵まれて米政権を率いているに過ぎない。

米国のシェール資源やカナダの重質油、ブラジルやガイアナなどでの油田発見により、米国の石油産業はトランプ氏がいなくても活況を呈していただろう。バイデン政権もオバマ政権も、その恩恵を受けてきた。

トランプ氏が成し遂げたのは、それら全ての石油を米国による安全保障の下にまとめ上げたことだ。米国の第5代大統領ジェームズ・モンロー(1758-1831)が中南米をホワイトハウスの勢力圏と宣言し、モンロー主義を打ち出してから200年以上がたつ。

トランプ氏はモンロー主義を21世紀版にアップデートしている。それが、半ば冗談めかしたドンロー主義という呼び名の由来だ。ドンロー主義は、その多くが天然資源に関わっている。

米国の新たな外交政策にとって、中南米の産油国はいずれも重要だが、ベネズエラという戦利品は別格だ。理由は現在の生産量にあるわけではない。日量約100万バレルと、ブラジルを大きく下回っている。重要なのは、かつての生産力だ。1970年のピーク時には日量370万バレル余りを産出しており、再びその水準に戻る可能性がある。

地質条件は整っている。ベネズエラの石油資源を解き放つのに必要なのは、資本と時間、そして努力だ。90年代には、ベネズエラ政府が生産量をまず日量500万バレル、その後、同650万バレルへ引き上げる計画を持っていた時期もあった。

だが、社会主義革命を唱えたチャベス政権の発足と、続くマドゥロ政権が、計画に終止符を打った。ベネズエラは再びその水準を目指せるのか。もちろん可能だ。では近いうちに達成できるのか。答えは明らかにノーだ。今後5年で実現するか。これも公算は小さい。

しかし、世界はベネズエラからの追加的な石油供給を、今年も来年も、2027年や28年でさえ必要としていない。必要になるのは30年代初頭だ。そしてその頃までに、トランプ氏の言う通りにベネズエラ政府が協調的に動くのであれば、同国の石油生産ははるかに高い水準に達している可能性がある。

トランプ氏が目指しているように見えるマドゥロ氏後の体制、すなわち同氏を副大統領として支え、暫定大統領になったデルシー・ロドリゲス氏が当面権力を引き継ぐ穏健な独裁体制、いわゆる「ディクタブランダ(dictablanda)」は、多くの点で米国の石油会社にとって都合がいい。

ロドリゲス氏はすでに一定の市場原理を導入することで、国内経済を安定させている。米国の攻撃に対する同氏の抗議は、ひとまず無視してよい。その多くは国内向けのものだ。

トランプ氏は明らかに、ロドリゲス氏に大きな期待を寄せている。3日の記者会見では、「世界最大級の米国の巨大石油会社が参入し、数十億ドルを投じ、ひどく壊れたインフラ、つまり石油インフラを修復し、国のために利益を生み出し始めることになる」と語った。数時間前には、FOXニュースとのインタビューで、米国はベネズエラの石油産業に「非常に強く関与する」とも述べている。

トランプ氏の発言は慎重に受け止める必要があると、これまでの経験から分かっている。だが政権2期目は、脅しにとどまらず、実際に多くを実行してきた。

米国がベネズエラの石油に関与すると言うなら、その言葉を額面通りに受け取るべきだろう。事業は、トランプ氏が宣言するほど壮大でも、収益性が高いものでもないかもしれない。

しかし、それは実現しないという意味ではない。ベネズエラの石油は今、アラスカからパタゴニアに至る広大な石油帝国の一部となった。その全てが米政府の影響下にある。

(ハビアー・ブラス氏は、エネルギーとコモディティーを担当するブルームバーグ・オピニオンのコラムニストです。このコラムの内容は必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)

原題:Trump Now Has His Very Own Oil Empire: Javier Blas(抜粋)

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