トランプ米大統領によるベネズエラへの奇襲は、中国の習近平国家主席に対し、台湾に類似の攻撃を実施する前例になったのではないかとの議論を呼んでいる。ただ、どちらにせよ中国政府にとってのリスクははるかに大きい。

トランプ氏はベネズエラに対して海上封鎖を実施し、マドゥロ大統領を電撃的に拘束したが、これは中国が台湾周辺で大規模演習を行ったわずか数日後の出来事だった。中国人民解放軍は、台湾の主要港湾や軍事基地、エネルギー供給網を包囲するシナリオを模擬した演習を実施したほか、台湾指導部への攻撃を想定した訓練も行っていた。

習主席にとって、台湾に対するいかなる軍事行動も、トランプ氏がベネズエラで行った措置とは比べものにならないほど高い代償を伴う可能性がある。米国が自国の勢力圏ともいえる南米で独裁者を電撃的に拘束しても、目立った報復は見られなかったのに対し、中国が台湾を奪取または封鎖しようとすれば、西側諸国による大規模な制裁に直面する公算が大きい。それは、ロシアがウクライナ侵攻後に受けた制裁と同様の形で実施されるとみられ、長引く不動産不況で既に揺らいでいる中国経済にとっては、さらに大きな打撃となる恐れがある。

人民解放軍の元上級大佐、清華大学戦略安全保障研究センターの上級研究員、周波(ジョウ・ボー)氏

さらに、トランプ氏によるベネズエラ産原油への封鎖措置は、同国最大の買い手である中国に大きな影響を与えている。一方、中国が台湾に対して行動を起こし、台湾が供給する世界最先端の半導体へのアクセスを断つような事態になれば、世界のサプライチェーン全体に深刻な混乱をもたらし、はるかに大規模な反発を招くことは避けられない。

元シンガポール外務次官のビラハリ・カウシカン氏はフェイスブックに投稿し、「中国は台湾に対して行動を起こした場合、国際社会が目立った反応を示さないと楽観視することはできない」と指摘。「中国の指導者についてどう考えようと、彼らはギャンブラーではない。その賭けの対象は、まさに中国共産党の正統性だ」と述べた。

習主席は人民解放軍の近代化を大きく進展させ、昨年にはロシアのプーチン大統領や北朝鮮の金正恩総書記を招いた北京での大規模な軍事パレードでその成果を誇示した。しかし、その刷新された人民解放軍はまだ実戦経験がない。

さらに中国は、台湾を巡る戦闘において、米国や日本、オーストラリア、韓国といった同盟国と戦う可能性も念頭に置く必要がある。高市早苗首相は最近、このシナリオに言及し、中国側の強い反発を招いた。

現時点で中国が示している対応からは、リスクの高い行動に出るのではなく、むしろ自国を「国際社会における安定の象徴」として演出しようとする姿勢がうかがえる。

マドゥロ大統領の拘束以降、初めて公の場で発言した習主席は5日、中国を「平和を愛し、開かれ、包摂的な」国家と表現した。この発言は、過去48時間にわたりコロンビアやキューバといった国の政権転覆にも言及してきたトランプ米政権の威嚇的な姿勢と鮮明な対比をなしている。これらの国はベネズエラ同様、米国への違法薬物流入と関係する麻薬カルテルとのつながりが指摘されている。

習主席は北京でアイルランドのマーティン首相と会談し、「現在の世界は混乱に満ちており、一方的ないじめが国際秩序に深刻な影響を及ぼしている」と述べた。そのうえで、各国に対し多国間主義を支持し、他国への武力行使を禁じた国連憲章の尊重を訴えた。

中国は台湾を必要なら武力で統一する方針を掲げているが、台湾を自国の領土と見なしており、国際法の対象外となる内政問題との立場をとっている。

全球化智庫(グローバル化シンクタンク/CCG)の副主任、高志凱(ビクター・ガオ)氏は米国のベネズエラ攻撃を批判

北京のシンクタンク、全球化智庫(グローバル化シンクタンク/CCG)の副主任、高志凱(ビクター・ガオ)氏は「中国は台湾との統一について、独自のタイムテーブルや論理、そして手法を持っていると思う」と発言。中国はトランプ氏の行動に振り回されることなく、自国のペースと論理に従って進めていくと述べた。

近年、中国はこの地域における軍事力強化を着実に進めてきた。2022年、ペロシ米下院議長(当時)の訪台に対する報復として台湾上空にミサイルを発射して以降、人民解放軍は台湾を取り囲む大規模軍事演習を6回実施している。いずれの演習でも中国は欧米の非難を意に介しておらず、今回の演習に対するトランプ政権の反応はとりわけ鈍かった。

南洋理工大学(NTU、シンガポール)のジェームズ・チャー准教授は、米国による外国指導者の「拉致」は、現在の国際情勢において「力こそ正義」という中国の見解をむしろ補強する結果になった可能性があると指摘した。

これまでのところ、米国の行動に対して先進国の多くの同盟国からは正面からの批判は聞かれない。多くの首脳はここ数カ月、米国との貿易協定をまとめ、経済を高関税から守るための協議に追われていたばかりで、その対応は控えめなものにとどまっている。一方で、ブラジルやチリなど、政権や国民が強い衝撃を受けた国からは懸念の声が上がっており、対応の違いが鮮明になっている。

カーネギー国際平和基金の上級研究員、趙通(トン・ジャオ)氏は、米国の攻撃を受けて国際的な規範が変化する中で、中国による軍事的威圧を批判するための道義的な立場の優位性にも陰りが見えてきたと指摘。「最近の米国の行動が国際社会に受け入れられる様子を見れば、台湾に対する行動も世界がより容易に受け入れるだろうと、中国が確信を深めるのはほぼ確実だ」と述べた。

台湾への攻撃が差し迫っている兆候は現時点で見られないものの、中国の専門家は、たび重なる軍事演習を通じて中国が着実に経験を蓄積しているとの自信を示している。

人民解放軍の元上級大佐で、清華大学戦略安全保障研究センターの上級研究員、周波(ジョウ・ボー)氏は「台湾海峡の現状が語られるが、私に言わせれば、静的な現状など存在しない」と述べた。さらに「挑発があるたび、そして人民解放軍が対応するたびに、その現状は不可逆的に変化し、中国本土側に有利な方向へ進んでいく」と語った。

原題:Xi Faces Higher Costs in Taiwan Than Trump Does in Venezuela(抜粋)

--取材協力:Philip Heijmans、Josh Xiao、Yian Lee.

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